宇都宮健児さんのインタビューから都知事選野党惨敗の原因と左翼陣営復活の可能性について考える
Posted at 16/08/06 PermaLink» Tweet
都知事選に過去二回立候補したものの、今回の知事選では鳥越氏に譲る形で立候補しなかった宇都宮健児さんがハフィントンポストのインタビューに答えた記事がとても興味深かったので、今日のブログではこの記事についてちょっと考えてみたいと。
私は基本的に宇都宮さんとは考えが違いますので立候補していても投票はしませんでしたが、鳥越さんよりは宇都宮さんに立候補してもらいたいと思っていました。この文章を読んでその「感じ方」は正しかったなと改めて思いました。
立候補取りやめの過程で宇都宮さんや市民運動の人たちに何が起こったか。7月11日に野党共闘という形で鳥越さんに決まると、政党に近い人たちも無党派の人たちも分裂と対立に巻き込まれてしまったのだそうです。
「撤退直前の選対事務局は電話・メールの7割くらいが「早く降りろ」「何をやってんだ」というもので、・・・降りたとたんに「何で応援に来ないんだ」に変わって行くわけです。」
今回は自民党都連が「党の候補以外を本人だけでなく家族が応援しても除名処分」という通知を出して批判を浴びましたが、野党陣営でも同じようなことがあったというのです。
宇都宮さんは弁護士ですから、「私は暴力団やヤミ金融を相手にしてきましたから比較的慣れているけど、純粋に市民運動を考えている人は心が痛むわけですよね。昨日まで一緒にやっていた人と別れて、そういう人からバッシングや誹謗中傷が浴びせられる。」
日本の左翼運動の体質は小林よしのりさんが「脱正義論」を書いたときから何も変わっていないんだなあと思わされます。
鳥越さんが統一候補となるために宇都宮さんが降りる際、批判されても政策協定を結んでおけば大義名分があると突っぱねられたけど、そういうものは出来なかった。だから結局、運動の中に分裂と感情的な対立が生まれることがこれからの運動によくない影響を与える、「運動をやめるのでなく都政を変える運動をこれまで以上に進めるための撤退だ」と言って納得してもらったのだそうです。
これを読むと、宇都宮さんとしてはずいぶん不本意な形での撤退だったことがよくわかります。
結局、鳥越さんを野党統一候補にしたのは政党側だけで、中でどういう議論をしているのか「私たちには見えなかった」と。政党が決めてそれを市民運動の側に押し付けてきた。与党が知名度頼みの選挙を二度やって結果猪瀬・升添と二度続けて途中辞任になった、そういう候補者選びを野党がやってしまった、と宇都宮さんはいう。それは女性スキャンダルをしかけられるような候補を立ててしまったことも言外に含んでいるのだと思います。
ここまでは、候補者選びの過程に対する強い批判。全くその通りだと思います。
後半は、運動の進め方についての批判、市民運動の側と左翼政党の側の両方に対する批判があります。
政治に取り組む人間には二つ、重要な課題があると言います。一つは権力を掌握すること、二つ目はその権力を使って政策を実行することです。これは、私に近い地方政治経験者の方から聞いた話で、全くその通りだなと思います。
権力を握らなければ自分のしたい政治・やりたい政策は実行できません。そのためには選挙で当選する必要があり、また代議制民主主義の仕組みでは、議会内で多数派を形成する必要があるわけです。権力は本来私利私欲のために政治家に与えられているものではなく、市民の負託にこたえるために与えられているものですから、まずはその資格を得ることが必要なわけです。
そして、政治が実行しなければならないさまざまな課題に対し、いろいろなアイディアを出し、それを実現させていくことが必要で、それがなければ政治家になる資格はないと言ってもいいでしょう。知名度やルックスではなく、その政策の中身が重視されることは当然のことです。
現代において、人々にそれをアピールする上で最も重要な媒体の一つがテレビだと宇都宮さんは言います。選挙演説に1万人集めてもそれは都民の有権者の0.1%に過ぎない。ネットで訴えても若者しか見ない。テレビであれば高齢者から若者まで、視聴率が10%なら1000万人が見る、というわけです。この計算は日本全体の計算になってますので都民にすれば100万人ということになりますが、それでも桁が違うのは指摘の通りです。しかし「市民連合」が推した候補は前回の細川さん、今回の鳥越さんとも、テレビ討論を何度もキャンセルし、与党側の候補に迫ることが出来なかった。
「堂々と小池さんや増田さんと論争して論破して行かないと、街頭宣伝で熱心にやってくれる人たちの票だけではとても勝てないんですよ。」
というのは、全くその通りだと思います。それは低い知名度ながらだんだんに運動の実績を積み上げて知られてきた宇都宮さんだから言える言葉で、細川さんや鳥越さんのように知名度に頼った候補はその重要性が全然わからなかったのだろうと思います。
それから、市民連合・野党側にとっては、候補者の選出過程もアピールポイントになる、つまり候補者選考過程が透明性や政策論議が担保されていれば、アピールできるというわけです。「もう決まりましたから従って」では全くアピールできないと。これも全くその通りだと思います。現に、アメリカ大統領選では民主党も共和党も候補者を一本化する前にあれだけの予備的な選出過程があるわけで、その中で魅力と政策を兼ね備えた候補が生き残っていくわけですから、まさによい見本だと思います。
大事なことは、「議会制民主主義がこの国のルールであること」をよくわかってない人が左翼陣営には多い、ということなのかもしれません。特に若い頃に革命を夢見た団塊世代の人や、反原発・反憲法改正の思想の人の中には反対と言えば直接行動だ、みたいな人が多く、彼らはまじめに選挙に取り組んでない感じがする。宇都宮さんが選挙のことを「選挙闘争」と呼んでるのはちょっと苦笑してしまいますが、つまり代議制民主主義の国である日本で政治において戦う土俵に乗るためには選挙で勝利するしかない、と言う当たり前のことを左翼の人たちにわかりやすく言っているに過ぎないのですね。でもそれを受け入れられない、受け入れたくない人たちがたくさんいるということなのでしょう。
しかしそれは、それこそ現実を見ていない。「議会制民主主義がこの国のルールだから、選挙をもっと何回も経験して、勝つための工夫が必要なんですね。これまでの市民運動はデモとか集会とかはよくやるけど、選挙闘争を保守の側と勝ち抜くための訓練が極めて弱いと思います。」最も至極です。
では、なぜ彼らは選挙に真摯に取り組まないのか。それは、デモや集会に比べて、選挙に真摯に取り組むことの方が何十倍も何百倍も大変だからだと思います。
これは宇都宮さんが言っていることではありませんが、特に重要なのは、左翼の人たちは自分たちの正義を批判されることがものすごく苦手だということだと思います。
「反原発」とか「反憲法改正」というのは、私は必ずしも賛成はしませんが、(原発に関しては違う電源開発にいずれは移行して行くべきだと思います。そのあたりは小泉さんや細川さんの意見には賛成です)それなりの正義はあると思います。しかしもちろん、それに賛成しない人だっている。そうなった時に、なぜ原発は廃止すべきなのか、憲法は改正してはならないのか、冷静に議論できる人がどれだけいるか。ツイッターを見ているだけで辟易するような議論が両陣営でなされていて、これは現状を変えようとする側がこういうことでは無理だろうなと思います。
デモや集会は自分たちと主張を同じくする人たちだけが集まって自分たちの正義を主張していればいいから気楽です。少しでも疑問をはさむ人がいれば糾弾して追い出せばいい。闘争はどんどん純化して先鋭化して行きます。しかし選挙はそう言うわけにはいかない。一人でも多くの賛同者を増やさなければいけない。選挙運動期間だけでそんなことは出来ませんから、普段から地道に学習し情報収集活動もし啓蒙活動もして行かなければならない。異論を唱える人があってもそれを受け入れて、議論を深めて行く度量を示さなければいけない。今の左翼運動に(まあ、昔からそうでしたが)そんなことが出来る懐の深さがあるとは思えません。
国政選挙において、国民が「何を重視して投票するかと言ったら景気、雇用、社会福祉が3割なんですよ。憲法とか原発は一桁台です。だから憲法問題を最前線に押し出して、ワンイシューで戦うというのはもともと敗北主義ですね。」という宇都宮さんの指摘はとても鋭いと思いました」。
まあ、それを考えると、「表現規制反対」のワンイシューで29万票を取った山田太郎さんはすごいとも言えますが、でも当選できなかった。ワンイシューで臨むのはよくて冒険主義、概ねは敗北主義であるというのはその通りだと思います。
ワンイシューで行ける、という幻想が生まれたのは、小泉純一郎元首相が「郵政民営化」一本槍で圧勝した2005年の衆院選の衝撃がいまだに色濃く残っているからだと思います。しかしあんなものは小泉さんというある種の天才が一世一代の大博打を打って初めて成功した例外中の例外であって、陣営内もまとめきれないていたらくの野党や市民運動が真似すべきものでは絶対ないと思いますし、そんなことをしていては保守の側を利するだけだと思います。
正直言うと、私はやはり左翼陣営では心もとないと思うので基本的には保守側に投票することが多いのですが、逆に左翼陣営、と言うか社会民主主義陣営が弱すぎると保守の方が増長して乱暴に話を進めるようになるし、正直疑問符がつくような制作を出して来るようになるので、健全な社会民主主義勢力の存在は日本には必須だと思うし、それが保守側のためにもなると思うのです。ですからそう言う意味で、宇都宮さんの言うことは非常にもっともだと思っています。
そして、市民運動の進むべき方向として、アメリカ大統領選に出馬したバーニー・サンダースの例を挙げています。バーニー・サンダースの自伝は、6月24日に大月書店から発売されています。
「選挙闘争を運動と位置づけて、無関心な人を教育して若者や低所得者層を組織して次の投票に向かわせる。その粘り強い運動が必要なんですね。バーニー・サンダースはそれを何十年もやって、共和党の牙城だったバーモント州で上院議員になるんだけど、たった一回の選挙で変えようと思ったらダメですよね。そのためにはもっと国民の考える課題に肉薄しなければいけないし、国民と一緒になって考える運動も大切。貧困と格差が深刻な問題になっているわけだから、護憲勢力や反原発勢力がそこを取り込めるようにならないと勝てないですよ。そこが抜け落ちているんですよ。」
これは全くその通りだと思うし、宇都宮さんの熱さが伝わって来る。返す返すも、今回立候補を取りやめたことは残念だったと思うが、左翼陣営が宇都宮さんが言っているような体たらくだったら、最初から無理だったということなんだろう。
「保守の人たちは盆踊りに行ったり地域の行事に顔を出したり、いろいろやっている」。これは全くそうで、普段からこまめに地域の声を聞いている、少なくとも聞いていると思わせている点で、左翼陣営は全く敵わない。野党はそれ以上のことをやらなければいけない、というのは当たり前だと思うし、でもそれは全然出来てない。まあ公民館活動を乗っ取るみたいなことは左翼側と日本会議とかがいろいろなところでしのぎを削ったりしているようだけど。でもそれは議会制民主主義の建前から言ったら邪道だと思う。
「鳥越さんを押し出して行くということであれば、勝ったあとも都議会傍聴を繰り返して、自公の抵抗や妨害を許さないと言う監視活動をやらないといけない。そう言う覚悟が全体として十分、準備されていなかった気がしますね」
そう、結局は覚悟の問題だったと思います。鳥越さんは「参院選の結果、改憲勢力が3分の2を取った。大変な危機感を抱いて、いても立ってもいられず出馬を決意した」というが、そんな神のお告げが下ったみたいな動機で場違いな地方選挙に出馬し、スキャンダルを起こされても言い訳も出来ないような人を押しだして、それでも4党共闘が出来てよかった、みたいなネジの外れたことを言ってる人たちでは、別の意味で覚悟を固めている政治的に何枚も上手の小池百合子さんを相手に勝てるはずがないと思います。
少なくとも、宇都宮健児さんなら、もっと小池さんに肉薄できたと思います。まあ、勝てなかったとは思いますが。ただ、鳥越さんの醜聞を嫌ったり、宇都宮さんの不出馬に憤慨して小池さんに入れた人たちの票は少なくとも小池さんには行かなかった。四党共闘が出来てよかったと自画自賛して惨敗もまともに総括できないような人たちは、民共共闘が形式的に成立したことよりももっと深刻な分裂が起こってしまっていることに目を向けるべきだと思います。なにしろ共産支持層の約2割が「右翼」と叩かれることさえある小池さんに投票したわけですからね。
自民党増田陣営の敗北の理由はまた違うところがありますが、左翼陣営惨敗の理由は、この宇都宮さんの総括にはっきり現れていると思ったのでした。
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