フランス大統領の専属理髪師が月給100万円、という話。
Posted at 16/07/14 PermaLink» Tweet
価値観としての生活スタイル。
BSワールドニュースを見ていたら、フランスのオランド大統領の専属理髪師の給料が月額約10000ユーロだと言うニュースがありました。日本円にしたら月給110万円だというのです。これは高額だ、という批判がある、という内容です。
ちょっと聞いたらとても高いと思いますよね。しかし、この理髪師は大統領の専属として24時間いつでも対応し、世界を飛び回る大統領に常に随行するため、自分の店を閉めてこの仕事をしているのだそうです。だから不当ではない、と大統領府は言うのですが、批判する側は「大統領府と一般とでは明らかな格差がある」と主張しているわけです。
オランド大統領の頭髪はそんなに多そうには見えないところがこの話の一つのミソだと思うのですが、この給料は高いのでしょうか?それとも安いのでしょうか。
ちなみに、前任のサルコジ元大統領は、専属のメーキャップ係を月額8000ユーロで雇っていたのだそうです。サルコジ氏の個性的な顔に専属のメーキャップ係がついていたとは、これを指摘するフランス2の記者もエスプリが利いています。
しかしこれは基本的におもしろ可笑しいニュースという感じで、だからといって問題にされている、ということは内容でした。週末に湯河原に公用車で通うだけで問題にされ、辞任に追い込まれた舛添さんのニュースと比べると、何か格の違いを感じさせる話です。
ちなみに舛添さんはもともと東大法学部卒と同時に大学院を飛び越えて法学部助手に採用された超エリートですし、パリ大学やジュネーブ国際大学院等フランス語圏の大学に留学していて、フランスの政治や外交に対する専門家でした。舛添さんの生徒だった人に聞いた話ですが、当時の舛添さんの自宅の留守番電話は日本語・英語・フランス語の三か国語で応対がなされていて公衆電話で10円でかけると用件を言う前に切れてしまう、と言われていました。批判された舛添さんの生活スタイルもフランス流を真似たところがあったのかもしれません。
フランスの政治家たちは、個人としても面白い。まあ、政治家だけではありませんが。これは安野モヨコさんの「鼻下長紳士回顧録」に出てくる男たちの生態を読んでいても「フランス人だなあ」と感じさせるものがあります。そしてそれを許容し、粋であると見なす文化がある。「フランスにはなぜ恋愛スキャンダルがないのか?」という本がありますが、その中にミッテラン元大統領の愛人の話が出てきます。その愛人との間に出来た娘が成人した時に、記者がそのことを尋ねると、「時々会って食事をしているよ」と答え、記者もそれ以上突っ込まなかったのだそうです。「それが何か?」という感じですね。個人として尊重される、というのはそういうことだと思います。それをスキャンダルとせずに、その個人としての生き方と認める、ということです。
それに比べると、日本では政治家たちは嫉妬深く政敵のスキャンダルを狙っていつでも足を引っ張ろうとしていますし、官僚はそこで情報をリークして得点を稼いで政治家を裏から操ろうとする。お山の大将みたいな小ボスが跋扈し、マスコミは大衆のゲスな欲望に奉仕するために少し有名な個人にコバンザメのように食らいついて相手が泣き言を言っても放さない。「個人の尊重」など夢また夢の話です。
しかしまあ、それは逆に言えば食らいつかれる「個人」、「政治家」の方がタフさに欠けるという面もあるわけですね。
タフさでしぶとく生き残った人と言えば、芸能人で言えば例えば勝新太郎さん。パンツの中から大麻が発見されて逮捕されたとき、聞かれて答えたのが「もう二度とパンツははきません」と答えたのが有名ですね。他にも明石家さんまさんなど、修羅場に強い人というのはいるようです。
政治家で自分のスタイルを貫いた人と言えば、思い出されるのは例えば吉田茂元首相。その政治的評価はさておき、現在の日本のあり方をかなりの部分規定したのが彼の政治だったわけですが、彼もまた首相になってからも自分が気に入っていた外相官邸(今はありません)に住み続けたり、葉巻をくわえソフトを被るなどの独特なスタイルに、冬にコートを着て演説をしていて着るものもろくにない戦後の聴衆から「外套を脱げ!」の声がかかると「これが本当のガイトウ演説」と答えて混ぜっ返したとか、大磯に移ってから道路の渋滞があまりに酷いことに業を煮やして新しい道路が造った(ワンマン道路と呼ばれています)とか、いろいろなエピソードが残っています。
現代の政治家で言えば石原慎太郎元都知事でしょうか。猪瀬・舛添と二代続けて途中退場した都知事ですが、その先鞭を付けたのが石原さんで、国政に復帰するために都知事を途中辞職しました。新銀行東京の失敗などで東京都に多額の損失を与えたのはどうかと思いますし尖閣問題で民主党政権を焦らせて中国との間をこじらせるきっかけを作ったなどマイナス面もある(というかこれは民主党政権が対応を誤ったと言うべきですが)わけですが、週三日しか登庁せず後は作家活動を続けていたとか、作家的美意識がなければ自分が政治をやる理由はないと三島由紀夫に言ったとか、やはり石原さんならではのエピソードにも事欠きません。
いずれにしても相当なタフさと、マスコミを黙らせる力量のようなものがないと、日本では自分のスタイルを貫くことは難しいのが現状ですね。
日本では政治家に対して「価値観としての生活スタイル」のようなものを求めていない、というか「価値観としての生活スタイル」を持っているのが「大人」だとすれば、「大人の政治」を求めていないんじゃないかという感じがします。
しかし、どう言う政治家が生き残って行くかと言うと、結局はそういうスタイルを持っている政治家ではないか。安倍さんが総理大臣として生き残って来ているのは、一つには奥さんの昭恵さんが自分のスタイルで行動しているのを許容している、という部分があると思います。そこに懐の深さがある。昔の政治家のように女性関係が派手なことを誇る、という生活スタイルとは真逆ですが、難病に取り付かれた安倍さんを支え続けて復活させた昭恵さんを本当に信頼している仲のよさは、政権自体の安定感を象徴しているように思えます。
天皇陛下が譲位を示唆されるなど、日本もこれから大変な時期を迎える予感に満ちていますが、いたずらに周囲に翻弄されることなく、自分の「価値観としての生活スタイル」を守りつつ、この大変な時期を乗り切って行く政治家に出て来てもらいたいと思いますし、また私たちひとりひとりも、そういうスタイルで生きて行きたいものだと思いました。
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