「中くらいであること」と、そういう人にしか出来ないこと。
Posted at 16/06/15 PermaLink» Tweet
「中くらいであること」と、そういう人にしか出来ないこと。
自分の取り柄という物を考えてみる。世の中には、多くの専門家がいる。その道一筋で、何十年もやっているから、人には追随の出来ないことが出来るようになっている。すごいことだと思う。
若い頃はほら吹きのように思われていて、有言実行、すごいお金持ちになった人もいる。すごいと思う。あるいは逆に、かつかつで暮らしながら自分の人生を楽しんでいる人もいる。そういう人も、すごいと思う。
政治的に先鋭な意見を持ち、何か事があると突っ込んで行く人がいる。すごいと思う。あるいは、人を癒し、人を奮い起こすことに天稟を持ち、神の手のような技術を持つ人もいる。素晴らしく美しく装う人もいれば、占いで名をなしている人もいる。それぞれみな、すごいと思う。
逆の人もいる。何をやっても失敗続き。気の毒だと思うが何もしてあげられない。負の連鎖を受け、なかなかそこから抜け出せない。そういう人たちに対して、何も出来ない。自分の力足らずにほぞを噛む思いをすることも多い。
人をうらやんだり、自分はまだましと思ったり。私はあまりそういう感情はない方だが、それに苦しめられる人も多いだろうとは思う。
色々なこと、いろいろな人をみていると、自分は「中くらい」なんだと思う。色々なことに興味はあっても、そのことにずっと興味を持ち続ける才能があるわけではない。一つや二つ、平均よりは出来るということがあっても、その分野で第一人者であるわけではない。世の中には、ものすごく能力の高い人もいれば、びっくりするくらい能力の低い人もいる。
何となく自分なりにはセンスがいいだろうと思うものを選んでみても、圧倒的なセンスの差を感じさせられるすごい感覚の人はいくらでもいる。かと思えば、それはないだろうと思うようなものばかり身につけている人もいる。そういう人だっていくらでもいる。
ものすごく人情に溢れていて、とても真似できないなと思うくらい親身になって人に接する人もいれば、それはないんじゃない、と思うくらい冷たい人もいる。そんなことについても中くらいだ。上から下まで本当に限りがない。
色々なこと、いろいろな人をみていると、本当に自分はすべてにおいて「中くらい」なんだなと思う。密かに自信を持っていることはあっても、それを表に出せるとは限らない。そんなふうに運がいい悪いということに関しても、やはり自分は中くらいなんだなと思う。
下を見れば限りなく、上を見れば限りない。「恵まれてると思わないといけない」という言葉はよく言われるが、小学校から慶應みたいな人を見ていると、恵まれてるにもほどがある、と思う場合もある。そういう意味でも、本当に中くらいなんだなと思う。まあ、小学校から慶應で本当に幸せかということはわからないので、まあ例に過ぎないんだけど。
で、私の場合、東京にいたり長野県にいたりして、東京人なんだか地方人なんだかわからない。その意味でも中くらいだなと思う。
でも。
でも、「中くらいである人にしか出来ないこと」というのもあるんじゃないかと思う。それは、「中くらいの場所」が一番世界が良く見える、ということではないかと思う。上の人には下の人のことは見えない。想像もできない。下の人には上の世界は見えない。本当に想像もできない。東京の人は地方のことを知らないし、地方の人は東京のことを表面的にしか知らない。どっちも見える位置に、自分はいるんだなと思う。
その「中くらいであること」を、私は長い間「中途半端だ」とマイナスに考えていた。というか、「中くらいだな自分は」と思うのではなく、「中途半端だ、オレは」と自分disの要素にしていたなあと思う。
世の中、専門家が強い。専門を背負って発言することで、説得力が生まれる。自分にそんな強い専門性はない、と言うか専門と言えるものはないでもないけど、それ以上にそれが出来る人はいくらでもいる。中くらいなのである。
私も人並みにはプライドがあるので、自分を「中途半端だ」と思うことは辛いことだ。しかし、何かに徹してそれに没入する、人生にそれを賭けるということが出来ない自分がいる。飽きてしまうのだ、致命的に。特に知識と技術が伴わないことについてそれに賭けるのは難しい。結局は、今まで身につけて来た知識と技術に頼って生計を立て、活動をしている。
強い個性を持つ人に魅かれ、そういう人と付き合って来ても、そんなに長くは続かない。今でもツイッターでは、やはり強い個性を持つ、強い、気の利いた、センスのいい、論理が鋭い、というような表現の出来る人のアカウントをフォローする。暫く感心して読んでいても、そのうち自分との距離が見えて来て、離れたり、付かず離れずの距離になったりする。
強い個性を持つ人の元に飛び込むのが上手い人がいる。私もそういう人の近くにいたことは何度かあるが、どちらかと言うと自分で飛び込んだというよりは、巻き込まれたという感じのことが多い。それはそれで面白いのだけど、自分を巻き込んだ張本人がいつの間にかそこからいなくなってるのに、自分はなんとかそこに順応し、活動し、で、またその中心から距離を感じて離れたりする、というようなことになることが多い。
その分いろいろな世界をのぞき見てきたと言う気持ちはあるが、何か強い自分の人生の指針がそこで得られたというわけでもないわけだ。
でも、そういう個性もあるのだと思う。
自分の取り柄は何だろう、と自分の人生をさかのぼって考えたとき、結局は「素直な身体性と素直な知性」なんじゃないかと思った。それが曇っているときも多々あったし、今でも万全とはいえないけど、いろいろな人、いろいろなものを素直に、ないしは柔軟に受け入れ、素直に印象を持ち、的確に評価して的確に対応する。それもまあいつも出来るわけではないけど、基本的にそんなところにしか自分の持ち味はないんじゃないかと思った。まあそれは逆にいえば、飽きっぽいということでもあるのだが。
柔軟さ、素直さというのはある意味強さの反対だ。一つのことに人生を賭けられる強さとは対極にある。豊かなバイタリティを持って非常に有能に物事をこなして行く人に比べると、身体弱いなと思う。
しかし、強い人には見えない、感じられないことを感じることは出来るし、それに対して繊細に対応することは多分そんなに苦手ではない。人は年をとれば必ず弱くなって行くわけだから、若い頃から自分自身に繊細に対応できることは年をとってからの予行演習として、意味のないことではないと思う。
「中くらいである」ことによってしか出来ないことはあると思う。
上も見えるし下も見えるから上の人に下のことを発信し、下の人に上のことを発信することも出来る。強い信念、逆に言えば凝り固まった政治的意見を持っているわけではないから、柔軟に批判することが出来る。「中くらいであること」によってしか出来ないことだと思う。
そして例えば、私たちの世界を成り立たせている「民主主義」と言うものは、「中くらいの人たち」によって作られ、守られ、支えられて来たものだと思う。リーダーは強い個性を持った人は多いけど、驚くくらい柔軟な感受性を持ってることが多い。「中庸」というのは正に「中くらい」ということで、極端な人を基準にしては、「民主主義」は動いて行かない。だから、中くらいの人は特に、もっと民主主義とか立憲主義とか憲法とかそんなものを勉強してみるといいと思う。無味乾燥な教科書の記述や声高な政治的スローガンではない、もっと静かな叡智に満ちた仕組みが、そこに見えて来ると思う。まあ私も、つい最近そこに気づいたようなものなのだけど。
「中くらいである」ことは「中途半端である」こととは違う。専門性に凝り固まった人には見えない、自由で柔軟な姿勢でものを見ることが出来る。だから、自分にしか見えないものを、人に発信して行くべきだと思う。人は往々にして、あまりにも普通のことには気がつかないものだし、中くらいだからこそ見えることは、強い専門性を持つ人たちに取っては実は新鮮であることも多いのだ。
「中くらいであること」にプライドを持つのは難しいかもしれない。でも、中くらいであることによって見えることを発信して行くことは、中くらいの人にしか出来ないことなのだ。
誰もまだ見ていない、自分にしか見えないことを発信して行く——それ以上に素晴らしいことは、他にないかもしれない。
そんなことを考えた。中くらいだなあ、ということに残念さを感じている人に共有されて、元気を出してもらえると、日本はもっといい国になるんじゃないかなと思う。
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