楽しむ人には敵わない
Posted at 16/06/14 PermaLink» Tweet
昨日書いたエントリに関連し、専門と教養と娯楽ということについて考えていたのだけど、ふと専門家と言うのは「知っている人」であり、娯楽として享受する人は「楽しむ人」ではないかと思いついて、あの論語の孔子の言葉を思い出した。
「これを知るものはこれを好むものに如かず。これを好むものはこれを楽しむものに如かず。」(『論語』雍也第六)
「これ」とは何かと言うことを、論語では明示していない。しかし「これ」は知り、好み、楽しむことが出来るものであるようだ。何か「もの」かもしれないし、何かのジャンルや分野、「こと」かも知れない。
「人の営みに関する何か」であると考えてもいい。
「これを知る者(専門家)はこれを好むもの(学ぶ人・教養人)に敵わない。これを好む者はこれを楽しむもの(娯楽とするもの)に敵わない。」
これは、「専門家は誰よりもその仕事に関することを楽しまないといけない」(マンガ家は多分誰よりもマンガを読んでる)と言うこととも考えられるが、「専門家はそれを楽しんでる人たちには敵わない」(特にツイート数などで・笑)と言うことでもあるかもしれない。
孔子がこれを言ったのは、知識としてたとえば礼楽(話が面倒だから「音楽」でもいいと思う)を知って教えている人よりも、それを好んで一生懸命に身につけようとしている人たちには敵わないし、さらにはその礼楽や音楽の何たるかも知らずに、ただ面白がって楽しんでる子どもたちには敵わない、と思ったのではないだろうか。
孔子はおそらく、専門家は、専門家としての矜持は持つべきだというだろう。そして、専門家として強く主張しなければならないときは強く主張するべきだと。しかし、専門だからと言ってその主張を周りの人に押し付け、純粋に楽しんでる人たちをしゅんとさせて専門家として威張っている人を見ると、違うんだよなあ、そうじゃないんだよなあと思ったのではないか。
ツイッターでもどこでもそうだけど、専門家の言うことを聞けとばかりに荒ぶってる人を見てるとどうもなあと思うし、物腰柔らかくずばっと腑に落ちるようなことを言ってくれる専門家はさすがだなあと関心する。専門知が自分のためでなく、みんなのため(公のため)にあると言うことをわきまえている、と感じられるからだ。
「知之者、不如好之者。 好之者、不如楽之者」。これは孔子の、弟子たち、つまり専門家たちの「驕り」「気負い」への警鐘のようなものではないかという気がした。
ここでは、知ること=専門・職業、好むこと=学習・教養、楽しむこと=娯楽・遊戯、みたいな構図が成り立つ。
昨日のエントリの関連でいえば、歴史を題材にした作品を専門的見地から検証する「知るもの」は、そこから人生の教訓を引き出したり人生の哀歓を知ったりする「好むもの」に如かず、またそういう人たちも、その作品を純粋に楽しむ人たちには敵わない、と言うことになるだろうか。
これは歴史小説に限らず、例えば環境運動家や女性運動家などの「専門家」が人々の考え方を「強制的に矯正」しようとしたりしてるのを見てると、やっぱそれは傲慢なんじゃないの、と言うことでもあると思うし、そういうことに対する違和感みたいなのが、実はこの言葉の本質なんじゃないかと思ったのだった。
まあ専門しか拠り所がない人がここぞとばかりに威張ろうとするのは気持ちとしてはわからなくはないけど、みっともなくは見えるんですよ、ということは言ってあげたい。
楽しむことが、人が生きる上で一番大切な力なんだ、ということは、忘れがちだけど忘れてはならないのだと思った。
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