おがきちかさんの「Landreaall」(ランドリオール)第158話「天使じゃない」を読みました。
Posted at 16/06/30 PermaLink» Tweet
いろいろと味わい深かったです。
前回も書きましたが、8月号のランドリは2本だて。1本めの157.5話「狼と兎のキャラバン」の感想は前回書きましたので、今回は2話めの158話「天使じゃない」の感想を書きたいと思います。
前半の「狼と兎のキャラバン」は主に21巻の内容の大団円という形のもの。このエピソードの主要登場人物の初出(ずっと出ているライナスとルーディーはのぞいて)で言えば、10巻に出て来たクレッサール人の運び屋・イプカの話から始まるものでした。
後半の「天使じゃない」は主にクレッサール編に入ってからの話の帰結ですが、登場人物としては6巻に出て来た、そもそものクレッサールの話の始まり、葛焚の呪い師が出てきます。本当に長大巨編だなあと思います。
ランドリのような長大巨編には「ガイドブック」があるといいなあと思いますが、とりあえず自分に必要な情報を整理しながらこのブログを書いてます。私の主観は入っていますし見落としや勘違いもあると思うのでご参考になるかどうかはわからないのですが・・・
158話はセンターカラーの扉絵から始まります。扉絵は割と抽象的な絵柄で、何を意味しているのかよくわかりませんでした。フードを被っていてクレッサール風のDXです。めくると28巻の予告。鎖をかけられ囚われの身の姿の若いクエンティンと、竜創を発動させている姿のDX。竜創かっこいいですね。この絵は好きです。
物語はクエンティンの居城、26巻142話で出て来た「化石」のようなものが並べられている場所。これを、ユージェニは侍女アイシャに扮していたイオンに説明していました。その場所にDXが「変な気配がする」と言ってやって来たのです。DXが獣の角のようなもの、それに骨のようなものに触ると、ぱちっと火花のようなものが飛びます。26巻でユージェニがアイシャにこれを「沙・・・」と言っていたものです。
それを見たバハルは驚き、「そいつは沙竜(サリ)だ!」と叫びます。
「沙竜」とは、クレッサールではとても重要なものなのですね。26巻141話でチレクが六甲に説明しているところでいえば、「クレッサールの部族が成り立つには、古の竜の加護を得るアイコンが必要で、それを奉って集落をつくる」、そのアイコンこそが「沙竜」なのですね。ですから沙竜が失われれば、その部族は流民になるしかない。27巻でリゲインたちをクエンティンに貰い受けた砂漠の「元部族」も、「砂嵐の神の加護を受けた」ルッカフォート将軍を生け贄に捧げることで、沙竜の宣託を受け部族を再興する、ことを考えていました。一つのまとまった集団として生きて行くためには、沙竜は欠くべからざるものなのですね。
そこに、「葛焚」の呪い師が現れます。この呪い師は6巻でDXを呪い殺すためにDXの反対勢力のタリオ夫人に雇われていた、子どもの姿をした呪い師です。「竜創が戻っている」と彼(男女不明ですが)は言います。「曲鳴(まななり)」の里が滅びて砂脈が狂ったため、ケガレが広がらないように封印して歩いていたところにチレクたちと出会い、ともにクエンティンの砦にやって来たと言います。
この「曲鳴」という部族は「葛焚」と同じように呪いをする部族ですがよくないことをしていて、20年前の戦争の際にクエンティンを奴隷として買って呪いの「魂の緒(エコー)」として使い、散々に痛めつけていたのですが、リルアーナが「七つの涙をこぼす羽根」の髪飾りと引き換えにクエンティンを救い出した、というエピソードがありました。そして24巻で再び現れたクエンティンによって曲鳴は滅ぼされ、髪飾りは取り戻された。その曲鳴の最後の呪い師はDXたちに砂漠のオアシス・メルシュカで救い出され、クエンティンと遭遇したあとユーハサン鎮守で姿を眩まし、その後リゲインたちを襲った盗賊たちの前に現れ、リゲインたちに加勢したあと、砂漠の中に消えて行った、というエピソードがありました。
「葛焚」の呪い師はそこにある呪いの量を感知して、「曲鳴」の「呪いの器(=魂の緒)」がたくさんいるな、と言いますが、DXは「一人」と答えます。たとえ「フースルー(念を詠む歌い手)」の天恵を持っていても呪いを詰め込みすぎると器が壊れる、と葛焚きいうのですが、実際には、それはクエンティンが一人で抱えていたものだったわけですね。そのことの重い意味。DXは目を伏せ、呪い師は無言です。
そこにバハルが割って入ります。その沙竜をどうした、と。イオンも口を出して、何日か前に見た時にはただのぼろい発掘品みたいだった角や骨が、どうして急に沙竜になったのかと。その疑問に「葛焚」が答えます。それは竜創のせいだ、と。竜創が発現したせいで沙竜が共鳴し、古の竜の加護と共鳴したために古い骨は再び沙竜として、竜脈の末梢に連なることになった、というのですね。
メイアンディアがDXの竜創を発現させたことは、(それもリドが竜創に「お守り」をかけてくれたからなのですが)DXたちを救っただけでなく、クレッサールの遺物に古の竜の力を蘇らせることに繋がったわけなのですね。
こうして見ると、「ランドリオール」は竜脈の物語としても読むことが出来るな、と思いました。
その沙竜を見てDXは考えます。なにかアイディアが浮かんだようです。
場面は変わって、「黒虹」の奴隷市場。DXがクエンティンの城を制圧するのを傭兵として手助けしていたボルカが、妻のナナンの元に帰ってきました。抱き合う二人。「ホントに戻ってきやがったよ」と驚く「黒虹」の支配者、奴隷商のカリファ。ボルカも傭兵たちも興奮状態です。その理由は、DXが「黒虹」に沙竜をくれたのです。それもポイッと。
これは黒虹にとっては大事件なのですね。つまり、黒虹は沙竜がないから「里」には出来なかった。カリファは26巻142話でDXに「カリファは本当の王様になればいいと思うよ」と言われ、「それが出来たら苦労しねーっつうの」と独り言を言ってましたが、つまりそれは沙竜がない、ということだったのですね。その沙竜が黒虹にもたらされた。
ボルカたちは、ここを里にしてくれ、沙竜があれば部族になることができる。カリファについて行く、と彼らは言います。カリファも呆然として「あいつ、何なの?天使なの?」とあらぬことを口走っています。
ここで表題の「天使じゃない」に繋がる、と言うかカリファのボケに対するツッコミになってるところが可笑しいなと思いました。
「ランドリオール」は異世界ファンタジーなのでそこで起こっている出来事はみな物語の中で説明されなければならないですし、主なストーリーのみを追って行ってはそこで起きている出来事がどういうことなのか消化不良になってしまうので、ときどきこういう風にサイドディッシュ的に設定とその顛末を説明するエピソードが必要になって来るわけですね。ストーリーが骨太に進行して行く回ももちろん楽しみなのですが、こういう細かいところの説明の、読んでいて楽しいです。
細かいところで言っても、まだメルメルさんとユージェニは再会していませんし、きっとタウスマルの守備隊長や玉階・オルタンスも現れることでしょう。いろいろと楽しみが残っています。
次回もまた、楽しみにしたいと思います。
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