「イギリスのEU離脱」は「20世紀的な理想の終わりのはじまり」か
Posted at 16/06/24 PermaLink» Tweet
イギリスのEU離脱か残留かを問う国民投票が行われ、離脱派が勝利したようです。
これは、「ヨーロッパ統合」と言う遠大な目標が、一歩遠ざかったことを意味するでしょう。
EUはもともと、ドイツとフランスの2大国が普仏戦争・第一次世界大戦・第二次世界大戦の対立関係を乗り越えて、ヨーロッパに平和をもたらす仕組みとして構想され、経済的な一体化から政治的な一体化へと進められて来た大事業です。
イギリスはもともと慎重な姿勢を保ち、EUでの通貨統合後も独自の通貨を維持し続けていました。
イギリスだけでなく、EUの中央官僚にローカルな政治に対する配慮が欠けることはずっと非難の対象になってきましたが、今回亀裂を決定づけたのが、深刻さを増す移民問題でした。
シリアを初めとして、イラク・アフガニスタン・リビア・ソマリアなどの難民・移民たちはトルコや地中海を経由してEU域内を目指しましたが、最終的なゴールをイギリスに設定している人が多いようです。
しかし、EUの問題はマイナスの側面、移民問題だけではありません。プラスの側面も経済的な側面を中心に大きくあります。大企業の多くはEU残留を支持し、またイギリス国内での埋没を相対的に防ぐため、スコットランドでは残留派が多数でした。主に都市と若者が残留派が強く、地方と年配者が離脱派に回ったわけです。
EUの枠組みの中で沈静化していた北アイルランド問題も再燃する可能性が出てきましたし、スコットランドが再度連合王国を離脱する可能性も出てきました。EUはいろいろな意味で、イギリスにとっては国内問題を悪化させないための沈静化装置として働いて来たわけですが、移民・難民の破滅的な決壊現象により、すべてが狂わされたということになるようです。
イギリスがEUから離脱すると言って、移民・難民問題は解決するわけではありませんし、EUの他の国の中からも移民受け入れに反対する声はどんどん高くなるでしょう。そのときに独仏などEUの中心となって来た諸国がどう動くかはまだわかりません。しかし、ドイツのメルケル首相も少数の国ではなく、EU加盟のすべての国の話し合いで決めると言っているように、東欧の新加盟国に強い移民受け入れへの反発を考えると、EU全体の方針が変わる可能性もあると思います。
そうなると諸国間で対立しているシリア内戦の解決への道筋が、更に焦眉の急の問題になって来るかもしれません。
日本への影響も無視できません。離脱派勝利の報を受けて、一気に円高が加速し、ドル円は一時100円を切りました。ユーロ、ポンドも暴落が続いているようです。日経平均株価は一気に下落して15000円を割り込んでいますし、はからずも安倍首相が伊勢志摩サミットで発言した「リーマンショック前の状態」に近い感じになって来てしまいました。消費税を上げないで本当によかったと思います。
ヨーロッパ情勢・中東情勢が不安定になると、世界が一気に不安定化し、そこに漁父の利を狙う勢力が蠢動しないとも限りません。日本は経済的な不安定かをどう防ぐかと言った側面だけでなく、安全保障上の問題にも配慮する必要がありそうです。
今年は2016年。第一次世界大戦が始まり、世界が新しいフェーズに入ったのは1914年のことでした。歴史家のエリック・ホブズボームは1914年からソ連が崩壊した1991年までを極端の世紀=短い20世紀と呼びましたが、今となってはこの出来事が新しい歴史のメルクマールになる可能性もあります。ソ連崩壊をメルクマールとしたのは社会主義者であるホブズボームにとっては当然だったと思いますが、EUの理想はある意味20世紀的なものでしたから、このEU崩壊の序曲的な「イギリスのEU離脱」は、20世紀的な理想の終わりのはじまりという意味で、ここから新しい時代が始まるという可能性もなきにしもあらずではないかと感じています。
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