「真田丸」の秀吉は今までにない秀吉でした。
Posted at 16/04/18 PermaLink» Tweet
「真田丸」の秀吉は今までにない秀吉でした。
2016年の大河ドラマ「真田丸」、三谷幸喜さんの脚本と言うこともあり、当初から評判の高い作品でしたが、舞台が大坂に移り、いよいよ盛り上がってきました。
今までも、信長や家康は出てきていましたが、源次郎信繁(真田幸村)が最後まで生死を共にする豊臣氏の一族と出会うのは、これが初めて。どういう演出になるか、楽しみでした。
地方の大名を扱った大河はいつもそうなのですが、地元のライバルのような人たちは興味深いけれどもやはり全国区の華やかさがない。今回の大河でいえば室賀正武ですね。「独眼竜政宗」のときの最上義光などもそうです。
しかし、戦国時代を舞台にした大河ドラマと言えば、やはり信長、秀吉、家康と言うことになります。今回は初期からことごとに真田昌幸と対立する家康がじっくり描かれていて、これもまた興味深いのですが、この時代の天下人と言えばやはり秀吉。また、キャラクターとして普通に秀吉は明るい陽のキャラ、家康はどちらかと言えば陰のキャラに描かれることが多く、やはりこの時代のスーパースターは秀吉だなと思います。
そして前回、十日の放送で初めて意表をつく登場の仕方をした小日向文世さん演じる秀吉ですが、昨日17日の放送では短期間にいくつもの面を見せていました。いきなり信繁の前に現れた秀吉は上杉景勝との対面をすっぽかして吉野大夫の元に信繁を連れて行きます。それが終わったと思ったら、石田三成を初めとする閣僚級の面々の連なる席に信繁を連れて行き、検地について意見を言わせたり。次の日には上杉との対面でいきなり真田と手を切り、家康との関係の修復に真田を生け贄にせよと言い出したり、続いて利休の主催する茶室に連れて行って今度は上杉の腹の底を利休に探らせたり。
また、茶々のいる場所に連れて行って一緒に神経衰弱をしたり、竹内結子さん演じる茶々の視線の先にいる男に氷のような視線を送ったり。
最後には一族の集まる妻・寧のところに連れて行って農民臭い場で一緒に楽しんだり。信繁もいうように、「こんな人間は見たことがない」と思わせるような人物でした。
ちなみに一族として描かれていたのが母のなか、弟の秀長、妻の寧、甥の秀次、後の小早川秀秋、それになかの従姉妹の子である加藤清正、秀吉の従姉妹に当たる福島正則ら。みな尾張中村の農民という感じで、その中に同じく農民の子であるきりや土豪の子である信繁がいて、妙になじんでいる感じがするわけですが、さらに後々この一族が敵対しあって最後にみな滅んで行く様をもナレーションが触れているのが不吉ではありました。
しかしこの一族が成り上がったのは正に秀吉と言う希代の才能があってこそ。ナポレオンの一族もこんな感じだったのかなと言う気もします。じっさい、このドラマで描かれた秀吉は、親しみやすさと、調子の良さと、それに独裁者の狂気が同居している感じがよく現れていて、今までにない秀吉像だったと思います。そして、なるほど秀吉と言う人物はこんな感じだったのではあるまいか、と凄くリアルに感じる人物像でした。
ところで、今まで私が大河ドラマで描かれた秀吉で思い出すのは、実は「秀吉」(1996年)の竹中直人さんでも、「おんな太閤記」(1981年)の西田敏行さんでもなくて、「独眼竜政宗」(1987年)で秀吉を演じた勝新太郎さんなのですが、今回の小日向文世さんの秀吉には、それを上書きする可能性を感じました。
「独眼竜政宗」の勝新太郎さんの秀吉は、簡単にいえば、スーパースターの演じる「虚構の秀吉」です。
「独眼竜政宗」について少し調べたのですが、「独眼竜政宗」は大河ドラマ史上最高の平均視聴率だったのですね。そして何と、勝新太郎さんがNHKのドラマ(大河だけでなく)に出たのはこれが唯一だったのだそうです。
勝新太郎さんは、芸事の家に生まれた古いタイプの役者、古いタイプの映画俳優であり、虚構で、つまり舞台や画面においていかにお客さんを楽しませるか、と言うことに心血を注いだタイプの役者だったと思います。
勝新太郎さんは当時すでにスーパースター、唯一無二の存在でしたから、当時人気が出て来たとはいえ進撃出身のごく若手俳優だった政宗役の渡辺謙さんとは格が違う。当然撮影が始まる前に、渡辺さんは勝さんに挨拶に行こうとしたのだそうです。
しかし勝さんはそれを断った。勝さんは、ドラマでの秀吉と政宗の初対面の場面の緊張感を作るために、その撮影のある日まで渡辺三とは会わない、と宣言し、実行したのだそうです。これだけでもシビれるエピソードなのですが、その場面で初対面を果たした後、勝さんは渡辺さんに「いい目をしてたね」と声をかけたのだというのです。かっこうよすぎますね。秀吉を、このドラマを描くためにそれだけの物を背負って演じられた秀吉像。西田敏行さんも竹中直人さんも演技派ではあるが、勝新太郎さんのスーパースターの圧力みたいなものには敵わないなと思います。
勝さんの秀吉で一番印象に残っているのは、跡継ぎと期待をかけた息子の国松が死んでしまう場面。その空虚の中にいる秀吉が、朝鮮出兵を思い立つ、その場面でした。
あれは今でも背筋が凍る思いがします。天下人=独裁者の凄みと狂気をあれだけ表現した場面もありませんでした。でもあれも勝新さんだからこそ成り立った演技なんだよなと思います。
今回の小日向文世さんの秀吉は、軽妙で現代的ではありますが、どんなにふざけていてもその目にはどこか冷たいところがある、怖い人物です。人柄のいい上杉景勝に真田を見殺しにすると言う選択をさせ、その上で源次郎を気に入って側に置いて引っ張り回す。現代でもいそうでいない、いなそうでいる、そんなリアルな存在です。そんな秀吉に、信繁はどう接して行くか。
次回は徳川の真田攻めについて源次郎が知らされ激昂する場面があるようです。どんな展開になるか、今から楽しみです。
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