今、堀越耕平さん「僕のヒーローアカデミア」が面白い!
Posted at 16/04/11 PermaLink» Tweet
今、堀越耕平さん「僕のヒーローアカデミア」が面白い!
僕のヒーローアカデミア(ジャンプコミックスDIGITAL) | |
堀越耕平 | |
集英社 |
今私が一番熱中して読んでいるのが、少年ジャンプ連載の堀越耕平さん「僕のヒーローアカデミア」です。連載が始まったのが2014年秋。丸一年半、単行本は8巻まで出ています。今週のジャンプ(2016年19号)では第86話が掲載されました。そしてこの4月からはついにアニメ化され、昨日(4月10日)は第2回の放送がありました。こちらも原作にない場面も挿入され、さらにわかりやすく面白くなっていました。
アニメではOPがポルノグラフィティの「THE DAY」、EDがBrian the Sunの「Heroes」、どちらも口ずさみたくなる魅力的な曲で、力の入れ具合を感じさせてくれました。
単行本は8巻までで420万部を越えているそうですし、久々のスマッシュヒットと言えるのではないでしょうか。
時は人口の8割が特殊能力=「個性」を持つようになったヒーロー社会の日本。スーパーヒーロー・オールマイトに憧れる少年・緑谷出久(みどりや・いずく)はすでに珍しくなった無個性の少年。しかしひょんなことからオールマイトと出会った彼はオールマイトの個性を受け継ぐことになり、ヒーロー養成のエリート校・雄英高校に入学し、クラスメートとともにさまざまなトラブルにぶつかりながらヒーローとして成長して行く、という物語です。
設定は「バクマン。」で言われたような「いわゆる王道」のヒーローバトルもの、そして学園ものであり、設定も入学試験に始まるさまざまなテスト、「ドラゴンボール」のようなバトルのトーナメント、「食戟のソーマ」のような職場体験などはさみながら、ヒーローに敵対する「敵=ヴィラン」との戦いが描かれ、その中でオールマイトから受け継いだ「個性=ワン・フォー・オール」の謎とヴィラン連合の背後にいるラスボス「オール・フォー・ワン」の存在が明らかにされて行く、という今までのさまざまなマンガ作品を研究し尽くしたようなしっかりした構成および展開の作品です。
そして絵柄は主人公たち、あるいはクラスメートたちのすっきりしたマンガ的な絵と、ヒーロー・ヴィランの描写には「スーパーマン」「スパイダーマン」のようなアメコミ(アメリカンコミック)の絵柄を交え、特にオールマイトの絵はバストショットで丸ペンのペン先を2本消費すると言う緻密さ。全体に、スクリーントーンのかけ方も半端なく精密ですし、「ただトーンをかけました」というアリバイ的な掛け方の絵はほとんどありません。とんでもなく手間がかかっていて、それだけ絵としての完成度が高く、存在感が際立っています。
マンガ的な絵も伝統的なマンガ絵(=非劇画)でありながら身体描写は今までの描写をワンランクアップしたかと感じさせる絵で、変にデフォルメされていないのに鍛えられた、でも高校生らしい肉体の線(このあたりが本当に難しいと思います。子どもらしい高校生の身体の、でも鍛錬を感じさせる線。今まであまり納得させられる線に当たったことがありませんでした。特に女生徒の線。エロくなく、締まった身体の線がリアルを感じさせて新しいです)がとてもいい。
しかし、このマンガの魅力はそれだけではない。何度も読み返しているうちに特に、言葉の表現の面白さにどんどんとらえられて来ています。
オールマイト(このネーミングもいいですね)の決めゼリフ「もう大丈夫。なぜって?私が来た!」というのがまず上手い。ヒーローの本質は、そこに居て救われたと感じることだ、というのを上手く表現しています。オールマイトにしろ主人公の出久にしろ、このマンガはいわゆる「名言」が多いのですが、それだけではないんですね。何の気ないところのセリフや言葉遣いがいちいち気が利いている。
ときどき私などが知らない言葉もあるのですが、今は何でもググればわかる時代なので、むしろ語彙が広がるのが気持ちいい。デク(出久)の幼馴染みにしてライバルのかっちゃん(爆豪勝己)はヒーロー候補としては優秀なのだけどとにかく口が悪い。悪態と暴言の繰り返しなのですが、初めの頃はデクにすぐ「このくそナード!」と言っていて、ナードって何だろうと調べてみて「おたく」のことを言うらしいということを知ってへえと思ったりしています。
クラスメートやヒーローたちのキャラクターもそれぞれ上手く作られていて、まだあまり活躍していない人の中にはきちんとイメージできない人もいますが(何しろクラスは20人いるので)順々に活躍して行くようですし、(「暗殺教室」ではクラスが28人いましたが、読んでるうちにほぼ見分けがつくようになりました)特に出久と行動を共にすることが多いかっちゃん、お茶子、轟、飯田くんなどはそれぞれとても魅力的に描かれています。
最近では、ヴィラン連合に加わった破綻JK・トガヒミコが面白い。見るからにヤバい目つきをした彼女はヒーロー殺し・ステインに憧れて死柄木弔(しがらき・とむら)率いるヴィラン連合に加わりますが、自己紹介のセリフがいきなり「トガです!トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔くん!」と来ています。何のどういうところがヤバいのか、その掴み方が半端ないなあと思います。
そして、そんな魅力的な要素満載の作品でありながら、テーマはビルドゥングスロマン以来の王道の成長物語なのですね。ジャンプの標語・「友情・努力・勝利」の中で何に重点を置くかというのはそれぞれ作品に酔って違うと思いますが、この作品は「努力」の要素がかなり強い。
なんだかんだ言って、「努力」をエンターテイメントにするのは極めて難しいと思うのですね。だいたいは「友情」にシフトさせているのが普通です。もちろん、「僕のヒーローアカデミア」も友情要素はふんだんにありますが、でもその友情観は多分ジャンプのマンガの中でも独特で、「ヒーロー」という孤高の存在の特質とでも言うか、「One Piece」のような「友達だろ?」みたいなのがほとんど無く、クラスメートのピンチを救うときも「助けたいと思ってしまった」とか「考える前に身体が動いて助けた」みたいな感じです。むしろオールマイトとの師弟関係の方がその辺はずっとウェットです。
実はこの作品、新連載の頃からジャンプは買っていたのですね。でも当時は自分のマンガの読み方から、こういうジャンプの王道マンガに対する感受性が十分に開いてなくて、敢えて読まないで来ていました。最近になってその面白さに気づき、何度も何度も繰り返し読んでいるのですが、いまのところ読めば読むほど面白く、またその面白い、また感心させられる要素にさらに気づいて行くというような、すごい作品だと思っています。
人間の「成長」というものに興味がある人も、このマンガはとても面白いと思います。私自身もかなり触発されるところがあり、改めて人の成長ということについていろいろ考えを巡らしているところです。
マンガもアニメも、ぜひ一度読んで(見て)いただければと思います。
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