「感想が書けないマンガ」と「作品を受け取る器」
Posted at 16/02/18 PermaLink» Tweet
マンガというのは、気楽に読んでそのまま放っておけばいい、というものだ、という考え方があり、それはそれでよくわかる。
娯楽というのは元々そういうものだし、自分の生活の中で一時的な楽しみを得られればそれで十分だ、という考え方は、それはそれで健全なんだろうと思う。
しかし、そんなマンガという存在に心をとらえられる人もいるし、またそんなマンガの存在に、いっときの娯楽以上のものを表現したいと考える人もいる。
そんなとき、マンガは人生を左右するものになることもある。
そんな存在としてのマンガについても、考えてみたいと思っている。
***
凄く感動したのだけど、感想が書けないマンガ、というのがときどきある。
いま、自分の中ではそれは「ボールルームへようこそ」と「RIN」という、二つとも月刊少年マガジンで連載されている作品だ。
「ボールルームへようこそ」は競技ダンスで世界を目指す話、「RIN」はマンガ家を目指してそれを実現した少年と、特異な能力を持って少年の人生に光か影かを投げかける少女の話。どちらもそんなふうに言葉で言うことは出来ないことはないのだけれども、言葉にしてしまうとその端からこぼれ落ちて行ってしまうものがとても沢山あり、危なくて言葉にできない、というような作品だ。
それはどういうことなのだろう、と考えてみると、つまり、読む側の「器(うつわ)」という問題なのではないかと思う。いまの自分の器、マンガを読む、作品を読む上で持っている、受容するための力では、そのすべてを捉えきれない、ということなのだ。
本当に素晴らしい作品というのは、読む側の器を越える部分があるものなのだと思う。
描いている側も、いま具体的に描いているその絵その言葉一つひとつは徹底的に検討し抜いて描いていても、その先ある描かれるべきものがなんなのかを言葉で言うのは難しい。ある意味、描く側の日常的な言葉の器の範囲に収まらないからこそ作品を描くのだし、そして器を越えるものを描くことで自分の器を広げて行くことが出来る人が、よい作家なのだと思う。
もちろんアートというものは何でもそうで、言いたいことを短い言葉にできるなら最初から作品を作る必要はない。そう言う日常的な言葉を越えたものをこの世に出現させるために、作家は作品を作るわけだ。
受け取る側も、それを受け取る器を持っている。そして自分が作ってきた器がちょうどその作品を受け入れるのに良い形になっていると、受け取る側に言葉の洪水のようなものが生まれ、いくら語っても語り足りない、と言う感動が生まれる。それは受け取る側に取って、とても幸福な経験だ。それは自分が育てて来た「器」が最も生かされる瞬間だからだ。
しかし、感性的に感動はするのだけど、それが上手く自分の器におさまらないときがある。濃厚な極上なスープなのに凹みのない皿しか持っていなかったり、鯛の刺身のような作品なのに湯呑み茶碗しか持っていなかったり。それでももちろん、「これがみたかった」「これが欲しかった」とは思うのだけど、それ以上は言い表せない、残念な感じが残る。
しかし、その感動が本当のものならば、その作品は自分の心をうがち続け、自分の器を変容させ、成長させて、いつかその感動に対して本当に言うべき言葉に到達して、言葉で言うことができるようになる、ことはある。
この作品の感動は、まだ語れない。そんな作品に出会うのは、幸福なことだ。そしてその作品を語れるようになるまで、自分の受け取る器を成長させて行きたいと思う。
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