私が私らしく、自分らしくあるということは
Posted at 14/05/27 PermaLink» Tweet
ここのところ、矢萩多聞さんの『偶然の装丁家』を読んでから、人生に対する感じ方のようなものが少し変わった、ということを先日書いたけれども、つまりは「自分らしく、ある」ということが大事なのだと思った。そのために自分らしいということがどういうことか、ということがすごく分からなくなっていたのだけど、矢萩さんの本を読んでいるうち、この人が自然にこういうふうに感じたことに対して自分はこういうふうに感じるなとか、ああこういうときにはこういうふうにすればもっと拡がりが生まれたな、というようなことを読んでいていろいろ思ったので、「たましいの裸の部分で何を感じるかというのを本音で話せた感じ」があり、「あああなたはそうなんだね、僕はこうだな」と自分というものがはっきりしてきた感じがあった。
人は、対話によってしか自分が見えてこないところがあって、だからどういう人と対話をするかということがとても大事なことなんだろうと思う。マキャベリが古典古代の書を読みながら古代人と対話をした、というようなことを書き遺しているけれども、たぶん読書というものにはもともとそういう意味での対話という機能があるのだろうと思う。
人との出会いは機会とタイミングと、その両方があって、チャンスを逃さないようにする運動神経も必要だけど、タイミングを合わせる感覚のようなものも大事で、その両者がそろって出会いが最高のパフォーマンスを発揮するのだと思う。著者にツイッターで感想をRTしてもらったりすると、一応関心を持ってもらえたということでありがたいなと思う。タイミングのあうときにお話しとかできると、もっといいだろうと思う。
自然の中や自分が夢中になってやりたいことをやっている時間と空間にいつづけることに対する罪悪感のようなものがある、ということを書いたけれども、それを取り払って自分らしさの感覚を養い、多くのものを吸収して、自分を充実させていくことが大事なんだと思う。
結果について、私は自動的に意識しているけれども、それにとらわれずに結果(の予想)を無心に観察していることが大事なんだと思う。目標にした結果を得るために最後の石を積んで初めて、結果について考えてもいい。まだないものに対して意識をあまり集中しない方がいい、というのが私にとっての戒めの一つだ。それが誰にとっても正しいのかはわからないが。
とりあえず、結果よりも自分自身。自分が自分らしくあることを常に確かめられるようにしておくこと。これは行動していると忘れがちなので、一日一度とか、自分の位置を確認しなければいけない。それがモーニングページなのか、寝る前に確認した方がいいのか、何が一番いいのかはまだよくわからない。というか観察している。
ここのところ睡眠がよくない状態が結構続いていて、でも昨日、朝『シドニアの騎士』の録画を見ながら感想を書いて、ネットで見つけた京橋の床屋さんに散髪に行って、八重洲地下街で早めのランチをして帰ってきてから、この休みにやろうと思っていたことが片付いたという思いで、『極黒のブリュンヒルデ』の録画を見て感想を書いてから、疲れを感じたので布団をきちんと敷いて数時間昼寝をしたら、ものすごく休まった感じがあった。夜寝るよりも明るい時間の昼寝の方が休まるというのがすごく意外な感じがしたのだけど、後で出かけて大手町に行ったときにエスカレーターを上りながら考えたのは、今日の昼寝は「ゆっくり寝なきゃ」とか「何時に起きてこれとあれをしなきゃ」というのがない、ここのところすごく珍しい睡眠だった、ということだった。
言葉を変えて言えば、最近どうも睡眠の質が悪いと感じていたのは、眠いから寝るというのではない、「義務としての睡眠」だったからなんだ、ということがよくわかった。起きたときのことは起きたときのこと、と自分から突き放して、何も背負わないで寝ることが大事なんだと思う。
自分らしいということはどういうことなのか、ということを少しずつ考える。私の自分らしさというのは、たとえば視野を広く持つということ。いろいろなものが見えて、それがどういうことなのかを見抜く目を持っているということ。それも、対象にこだわり過ぎると見えてこないから、なるべく曇りない目で見ること。あとは何が起こっても静かな心、穏やかな心で対処すること。冷静であること。目の前の事態の動き方だけでなく、それを取り巻く客観的な状況事態の変化を常に感じていること。自分がおかしくなっていた時は、そういうことができていなかったなあと思う。今でも90年代から00年代にかけての時代の変化のようなものを感じきれているとはいえないのだけど、00年代から10年代への変化は比較的感じられているとは思う。
自分が何者になるべきなのか、ずっとよくわかっていなかった。簡単に言えば何者かになろうと、つまりは何らかの専門性を高める努力をずっとしていたのだけど、むしろ見るということそのもの、それを見極めようとすることそのものを研ぎ澄ますことしか自分にはなく、そういう意味では自分らしさというものを今ある言葉で名づけようがない、ということなのだと思う。
専門性がない、ということがオールマイティであるための条件なのかもしれない。
何かが出来たほうが生きていくうえでは便利だが、何もかもできるけどどれもそれで食っていくというほど打ち込めない、というのも、すべてを見極めようとする自分らしさのあり方からある意味やむを得ないことで、できることをやって生きていくうちに身についた力で生きていくしかない、ということでもあるのだと思う。
とてもそんな生き方は人には推奨できないし、自分でもあまりにとりとめがなさ過ぎてそういう生き方で行く、ということに覚悟を決めるにもどうしたらいいか、という感じなのだけど、まあ結局はそういうことなのだろうなと思う。
気持ちが自由になってみると、脈絡のない読書のようなものがまた復活して来ていて、昨日夕方出かけて大手町の丸善で『One Piece』の22巻と一緒に買ったのが亀田俊和『南朝の真実 忠臣という幻想』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー378、2014)だった。今更南朝や日本中世史についていろいろ知って人生に何かプラスになるということではなく、やはり歴史について読んで考えることは、つまりは頭の訓練になるということなんだと思った。だからそれはたとえば天文学でも構わないのだけど、新しい知識が入って興味が活性化し、自分にとって親しいフィールドで、著者の書いていることがどれくらい妥当なのか、書いている著者の人間性、たとえば功を焦っているのではないかとか、奇を衒ってはいないかとか、オリジナリティはあるのかとか、つまりはどれくらい信頼性があるのか、著者の持っているバイアスはどういうものかといったことを判断していく頭のトレーニングになるということで、つまりは人間観察の素材であり、演習問題として、自分にとってとても適していると思った。
そういう意味での読書としては、近代史や古代史より中世史が適している気がする。近代史や古代史はイデオロギーやナショナリズムが入り込みやすいということもあるし、事実認定自体が論争的でありすぎて、ということは歴史書であってもポジショントークがかなり多くなるということは避けられない傾向があるし、そういうものに付き合うほど暇じゃない、という感じがある。ポジショントークというものは要するにその人の人間関係の中での自己防衛、保身のためには欠かせないことではあるだろうし信念の一部でもあるのだろうけど、やはり曇りない目でものを見る訓練にとっては濃い煙幕であって、だいぶ鍛えてからでないと目がやられる。
南朝の忠義がテーマだなどというのはある意味けっこう煙幕ではあるのだけど、やはりそういう時代でもないということもあって昔よりはずっと見やすいし、自分を含めて世の中にどんな煙幕がかけられていたのかについても見通せる可能性はあるから練習問題としては手頃ではあると思った。
まあいろいろ書いているけど、この本は結構面白くて、日本中世史について関心のある人には一定おすすめではある。
あと、マンガについてずっと感想を書き続けているけれども、自分はそれなりにマンガを読んできたという自負はないことはなくてもそれこそ専門ではないから読んでないものもかなりあって、『One Piece』などはその典型だった。しかし、このところずっと読んでいて今22巻まで来たのだけど、昨日は読みながら深く感動してしまった。
主人公である海賊王を目指す少年・ルフィたちが、たまたま出会ったアラバスタ王国の王女・ビビを助けて、王国を乗っ取ろうとする強力な能力をもった海賊・クロコダイルと戦っているのだけど、クロコダイルは砂を操る能力を持っていて、殴られても自分を砂のように分解させ、攻撃を防いでまた砂が集まるように肉体に戻る、という力があり、それを駆使してルフィを苦しめるのだが、「砂は水をかければ固まる」ということに気づいてクロコダイルを追い詰める。するとクロコダイルは「砂が水分を集める」という能力を駆使して、右手を大地につけると、大地の水がどんどん吸収され、岩は割れ、大地は乾燥して、すべてが砂漠になってしまう。
この構想に気付いたとき、私は非常に戦慄したし感動した。荒唐無稽もここまで行けば文明批判になる。このクロコダイルは人間の行為によって砂漠化していく地球の問題そのものを象徴した存在なのだ。そこまで作者が意識しているかどうかはともかく、これはそのように読まれてもいい。『One Piece』は人間同士の信頼とか友情とかそういうものが大きなテーマになっていて、このクロコダイルという男は全く人を信頼しない、また部下であっても虫けらのように犠牲にする、という男で、それをずっこけながら人の助けを得て何度もクロコダイルに挑んでいくルフィについに倒される、というところに作者のメッセージがあるわけだけど、そういう『少年ジャンプ』っぽいメッセージ(それを否定しているわけではない)だけではなく、砂漠化までしてしまうような怪物を人間は生み出したのだという戦慄すべき事実を、教訓的な寓話・物語でなく、血沸き肉躍る何億冊も売った冒険活劇の中で描いてしまっているということがものすごいことなのだ。
今までそういう面での指摘は『One Piece』に関して見たことがない。多分、あまりに売れすぎているので、ある意味そういうラディカルな、アカデミックな指摘は鼻白んでしまうところがあるのだと思うけれども、マンガを読んでない人にも読んでもらいたい内容だととても思ったのだった。
「静かな心が一番のごちそう」ということを今思っていて、それは矢萩さんの本に描かれていたおじいさんとのエピソード、「雨音が一番の酒の肴」という言葉に感動したことから導かれた表現だなと思う。
私は私らしく生きること、それはどういうことか。休むときには休み動くときには動くマイペース、雨の朝の気持ち良さを感じ、視野の広さ、見る目の確かさ、心の穏やかさ、心をなだらかに、柔らかくすること、空気を浄化すること、だと思う。神のものは神に、カエサルのものはカエサルに返して。Y
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