書くことによって見えてくるもの/関係を切るときに自分の存在を重く感じさせること/きれいな世界で生きていたい
Posted at 14/03/01 PermaLink» Tweet
【書くことによって見えてくるもの】
昨日はいくつも読むものがあって、いろいろと書ききれなかった。
木曜日に買った『モーニング』と、金曜日に買った『週刊漫画Times』、それに『コミックZero-Sum』と『ARiA』、それに『ギャングース』の3巻。
週の後半はマンガネタも書くことがたくさんありすぎて、前半は逆に枯渇しているというパターンで、そういうのもまあどうしたものかなあとは思っているのだが。
昨日はなんか疲れていて何と言うかあまりやる気が出ないままとりあえず更新だけはしていたという感じなのだが、そのせいかアクセスがあまりのびず、なんだかもやもやしていた。
それで昨日は疲れて寝てしまったのだけど、今朝起きると割と元気になっていた。
とにかく、なんだかんだ言っても吐き出すほど、本当に様々な種類の文章を書けるだけ書いているということは事実で、その文章の善し悪しはともかく、「スピードを上げて書いていることによって見えてくるもの」があるような気がした。
それはつまり、『自分はもっと書きたい』と言うこと。もっと書きたい、もっと深めたい、と思っているということ。それはある意味、読者が欲しいという以前のもっと原初的な感覚かもしれない。書くことと生きることの関係が、もっと即応した、ずれのないものにしたいといえばいいのだろうか。そういうことを思った。
【関係を切るときに自分の存在を重く感じさせること】
『週刊漫画Times』も、いくつも面白いものはあるのだけど、書きたいと思ったのはデリヘルのドライバー(女性)を主人公にした『デリバリー』のことになった。『ギャングース』とかもそうだけど、どうも社会の裏側のどろどろした感じ、みたいなところを扱った作品について、書きたいという意欲がそそられるのはなぜなんだろうかと思う。
正直そういう世界は苦手だし、できれば避けて通りたいと思うのだけど、でもやはりそういうところにも「生きているということの本質」がさらけ出されているということは確かだから、好き嫌いというよりも、そういう本質性にひかれて行ってしまうということなんだろうなと思う。
エソラゴト 1(ガンガンコミックスONLINE) | |
usi | |
スクウェア・エニックス |
作者はusiさん。イラストレーターであり、マンガ家でもある。柔らかい、なんと言うかある種のアニメ絵なのだけど、柔らかく大人の世界を表現することができるように頭身を長くとっているのだろうと思う。(上の作品はアダルト系ではないけど、そっち方面の方が作品としては多いようだ)
この作品はデリヘル嬢を送迎する女性ドライバーが主人公なのだけど、何人もデリヘル嬢が出てきて、本当の主人公は彼女たちだろう。その彼女たちの生態と言うか生き様みたいなものを、サポートするドライバー(護身術や体術にも優れている)の立場から描いているという感じだ。
今回のデリヘル嬢は、客との関係が深くなり、その男から「デリヘルはやめられないのか」と言われている。
そういわれて彼女は、「借金があるしやめたら追い込まれたりあなたの実家に押し掛けたり迷惑をかける」と言う。
彼女を救い出さなければ、と思った男は、デリヘルの場所を突き止め、押し入って強引に彼女を連れ出そうとして主人公に取り押さえられる。
「借金につけ込んで彼女は食い物にされている」と思い込んでいた男が、そこで聞かされたのは、「抜け出すなら彼女らはいつでも抜け出せる」という話だった。もし借金を方に食い物にされているというのが現実だとしても、警察に駆け込めば業者は営業できなくなるから、そんなリスクの高いことはしない、という話だった。
ならなぜ彼女はそんなことを言ったのか、といぶかる男に、主人公は「あなたとの関係を重く感じたから借金という理由を付けて切ろうとしたのだ」と言う。「脅されていると言えば男は手を引くだろうと思って言ったんだ」と。
つまり、結局本気になってしまった男の独り相撲で、上手く切ろうとして理由を付けた嬢の意図が裏目に出てそういうことになった、という話だったわけだ。
まあよくある話と言えばよくある話なのだが、「風俗嬢はみな借金の形に搾取されている」という良識の立場からのみしか見えない人には、風俗産業を正当化しているのではないかという風にも見えるだろう。というか私は一読したときにはそう思った。
ただ、この辺りのところは本当に微妙で、実際彼女たち自身にしてもまずいと思いながらずるずる続けている人もいるだろうし、とんでもない男に引っかかってやらされている人もいるだろうし、割とさばさば割り切ってやっている人もいるんだろうと思う、現実には。
「遊女は客に惚れたといい 客は来もせず又来るという」というのは浪曲だが、基本この世界は虚々実々なんだろうと思う。
つまりこのマンガでは、「風俗嬢は搾取されている」という「神話」(搾取されてないとはもちろん言えないので「」をつけておくけれども)を利用して、「自分と付き合うとあなたに不利だから分かれた方がいいよ」というメッセージを送ることで「関係を切りたい」という意志を実現させようとしているわけだ。
しかし世の中には、困難であればあるほど燃える、という人もいるので、話はそう簡単には済まない。言う相手に言い方を間違えると、このマンガのようなことが起こるわけだ。
これは、風俗だけではなく、別れ話のときのもよく使われる手段なんだろうと思う。私などはあまりそういう形を思いつくようなタイプではないのでガチンコで別れ話を切り出して修羅場、というのがまあ普通だったわけだけど、「自分と付き合うのはあなたのためにならない」ということを伝えることによって婉曲に意志を伝えるということはよく行われているのだなあと思う。その言葉通りに受け取って冷める人もいれば逆に燃え上がる人もいるだろうし、またその意志を敏感に感じ取ってそれならば終わりにしよう、と思える人もあれば、そんな終わりかたをさせようとするなんて酷い、と感じる人もあるだろう。まあ、いずれにしても関係の清算というのはそう簡単なことではない。
何でこの話をそんなに長々と書いているかと言うと、小林よしのりが『ゴーマニズム宣言』で、確かオウム真理教のマインドコントロールかなにかについて書いていたことを思い出したからだ。
一時、小林は一度に数人の女性と付き合っていたのだそうだ。しかし仕事が忙しくなってくるといちいち相手をするのが大変になって、全部関係を切ろう、と思ったのだと言う。で、最初の一人には(たしか)借金が山のようにあるという話をしたら返って私もがんばって稼ぐからと言われてしまって、実はほかにも女がいて子どもが何人もいる、という話をしたら切れた、と書いていた。
その他にも連載が打ち切りになって路頭に迷いそうだとか、やくざに脅されていて身を隠さなければいけないとか、いろいろな理由を付けて別れを示唆したらみんな関係を切ることができたのだけど、最後の一人に『自分たちの関係を邪魔する女がいるから殺してほしい」と言ったのだそうだ。まさか実行するとは思わなかったけど、彼女が本気で殺しに行きそうになったので、以後その手は封印することにしたのだと言う。
まあこれはつまり、どんな無理なことを言っても愛に目がくらんでいる相手は本気にしてしまうから肝に銘じろということでもあり、例えば教祖さまにそれを命じられたらやってしまってもおかしくない、という例として書いていたように思う。
これはまた浪曲だが、「嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理が良い」ということになるわけだ。
エディット・ピアフの『愛の讃歌』には、「もしあなたが望むんだったら、どんな宝物だってお月さまだって盗みに行くわ。もしあなたがそうしろと言うんだったら、愛する祖国も友達もみんな裏切ってみせるし、もしあなたが望むんだったら人々に笑われたって平気よ。どんなに恥ずかしいことだってやってのけるわ」という歌詞がある。
書いているうちに何を言いたいのか分からなくなってきたのでこのへんでやめる。
【きれいな世界で生きていたい】
なんと言うのか、そういうのは気持ちの問題と言うよりも体質の問題なのだと思うのだけど、どろどろした世界でのたうち回るのが好きだと言うナマズかコイのような人もあれば、きれいな空気、きれいな水でなければ生きられないという絶滅危惧種の魚や昆虫みたいな人もあるわけだ。
あるいはきれいな山の中で育って街に出ることで元気をなくし、また山に返って元気を回復すると言う『アルプスの少女ハイジ』みたいな人もいるし、世界中の危険地帯を飛び回らなければ気が済まない傭兵やノンフィクションライターみたいな人もいる。
まあ自分がどんなタイプかと言えば、やはり「清濁併せ吞む」と言うよりは、純粋にきれいなものを求めて生きていたい方のタイプなんだよなあと思う。
必要に応じて泥の中にも行かないこともないが、ずっと泥の中にいると窒息死してしまう、と言う感じだなあと思う。
『ぼくらのへんたい』の主人公の一人「まりか=裕太」は「お姫様になりたい男の子」で、ずっと一人遊びで自分の世界をつくってきたのに、自分の身体がどんどん男らしくなって行くことに強い違和感を持って行く。そのなかで、好きだと言う気持ちやそれを踏みにじられた傷、それに相手のもっと深い傷を知ってしまったと言うようなことの中で、自分がどんどん「汚れて」行くのを感じ、「きれいでいたかった」と思う。その感じが、凄く自分にとって生々しく、痛々しく感じる。それが私が『まりか』と言う存在に引かれる、すごく根本的なところだと思う。
まあその『きれいなもの』と言うのはなんと言うか、純粋性と言うかピュアネスと言うか、それを突き詰めて追求して行くのが「詩人」で、のたうち回る現実の中に真実を追究するのが「小説家」なのかな、と言う感じを私は持っている。
でも、もちろん現実にはピュアネスを追求する作家もいればのたうち回る現実を書こうとする詩人もいる。
人が生きる以上、きれいな世界だけで生きて行くことは難しいけど、この世から「きれいなもの」を減らす方向ではなくて、「きれいなもの」を増やす方向に取り組むことはできる。
きれいな世界だけで生きるのは難しくても、きれいな世界を広げようとして生きることはできるのだから、そんな風に考えてみればいいんじゃないかなと思った。
付け足しになるけど、こういう人たちを支え、励ましてるのが美輪明宏なんじゃないかと昨日読んだ対談を思い返して改めて思ったりした。
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