岡崎二郎『アフター0 Neo』は、当たり前のことを本当にそうなの?と問いかける短編集だった。
Posted at 14/03/17 PermaLink» Tweet
アフター0 neo 1 (ビッグコミックス) | |
岡崎二郎 | |
小学館 |
岡崎二郎『アフター0 Neo』1巻(小学館、2004)読了。SFとファンタジーの短編集と言っていいか。と言っても、ファンタジーは第3話の「夢への道標」だけで、あとはSFと言えるだろう。
何だろう、手塚治虫の『ライオンブックス』とかに似ている感じがした。なんというか、ペシミスティックな世界観。こういうのもなんだけど、理系の人の頭のなかってこういう感じなんじゃないかな、と思うことがある。
多分これ、小学生のころ読んでいたら、すごく面白かったのではないかなと思う。今私が求めているものはもっと前向きな感じのものだけど。
と書いてみて別に一概に前向きならいいわけでもない、と思った。たとえば、五十嵐大介の『話しっぱなし』などは、わりと孤独感が吹きすさぶような感じがあるのだけど、そんなにいやじゃない。何かそこにある手触り感というか、あたたかいものが感じられる。
SFのこういうペシミスティックな短編というのは、手触り感がない。岡崎二郎の作品では、そういう意味では『宇宙家族ノベヤマ』だけが異質なのかもしれない。あの作品は理屈っぽくはあったけど、何というか人類の未来を、人類がもともと持つ性質を信じよう、という姿勢があった。
私が一番好きなのは、第7話の『顔』だろうか。
むかしの男に未練のある女が主人公と出会うと、どういうわけか主人公の顔がその男の顔に見えてしまうという特殊能力を持った男の話だ。それを利用して主人公は女性の間を渡り歩いているが、ある時一人の女性と出会い、その女性に恋をしてしまう。
主人公はその女性と関係を深めるが、思いつめた女性はついに主人公を殺そうとしてしまう。しかし刺されたその時、主人公は急に「能力」を失い、女性は「あなた、誰?」という。
主人公は、正気に戻った女性とやり直そうと図る。
という話だ。
この短編集のストーリーの組み立ては、基本的にこういう感じの長さのショートストーリーだ。
これはSFというのとは少し違うかもしれない。SFと言える例を一つ上げると、8話の「永遠の天使 ピオ」だろうか。
「行動遺伝子」を操作することで、人間にとって都合のいい遺伝子を持った動物を作り出す「特許ペット業界」が飽和状態にまで普及した時代。主人公はチベットモンキーの遺伝子を操作して外見が人間の子どもそっくりのサルを作り出す。しかし、このサル=ピオは人間の外見を持ちながら、人間ほどの学習能力がなく、主人公が苛立って調教しようとすると爪を立てて反抗し、主人公は大怪我をしてしまう。
大けがをして「助けて」という主人公に、言葉を理解したピオは屋根に駆け上り、大声で「助けて!」と叫ぶことで主人公の窮地を救う。
これなどは、「科学が進歩することで明るい未来が来る」という古典的な科学観を否定するという伝統的なSFのパターンを踏襲しているともいえるが、それが「人間らしさとは何か」という問いに結びついているところで斬新だ、と言える。
そうだな、つまりこの作品集は全体に、「その人らしさ」とか「人間らしさ」とか「運命とは何か」とか、ある意味自明と思われたものに対し、「本当にそれらは思っている通りのものなのか?」と問いかける作品が多いと言っていいだろう。
そう考えてみると、まったく違うようにこの世界が見えてくる、かもしれない。そういう可能性を、この短編集は提示しているように思った。
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