『ゼロ・グラヴィティ』は中年のキャリア女性が主人公の、無重力をリアルに描いた宇宙空間・人間ドラマだった。
Posted at 14/01/20 PermaLink» Tweet
【『ゼロ・グラヴィティ』は中年のキャリア女性が主人公の、無重力をリアルに描いた宇宙空間・人間ドラマだった。】
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『ゼロ・グラヴィティ』を見た。私はめったにハリウッド映画は見ないのだけど、ツイッターで強くお勧めをいただいたので、これは見たほうがいいと思い見に行った。ぜひ「IMAX 3D」で、ということだったので、調べてみて川崎の109シネマズで見た。
予備知識として知っていたのは、宇宙飛行士たちが宇宙ゴミによる事故に見舞われるということ。3Dが凄いということくらいだった。
そういうわけで「どういう映画か」というあらましだけ知った状態で見に行ったのだけど、とても面白かった。
以下、感想なのだけど、どこまでが許されるネタバレなのかは難しいので、気になる方は読まない方がいいかもしれない。
宇宙空間での作業中に事故に見舞われ、宇宙に放り出されてしまった主人公が度重なる危機をベテラン飛行士の助けを得ながら奮闘し続ける。91分というコンパクトな時間が、リアルタイムに近い時間で流れていく。90分というのは実は作品中では非常に意味のある時間なのだが、その意味は見てのお楽しみ。「ゼロ・グラヴィティ」とは「無重力」ということだが、まさにこの映画は無重力というもの、重力というものがいかなるものか、ということがすべてのストーリーを生む映画だった。
主人公の医者であり宇宙空間には初めて来たライアン・ストーン博士にサンドラ・ブロック、ベテラン宇宙飛行士のマット・コワルスキーにジョージ・クルーニー。21世紀になってからハリウッド映画は見ていないので二人とも見るのは初めてだ。
この映画は基本的にこの二人しか出てこない。非常にシンプルなストーリーの中に、主人公の過去の心の傷、生きるのに積極的になれない事情が語られる。一度は生を諦めかける主人公が、コワルスキー飛行士に励まされ、助けられ、とにかく地球への帰還にすべてを尽くす。
この映画の見どころは、先ず第一にVFX=ヴィジュアル・エフェクツということになるだろう。いったいどうやって無重力状態を撮影しているのだろうと思って少し調べてみると、結構思いがけない方法だった。(こういう引用もある種のネタバレなので、リンクを踏むのはご注意を。)確かに上空からの自由落下で無重力を生むという撮り方では時間が限られる(25秒が最大だそうだ)から、なるほどと思った。この映画は長回しが多いので、こういう方法でないと確かに無理だろう。これでは相当うまくやらないといかにもになってしまうと思うのだが、見ているときは全然そうは思わなかった。無重力が本当にリアルに描かれているのはパンフレットによれば『2001年宇宙の旅』以来なのだそうだ。
ストーリー的にも最初から最後まで危機の連続で、パンフレットを読むと現役の宇宙飛行士が「かなり難しいですね(笑)」という場面がこれでもかと続く。見ているこちらまで腕に力が入り、足を踏ん張ってしまって、見終った時にはかなりくたびれていた。(笑)
その危機的なストーリーの中でストーン博士の過去が語られる。この映画の一番の特徴は上に上げたような特殊撮影であることは確かなのだけど、私が一番印象に残った、というかアメリカ的だなと感心したのは、中年の女性の宇宙での奮闘を描いた作品だったということだ。これはやはりハリウッドでも珍しいことのようだけど、サンドラ・ブロックの演じるライアン・ストーンは全くそれにふさわしい人だったように思う。多分、日本ではシリアスな宇宙ものなら主人公は男性でなければ、受けを狙って若い女性で、ということになる気がする。男でもなければ若くもない演技派の女優を使って膨大な予算と前例のないVFXを取るという挑戦ができただろうかと思う。そこはとてもアメリカ的だと思った。
ストーン博士が生きるのを放棄しようとした時、現れたコワルスキー飛行士に励まされ、決してあきらめないと誓わされ、そして状況を打開する案を思いつく。このジョージ・クルーニーの役どころは『アンタッチャブル』におけるケヴィン・コスナー演じるエリオット・ネスを助けるベテラン刑事のショーン・コネリーを思い出させる、かなり美味しい役だ。こういう「焼きの入ったベテラン」みたいな存在が、ハリウッド映画は好きだなと思う。
映像的に印象に残ったのはいくつかあるが、一つはストーン博士がグレーのタンクトップに黒のボクサーブリーフという下着姿で宇宙船内を泳ぎ回るところ。そのいでたちがなんだかユニクロっぽかった。それから宇宙船に乗り移った時に疲れて胎児のように膝を抱えたまま、無重力でくるっと回るところ。あれはどこかで見たと思ったが、『2001年宇宙の旅』のオマージュらしい。私は、『ざくろの色』の一場面を少し想像したのだが。そしてラストの場面。これは書かないでおこう。
全体的に言って、まあこれはあり得ないな、という場面は結構あるので、やはりそこは映画だと割り切って楽しむところが必要だろう。でなければ全部真に受けるという子どものような見方も楽しいだろうと思う。しかしまあどちらも本当には難しいわけで、実際私にしたところでそんなことが可能なのか不可能なのかということについてパンフレットを読んだりネットで調べてしまったりもしてしまった。(笑)
ただ、ご都合主義的に見える部分はほとんどなく、シリアスに物語は展開していく。だからこそ見ている方もつい力が入ってしまうのだろう。
もう一つ思ったことをいえば、原題が"Gravity"(重力)であるのを邦題は『ゼロ・グラビティ』(無重力)にしていて、個人的には原題の方がいいなと思ったということ。この映画の真の主人公は『重力』だったなと思うし、ラストシーンまで見ると原題の意図がよくわかる。しかしまあ、単なる「重力」では日本人の客ならなんだろうと思ってしまうかもしれないけど。
この映画を一言で言えばなんだろうとこの文章の表題を考えていて、【『ゼロ・グラヴィティ』は中年のキャリア女性が主人公の、無重力をリアルに描いた宇宙空間・人間ドラマだった。】とまとめてみた。そうして書いてみると、実は「無重力」というのは生きる意味を見失っていたストーン博士の心のありようもあらわしていたのだということに気がつく。生きる意味を取り戻し、重力のある地球に何としてでも帰還する、これはそういうドラマでもあるのだと思う。
そういうわけで、『ゼロ・グラヴィティ』、私はかなり楽しめた。紹介していただいてよかった。ありがとうございました。
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