歴史的なものの見方の使い方/スタジオジブリ広報誌『熱風』特集「かぐや姫の物語」を読んだ:「かぐや姫の神話的な読み解き」と「あのすばらしい音楽がつくられたわけ」
Posted at 13/12/16 PermaLink» Tweet
【「歴史的なものの見方」の使い方】
今日もごちゃごちゃといろいろやっている間に時間がたってしまった。昨日は疲れていて日付が変わる前に寝たのだけど、かなりぐっすり眠った。ただなんというか、自分の中で未整理なことがたくさんあって今日はその心の中の整理をするのにたくさん時間が必要だった感じ。自分の中でここ最近、一番再発見して驚いたのが「歴史」に関わってきた時間の長さだったのだけど、そのことが自分という人間の形成に強い影響を与えているだけでなく、結果それを仕事にしてきた期間が十数年あるわけで、ある意味もろにそれで飯を食ってきたともいえる。先端の歴史研究者にはなら(れ)なかったけれども、自分なりに「歴史を学び、それに関わってきたこと」を使って生きてきた、生きてこられたということはそういう意味でそれを「武器にできる」ということでもある。その武器の使い方は今までと同じような使い方をするつもりはないけれども、使えるということが大事なのだ。
自分は歴史学者にはならなかったので、実証主義的な歴史学に関しては方法論的にも根性論的にももはや取り組む余裕はないのだけど、「歴史的なものの見方」に関しては身についているなと思う。ここで言う「歴史的なものの見方」というのは、ある出来事に対して、それが起こった背景、直接的な原因、事件がどういう経過をたどったか、どういう結果になり、それがどういう事件や社会の変化につながったか、つまりどういう影響を残したか、ということを知ることが大事だ、ということだ。
たとえば「マラーの死」という絵画を見て単なる風呂場での殺人事件だと思えばそれで終わりだが、モンターニュ派の強力な指導者のひとりであったマラーが敵対するジロンド派の人々に対する密告を悪化する皮膚病の治療のための薬湯につかりながら聞き取っているところを密告者を名乗ったジロンド派シンパの女性シャルロット・コルデーに暗殺されたのだ、ということを知ればその位置づけは全然違う。
またたとえば、ジロンド派はロベスピエールらモンターニュ派によって国民公会から追放され各地に散って、それを支持する南仏の諸都市がパリの民衆とモンターニュ派の支配する国民公会に対して反旗を翻したのが「連邦主義者の反乱」であり、アメリカと違って連邦主義者が反革命というレッテルを張られているのはそのためで、「フランス共和国は一にして不可分」という標語がどんなに重要視されているかはそれを知らないとわからない。ロベスピエールはその反乱を鎮圧し、各都市に国民公会から議員を派遣して監視させた。フランスがきわめて中央集権型の国家になったのはそれ以来のことだ。
おそらくはこれがヒントになって、ソ連ではロシア革命以来軍隊などに必ず党中央から政治委員が張り付けられる。また、中国が諸民族の連邦国家ではなく時代錯誤な国民国家型の体制を目指すのも、愚直にフランスの体制を真似していることを感じさせる。これらのことは大きく言えばフランス革命時のこれらの事実の影響を受けていると言っていいと思う。
つまり、私が考えている歴史的なものの見方というのは、ある事実がほかの事実との間に関係の線があるのかないのかということを常に考えながらものを見ているということで、こういうことを考えるようになったのは大学に入ってからではなく、むしろ受験の時に世界史の様々な事項を関係づける癖をつけたのと論述問題を書くために話を組み立てる技術の一つとしてそのように論理を組み立てていく技術と芋づる式に関連事項が出てくるような記憶の整理法を身につけたことが大きいと思う。それは今でも文章を書く際には無意識のうちに使っていることで、そういう意味では受験の時に身につけたことは今でもずいぶん役に立っている。
まあ世の中の理解はそればっかりではだめなわけで、文学作品とかあんまりそういうことを考えていると描かれている内容そのものが楽しめないし読み込めない。そのあたりは国語の先生(同僚という意味ね)にさんざん批判された覚えがある。まあ、歴史というお仕事から離れてから、意識的にそういう思考法を手放していたのだが、手放したからこそ逆にそういうものの使い方みたいなものがより見えてきたように思う。そういうものの見方に縛られていてもつまらないが、うまく使えばそれなりに使える、武器にできるものだという認識をようやく持てるようになった。
【スタジオジブリ広報誌『熱風』特集「かぐや姫の物語」を読んだ:「かぐや姫の神話的な読み解き」と「あのすばらしい音楽がつくられたわけ」】
かぐや姫の物語 サウンドトラック | |
久石譲 | |
徳間ジャパンコミュニケーションズ |
いろいろ読もうと思うものがたまっているし、たまっているのにまた更に新たに買ったりしているわけだけど、昨日・今日はスタジオジブリの広報誌『熱風』の12月号の「特集 かぐや姫の物語」を読んだ。
寄稿しているのが三浦しをん、津島佑子、吉高由里子、大林宣彦、こうの史代、保立道久、原恵一、久石譲という面々。どの人もみなそれぞれの見方をしていて面白かったが、印象に残ったことをいくつか。
津島佑子さんは少女を神の領域に属する霊的な存在だと指摘し、男の支配する世俗の論理とは別の=月の世界の価値観に生きるものとする。また、戦いの処女というイメージでギリシャ神話の月と狩猟の女神アルテミス、知恵と戦いの女神アテナの例を出す。なるほど、それを考えると貴族たちや帝の求婚を頑なに拒み、ひいては月の世界に助けを呼んでしまうかぐや姫はそういうものだともイメージできるなと思った。
また保立道久さんの指摘も面白い。伊勢神宮の外宮の神・豊受姫は月の女神だという解釈は初めて知った。またかぐや姫の原型になった、というか『かぐや姫の物語』の原型になっているのが中国の月の女神・コウ(女へんに亘)娥の伝説があって、かぐや姫はコウ娥の話を聞いて地上に憧れた、というストーリーになっているという指摘はそうだったのかと思った。(ちなみにコウ娥とは嫦娥ともいい、彼女の名を付したロケットが12月14日、月着陸に成功した。)
また保立さんは竹と死者の世界との関係も指摘している。すなわち、初期の前方後円墳で使われている割竹形木棺は、竹の節の中に入って昇天すると考えられた観念を示しているというわけで、つまりかぐや姫が竹の中から出てくるのはその逆の死の世界からの復活を意味しているというのだ。この指摘はなるほどと思ったし、かぐや姫が竹から生まれなければならない必然性がうまく理解できると思った。
そして一番面白かったのは久石譲さんの話。例によって高畑監督がどんなに大変な人か、という話が満載なのだけど、高畑さんの「ぼくは享楽主義者です。要するに楽しいことがとにかく好きなんです」という言葉が初めて理解できた感じがした。
高畑さんは、とにかく頭がよくて論理的だ、という話はよく聞くけれども、その人がなぜあれだけの映画をつくれるのか、あまりよくわからないところがあった。しかし高畑さんの凄いところは理屈で終わらずに、「享楽主義者ゆえ、最後に自分が喜べるものを基準に据え、そこからなぜそうなのかという説明をきちんとできる」ところなのだという話を聞いてなるほどと思った。理は勝つけれども、最終的に自分が楽しいと思える、喜べるものに対して妥協しない、というところがあれだけのものをつくれる所以なのだな、ということがよくわかった。そしてそれは、たぶん自分がそういうものをつくるうえでも大事なことなんだろうと思った。
そして高畑さんはとても音楽を大切にする人で、セリフとかぶってしまうと音楽を小さくせざるを得ないから、音楽の入れるタイミングを遅らせよう、という提案が出るようになったのだという。この大事にしている感じが呑み込めて来て、久石さんの創作の方も軌道に乗って行ったようだ。
あと、久石さんのことですごいなと思ったのは、画面が引き算で作られ余白が強調されているから、音楽も引き算で作らなければならないと考え、楽器もフルートや弦など「音が伸びる」系の楽器ではなく、ピアノやハープやチェレスタ(こういう音=YouTubeへのリンク)など、弾いたら「音が全部減衰していく」楽器を中心に据え、セリフを食いづらくして、音色をくわえるためにリュートを加えたのだという。ここに画面に妥協を許さない高畑監督と四つに組んで一歩も引かない久石さんの姿を垣間見ることができ、これは確かに大変だっただろうけど素晴らしくクリエイティブな仕事をなさったんだなと感動した。
図書館の主 7 (芳文社コミックス) | |
篠原ウミハル | |
芳文社 |
今日は夕方丸の内に出かけ、丸善2階で篠原ウミハル『図書館の主』7巻を買った。最初地元の文教堂で買おうとしたのだがちょっと気になることがあったので買うのをやめ、丸善に出てから買ったのだが、こちらでは特典に著者のメッセージカードが入っていて、丸善に出て正解だった。
古典夜話: けり子とかも子の対談集 (新潮文庫) | |
円地文子・白洲正子 | |
新潮社 |
それから3階で本を物色して、円地文子・白洲正子『古典夜話 けり子とかも子の対談集』(新潮文庫、2013)を買った。こちらは歌舞伎好きの円地さんとお能好きの白洲さんの対談で、なるほど確かに式亭三馬『浮世風呂』に出てくるインテリ女性、鳧子(けりこ)と鴨子の風呂屋談義になぞらえるのはなんだか江戸の粋という感じだと思った。まあ円地さんのセンスで白洲さんはどういったのかよくわからないけど。
そのあと久しぶりに新丸ビルまで歩いて「えん」と成城石井で夕食を買って帰った。
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