池袋西武ギャラリー『諸星大二郎原画展』:諸星大二郎の初期作品を見て私が『進撃の巨人』を好きな理由がよくわかった/『ピアノのムシ』複製原画を入手した
Posted at 13/11/17 PermaLink» Tweet
【『ピアノのムシ』複製原画を入手した】
ピアノのムシ 2 (芳文社コミックス) | |
荒川三喜夫 | |
芳文社 |
昼前に神保町へ。古本屋街をぶらぶらしながら書泉ブックマートへ行った。先週まで、芳文社『週刊漫画タイムズ』連載作品の原画展がブックマートとブックタワーで行われていたのだが、ブックマートで『これからコンバット』を買って抽選に参加したら、『ピアノのムシ』の複製原画に当選したのだ。先週の月曜の夜に連絡をもらったのだが都合がつかず、今日ようやく受け取りに行った。いただいた原画はこちらの『戦利品』の写真の右下のもので、単行本1巻の第1話のものだ。複製なので本当に細かいところまでは分からないが、おそらくは原寸大のその表現は雑誌掲載時より印象的で面白い。原画も複製原画も手に入れたのは初めてだが、こういうものを集めるというのも面白いかもしれないと思ったのだった。こういう機会があるときに積極的にチャレンジしてみてもいい。
朝、モーニングページを書く暇がなかったので帰ってきてから少し書く。
【池袋西武ギャラリー『諸星大二郎原画展』:諸星大二郎の初期作品を見て私が『進撃の巨人』を好きな理由がよくわかった】
調子を整えてから出かけたが、思ったより遅くなってしまった。4時に家を出て、池袋へ。今日は西武ギャラリーでやっている『諸星大二郎原画展』に出かけたのだ。西武ギャラリーは西武デパートの一番南側の書店、リブロの手前の無印良品の二階にある。割引になるカードを持って行ったのだが、結果的に無料で入れた。そのかわりクレジットカードを一枚作ることになってしまったが……
私は諸星が1974年に『少年ジャンプ』の手塚賞を受賞した『生物都市』からずっと、一時は目につく限りすべて読んでいたのだけど、今日はその時代の作品から現在連載中の作品まで、さまざまな作品の原稿の原画や表紙・口絵の彩色原画、イラスト、挿絵、時には切り絵まで様々な形態の作品が展示されていてとても楽しかった。本で読むときにはあまり意識しない目線の動きに沿って原稿が並べられているのを見て、ああ、日本のマンガというものは右から左へと読むものなのだなあと改めて思う。
一つ一つの絵を見ているとわくわくしたりどきどきしたり。特に前半に展示されていた作品はどのページもよく覚えているものばかり。本当に好きだったんだなあと思って改めてしみじみした。
失楽園 (ジャンプスーパーコミックス) | |
創美社 |
よく見ると、特に『失楽園』など、映画的な手法が使われていて、ああこれは本当に手塚治虫みたい、というか芸術映画の技法が使われているということに初めて気づいた。初期の作品は特に作品によってコマ運び、ネームの切り方がすごく工夫されていて、見ていて飽きることがない。少年時代、学生時代はストーリー展開に夢中になっていたけど、そういうマンガ的な技法、センスというものが卓抜しているということに改めて気づかされた。
雑誌で見るとそこまで思わないのだが、原画で見ると本当に絵画としてもよくできている。原画をもとにしたデジタル版画が販売されていて、4万から20万強という価格が付けられているのだけど、かなり売れていた。本物の原画やシルクスクリーンのようなものなら私も考えたけれども、それでも入手したいという人はいるだろうなと思う。
諸星の絵は怪奇性や幻想性が強いわけだけど、初期の作品はムンクを思わせる表現があったり、『失楽園』は本人も単行本のあとがきで書いていたと思うがロダンの地獄の門などの作品の引用=オマージュになっているコマがふんだんに使われていて、そういう形でも楽しめる。なんというか人面疽的というか、無機物にいきなり顔がついているような(岡本太郎的と言うべきか)融合した感じの恐ろしさ(これは手塚賞作品の『生物都市』が一つの典型だ)がその特徴で、その幻想性、夢というか悪夢のような感じが好きだったのだが、最近では何というか、顔芸とでも言えばいいのか、不気味性・怪異性というより心理的邪悪性とでもいうべき方向の表現になってきていて、それは今一つ好きではない。なんというのだろう、昔の方が地に足がついた表現だった気がする。
栞と紙魚子の生首事件 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) | |
朝日新聞社出版局 |
しかし、私があまり気に入らない『栞と紙魚子』のシリーズが女子中心に大人気だったりしたから私はその辺がよくわからないので、表現としてもそういう方向にシフトしたのかもしれない。その辺は趣味の問題ではある。
海神記 上 (光文社コミック叢書“シグナル” 6) | |
光文社 |
先ほどの戦利品の写真で言えば、左側の上に入場券と『海神記』の豊玉依姫のカード、左下のTシャツが「カオカオ様」だ。「カオカオ様が通る」は完全な不条理マンガ、カフカみたいなものだが、不条理マンガと言えばすぐに思いつく吾妻ひでおの作品などとは全然違う不条理性だ。『海神記』のミケツや『諸怪志異』の阿鬼など可愛いキャラのTシャツもあったのだが、やはりここはカオカオ様だろうと思った。『不安の立像』の表紙のパンの神のものもあったが、さすがに怖すぎる。
彼方より (諸星大二郎自選短編集) (集英社文庫―コミック版) | |
「カオカオ様」収録 | |
集英社 |
諸星の作品を目で追って、その世界にトリップしながら、私がいま、『進撃の巨人』が好きな理由もなんだかわかる気がした。よくわからない巨大な、なんだか危険なんだが何がなんだかわからないものが人間を襲ったりするような強烈で圧倒的なシチュエーションというものが、なんだかすごく自分を引き込むところがあるのだ。
諸怪志異 (1) 異界録 (アクションコミックス) | |
双葉社 |
そう、スケールの大きな恐怖、自分をまきこまずにはいられない、この世界そのものが内蔵している恐ろしさのようなものが、初期の諸星にはあった。今の作品群は、どちらかと言うと身近な怖さであり、だからむしろ人気が出ているのかもしれない。そのスケールの大きな怖さというものを、いま一番体現しているのが『進撃の巨人』なのだ。
不安の立像 (ジャンプスーパーコミックス) | |
創美社 |
身近な怖さは、邪悪さと言ってもいい。邪悪さ、というのは理解できる怖さなのだ。なんだかよくわからないけど巨大で危険、というものに対する恐怖感と、おそらくは裏腹の憧れのようなものが自分の中にあるのだろう。そして特に『マッドメン』と『西遊妖猿伝』に見られるような、そういう状況の中で決意を持って自分の道を生きて行こうとする主人公たちに、自分を重ね合わせ、強く生きて行こうという気持ちになる。そこもまた、『進撃の巨人』と同じなのだ。
オンゴロの仮面 (少年チャンピオン・コミックス マッドメン・シリーズ) | |
秋田書店 |
『諸星大二郎原画展』は11月20日水曜日まで。翌21日木曜日から25日月曜日までは『吾妻ひでお原画展』がある。これも見に行きたい。
西遊妖猿伝 (1) (希望コミックス (300)) | |
潮出版社 |
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