中島武『成功者は端っこにいる』を読んだ
Posted at 13/09/28 PermaLink» Tweet
【中島武『成功者は端っこにいる』を読んだ】
水曜日に『ビックコミック』を買い、木曜日に『モーニング』を買い、金曜日に『週刊漫画タイムズ』を買って今日は『コミックゼロサム』の11月号を買った。『Arias』に『進撃の巨人』のスピンオフ企画、「リヴァイ外伝」が掲載されているというのを忘れていて買い損ねた。単行本で済ませるか、雑誌を買うか、少し迷う。DVD6巻でヴィジュアルノベルとして付録について来るという話もあるので迷うところではある。毎日新しいマンガ雑誌が出るのは悪くないが、今週はすごく収穫と思うような作品はなかったなあという気がする。まあ外れを引かなければ当たりもないと言ってしまえばそれまでだが。
成功者は端っこにいる――勝たない発想で勝つ (講談社プラスアルファ新書) | |
中島武 | |
講談社 |
昨日いろいろなことを考えていて、参考になるような本を探しに行ったのだが、なかなか的を絞れず迷ったのだけど、結局一番意外なのを買ってしまった。中島武『成功者は端っこにいる』(講談社+α新書、2013)。著者は「紅虎餃子房」をはじめとする飲食店経営で年商250億を上げている際コーポレーションの社長で、最近では赤字会社の経営再建なども手掛けているとのこと。今まであまり読んだことも接したこともないタイプの人だ。
彼は拓殖大学の応援団出身で、4年生の時は団長も務めたのだという。拓大の応援団と言えばそれだけでものすごいイメージだが、風貌もなかなかいかつく、実際表紙を見ただけでまず引くというタイプの本ではある。
しかし読んでみるとなかなか面白い。応援団に所属していた時、先輩から「下手に根性なんかつけるな」と言われたという話が面白い。彼自身、自分に出来ないと思うときには努力しない、という「自分流儀の美学」を持っているのだそうだ。
そんな人がどんな人生論、経営論を展開しているか。一筋縄ではいかなそうだ。
「人生論」部分で一番強調されていることは、「生きるための拠りどころを作って、肚をくくれ」ということだ。生きるための拠りどころ、として挙げられているのが「野心」と「自分の楽しみ」。自分が納得できる人生かどうか、自分が楽しい人生を送っているかどうか、が座標軸だ、というわけだ。
仕事、と言わず、野心、というところがいいのだろう。夢、と言わず野心というところが欲望との関連性を明示していていいのだろうと思う。この風貌の人が言うから説得力がある。そう言ったら苦笑いされるような気はするが。
あるいは使命、と言わずに野心、というところもいいのだと思う。使命はあくまで与えられたものだが、野心は己が欲望から出ているもの。やりたいからやる、というところがはっきりしているのがいい。だからと言ってやりたいようにやりたいだけやればいい、というようなことではない。「赤字の会社を黒字に転換するのは、売上以上の社会貢献だ」とも言っている。やりたいことはやるが社会貢献も忘れない。それが大人の男というものだ、という感じが凄くする。
自分の会社が危ない時は、とにかく利益率の高いものを頑張って売れ、余裕が出てきたら利幅を低くして顧客によりプラスになるものを売れ、という割り切り方もものすごく正しいと思う。こういうのは中小企業を経営してみると実感として骨身に沁みてわかる。
少しビジネスの面にも入ってしまったが、自分の楽しみ、という言葉もいい。確かに私も面白いマンガに出会う、ということは生きるための拠りどころのひとつと言っていい気がする。もちろん、このように思いのほか面白かった本に出会うことも、よりどころのひとつとは言える。楽しいのは自分一人だが、自分一人も楽しめさせられなかったら他の人を楽しませることはできない。
ほかに人生論的なことで面白いと思ったことをいくつかあげる。
「存在感」とは、他の人との違いを主張できること。これも良くわかる。どうしても人が出来て自分が出来ないことを何とかしようとしてしまうが、それでは自分の存在感をより消して行くようなものだ。他の人が出来ないことで自分が出来ることを伸ばして行った方がいい。それはたとえば「見栄を張る」ということにも通じるかもしれない。
「うまく見栄を張れれば、貧乏人の方が格好いい」というのはけっこうストライクだった。確かにそうなのだ。いかにも金持ってマス的な人たちを見て、かっこいいと思うことがそんなにあるだろうか。まーゴージャスねーと思うけど、金の使い方を知らないんじゃないか、と思ってしまうことが多い。本当の金持ちは普段の見かけは貧乏人とは変わらないが、もちろん勝負どころでは月とスッポンになる。もうそれは全然かなわないが、そういう敵わなさは清々しい。
見栄を張るというか、それこそ美学だ、ということだろう。「私はこれがかっこいいと思う」というものがきちんと主張できるかどうか。それは金をかけないでも出来るはずだ。逆に言えば、金をかけずに格好よくある、と腹をくくればかっこよさは無限に出て来るとも言える。
「腹をくくる、腹を据えることの一番の利点は、自分が主導権を握り、みずからの意思で行動できるところにある。」「うまくいくときも、そうでないときも、自分の考えに沿って自由に行動できなければ気に入らない。」格好をつける、というのも結局はそういうことだろう。格好をつけるのだって、人に言われたからこれがかっこいいということなんだろうと思って見せびらかしているような男がかっこいいはずがない。
苦労というものは他人さまは誰も理解してくれないものだ、というのもその通りで、これはギンズバーグのいう「たましいの飢餓の叫びは誰の心にも届かない」というのと同じだ。だいたい格好をつけるというのはそれを見せないということなのだから。もちろん相手によって見せた方がいい場合もあることは確かだけど。
そういう人生観も面白いが、ビジネスに対する考え方もなんだか金言だなあと思うものが多かった。
考えるという楽しみは、いくらやっても1円もかからない、というのは可笑しかったし、「食い気と美意識」がこの人の強みなんだなと思う。旅館を作るときに「柚子湯旅館は山寺のごとし」と喝破したとか、本場テイストを店舗づくりにおいて重視するとか、発想が豊かだなと思うし、この人のビジネスというのはいろいろなことの応用力なんだなと思う。
突飛なことをやってうまく言っても、だんだん恥を恐れてくる。恥知らずでなくなると当たり前の世界に入ってしまう、というのも深い真理だなと思う。仕事のおもしろさ、事業の面白さはリスクとリターンの矛盾した世界から出て来る、という言葉になると、ビジネスという世界がどんだけ奥深いんだ、ということを思ってそれこそ山寺への深山の道を歩いているような気がして来る。
「サラリーマンというのは長屋で見栄比べをしているようなもの」という突き放したサラリーマン観も私には実感としてわかるなあ。言われたことしかできないサラリーマンという仕事は、やはりある程度以上の面白みがない。
仕事に対する考え方はけっこうドライでけっこう厳しい。欲のないいい人、というのはビジネスにおいては野球をしているのにプレイの出来ない人であって、鬱陶しくて仕方がない、という。まあもちろん潤滑油的な役割とか、配置によって生きて来るということはあるにしても、実際に「金の稼ぎ手」としてのプレイヤーにはあまり向いているとは言えないだろう。会社に情緒や信頼を持ちこむことは間違っている、信頼していた部下にやめられたなら裏切りを嘆く前に待遇が適切だったか考えろ、というのもその通りだと思う。
出世競争、権力闘争においても、下剋上を狙うなら当座の手柄は上司に与えておけ。取った取られたの感情論は意味がない、とか、出処進退は引けばいいというものではない、肚をくくり、しぶとく生きろ、とか、「変わり者」と思われたらリーダーにはなれないとか、「仕事が楽しいのは成功したときだけ」とか、びしばし厳しいことを言っている。まあでも実際そうだよなと思う。
人生においては「変わり者」と思われていた方が楽な面はあるが、ビジネスとか集団においては「変わり者」と思われる、つまり指導力も協調性もないと思われたらリーダーにはなれない。仕事が楽しいのは成功したときだけというのはどうか分からないが不調続きだったら面白くないことは確かだろう。
「成功した人は多くを語らない。激しく語るのは成功の何歩か手前にいる人である」というのはうーん、なるほどなあと思った。成功の何歩か手前、というのはそれだけ激しい情熱、言わば「狂」が必要なのだ。確かに仕事が軌道に乗って、がむしゃらにやっている時というのは、いくらでも語ることが出て来る気がする。成功してしまえば自分のやっていることを客観的に見られるようになるから、そんなに語る必要もなくなるわけだ。
そして、永遠の真実として最後に釘をさしている感じなのが、「ビジネスで経験とは、現場での経験である。現場しかお金を生まない。」というのは全くその通りだと思う。お金を動かす、ということが大事なのだ。
失敗した時は現場から遊離したひねくったことをしている可能性がある、というのも耳が痛い。求めているもの、必要なものだからこそお金を払う。そういうお金だから意味がある。そのお金が動くのが現場なのだ。現場でしかお金は動かない。現場でしかエネルギーのやり取りはない、というのは、ビジネスというだけでなく、この社会の仕組みとして押さえておくべき大事なことなのだと思う。
面白かった。
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