南場智子『不格好経営』:たかがビジネス、いのちを取られるわけじゃない
Posted at 13/09/05 PermaLink» Tweet
【南場智子『不格好経営』:たかがビジネス、いのちを取られるわけじゃない】
不格好経営―チームDeNAの挑戦 | |
南場智子 | |
日本経済新聞出版社 |
どうも体調がすぐれず。母が東京に出かけるので、朝駅まで車で送る約束をしておいたのに、電話がかかって来るまで寝ていて慌てて飛び起きて送ってきた。帰りにモーニングを買ってきて寝床に戻って読んだが、どうもあまり面白くない。最近、私の読みたい方向と違う作品が増えている気がする。『ピアノの森』も長期休載中だし、『西遊妖猿伝』は『モーニングツー』に移ってしまった。ああそうか、今週物足りない感じがしたのは『ミリオンジョー』が休載だったからだ。『ジャイキリ』と『宇宙兄弟』と巻頭カラーの『ギャングース』と、楽しみにしている連載がどうもつなぎっぽい展開の感じで盛り上がって来ない。
今朝は雨が降っていたので草刈りもできず、資源ごみの日だったのに溜まった雑誌も出せなかった。体調のこともあって何となくぐずぐずして横になってiPhoneでアニメ『進撃の巨人』の21回を見ていたりした。
11時ごろになってようやく晴れてきたのでなんとなく気分が上がり、家の周りの草を刈る。しばらく放置していたところなのでだいぶ伸びている。コスモスを目立たせるために周りの草を刈っていたのだけど、肝心のコスモスが雨のせいで倒れてしまっていたりする。それを刈り取ると、もうだいぶ大きくなっていたから幹が固く太くなっていてこりゃまいったなと思う。駐車場の路面に砂利を突き破って生えてきたアザミがきれいなのだが、邪魔なので刈ろうとしたら軍手をしていても棘が痛い。これは皮軍手をしてやらないとだめだなと思い、棘のない草のあたりを重点的に。ただ何となく足腰の調子が今いちで、あまり本気になってやらないと出来ないところはパスした。それでも箕に五つ分の草を取って、まあ良かったかなと思う。
気分転換に車で出かける。銀行でお金の出し入れと通帳記帳などをしていると、少し頭がしゃんとしてきた。車を運転したり、お金を扱ったりするとやはり頭がまともになるなあと思う。現世のルールはやはり安全とお金が大事なんだと身体が覚えているから、身体を動かすことによって頭がしゃんとして来るというところがはっきりと私にはあるなあと思う。誰でもそうかもしれないのだが。
ツタヤに行って本を物色し、このところ気にはなっていたが今まで買わないでいた南場智子『不格好経営』(日本経済新聞社、2013)を買った。それからいちやまマートに出かけてレーズンとかコーヒーとかを買い、時間がないなあと思って家に帰ってきて昼食を取ってから『不格好経営』を読み始めた。
この本は立ち読みした時からとても面白そうな匂いがしていたのだが、まあ経営と言っても私の仕事ややろうとしていることとはちょっと離れているなあと思い、買うのを我慢していたのだけど、最近書いている原稿から考えるとけっこう関係なくもないので、ちょっと読んでみてもいいかなと思った。参考にならなくても、楽しんで読めそうな感じがする。だいたい私はもともと南場さんのファンみたいなところがあるし、『プロフェッショナル』で放送された時からこの人には関心があったのだけど、その後DeNAの株を買って株主総会に出たり8万ほど儲けさせてもらったりして、何となく関心は続いていた。家庭の事情で社長をやめたということも聞いていた。ただ、やはりDeNAの事業、つまりモバゲーやモバオク自体にはあまり興味が持てないし、ベイスターズのオーナーになったのはいいけれどもそんなに応援したいという雰囲気でもないから、何となく関心が薄らいできていた。
この人が面白いと思うのは、何と言うかいつまでたっても学生ノリというか、本当に楽しそうに遊びみたいに企画を出したり自分の弱点もさらけ出してそれでも目標を達成するために全力でやっていくという感じがすごく面白い人だなあと以前から思っていた。この本は全くその通りの雰囲気で描かれていて、明らかに他の会社に迷惑をかけたりしているところとか(日本オラクルの優秀なIT技術者をごそっと引き抜いたり)もあるのにそういうことを隠しだてしないで書いているところがおいおいと思いながらでもそういうふうにしても許されてしまうというところが面白いんだなと思いながら読んでいる。
それにしてもビッダーズの立ち上げの時に出来ているはずのプログラムコードがまだ1行も書かれていなかったことが発覚するという血の気の引くようなトラブルをはじめとして、さまざまな失敗をなんとか乗り越えて生きているところが面白いなと思う。そう、この人、凄いなというより、面白いな、と思える人なのだ。そこが凄いと思う。いや、面白いと言うべきか。
ソネットに出資してもらうための特許事務の書類を抱えて処理を頼みに行ったら「あなたはバカですか」と言われたとか、それを結局自分で全部処理して、引っ掛かるところが一つあったけどええい!と思ってハンコを押して送り返したとか、そうしてからそうするくらいなら最初から読まないでハンコを押しとけば簡単だったと気づいたりとか、なんだかある意味マンガみたいな話が満載で、これは映画化とかドラマ化とかしたらけっこう受けるんじゃないかと思った。10年後くらいに朝の連ドラになってもいいかも。
マッキンゼーでコンサルタントをしていて、それをやめて経営者になって、「決めることが仕事」になったということに気づいて行くところは、小規模ながら私にも実感としてわかる。今まで誰かに委ねておけばよかった決定を、自分が最終決定者になることの意味、そしてその決定がどういう影響を及ぼすかを常に考えながら状況をコントロールして行く責任のようなものが自分にあるのだと気づくときの、何とも言えない快感と戦慄。ある意味、一度でも経営というものをしたことがあればすごくわかるだろうと思うことが書いてあってその辺がとても面白く感じられた。
南場さんは新潟高校の出身で、私にとって新潟というのはマンガ家の近藤ようこや高橋留美子の出身地だという感じがあって、何となく親近感がある。そこで随分厳しい感じの父親に育てられ、脱出するように津田塾大学へ進学して、さらにアメリカに留学してマッキンゼーに入社というコースもなんだか自分とはかけ離れているから面白いのだけど、何と言うか常に前向きで明るい。弱音を吐いたりぎゃあぎゃあ叫んだりしながらでも嗜みも忘れないとか、なんだか面白いのだ。
それは前書きに書いてあった、苦しいときに意識すること、という話を読んでいてわかった気がする。とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を見せる格好のステージだと思って張り切ること。二つ目は後から振り返って、あれがあってよかったねと言える大きなプラスアルファの広いものをしようと考えること。うまくいかないということは耐えがたいから、ただ乗り切るだけでは気持ちがおさまらないからおつりがほしいと思うのだという。
そして三つ目は、「いのちを取られるわけじゃないんだから」と思うことなんだという。たかがビジネス、おおらかにやってやれ、と。
つまり彼女は多くの人たちが公言しているように「命がけ」ではやってない、と公言しているわけだ。ここが面白いというか、ある種の巧妙なところだというか、逆の意味で凄いところなんじゃないかと思う。いのちがけだ、と身体をがちがちにして取り組んでいる人よりも、たかがビジネス、とおおらかに朗らかにやっている人の方が、絶対にうまくいくだろう。
ビジネスに「凄み」を求めるのもいいけれども、私はやはり「面白み」の方が好きだし、そういうところが逆にこの人をビジネス界である種の特殊な個性として輝かせているのではないかと思った。たぶん、アメリカにはこのタイプの経営者がけっこう多いと思うのだけど、日本は何と言うか貧乏性なのか、自分のビジネスに固執し過ぎる傾向がある気がする。もちろん会社を作ったりたたんだりすることは多くの人の人生に関わることだからその重みを理解することも大事なのだけど、やはりたかがビジネスという軽やかさがあってこそ勝負になるという部分もあるのだと思う。少なくとも私はそういう考え方の方に魅力を感じるところが多い。現在96/264ページ。
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