『進撃の巨人』:読者・視聴者に与える喪失感とリアリティ
Posted at 13/09/03 PermaLink» Tweet
【『進撃の巨人』:読者・視聴者に与える喪失感とリアリティ】
進撃の巨人(7) (講談社コミックス) | |
諌山創 | |
講談社 |
どうも変に集中が持続していたのでそれを弛めたら体調があまりよくないことが分かってきた。無理をしないようにしよう。
日曜日のアニメ『進撃の巨人』はすごく印象的だったのだが、その一つに女型の巨人の「中身」が調査兵団のマントをまとい、フードで顔を隠して立体機動で飛び回っている場面がある。原作のマンガではそんなに印象に残らない場面なのだが、アニメの方ではかなり時間的にも長く映っていたので、その不吉な感じがすごく印象に残った。原作を読んでいるからもちろんそれが本当は「誰」かは知っているのだが、こうしたところで思いがけない演出があるからこのアニメは魅力的だなと思う。
今回初めて経験することなのだが、テレビで見たアニメがニコ動でも再放送され、それにたくさんのコメントがついているのを読むのがとても面白い。自分が受けた印象と同じことを書いている人も多いのだが、なるほどと思う書き込みもある。それによって、最近のアニメをたくさん見ている人たちにとってこのアニメのどこが斬新なのかということも分かったりする。
この作品の大きな特徴の一つは、実にたくさん、作中の人物が死んでいくことだ。このアニメの放送分までで言っても、初回にエレンの母が巨人に食われたのをはじめ、モブはもちろんのこと、ミカサの両親、訓練兵団の仲間のミーナやトーマス、重要キャラの一人と目されたマルコ、調査兵団のシス隊長。そして先週リヴァイ班のグンタが死んだのに続いて今週はエルド、ぺトラ、オルオと全滅してしまった。そして巨人化したエレンが怒りにまかせて女型と戦うが、格闘戦を繰り広げたのち、一撃で頭を飛ばされ、うなじをかみちぎられて連れ去られてしまう。
特に今週は、仲間を信じたいと思っていた同じ班の仲間がみんな死んでしまって、登場人物であるエレンはもとより、作品のファンの人たちのなかに強い喪失感に陥っている人がいることをコメントから感じることができた。私は自分の見方でしか見ないけれども、でも本当にいろいろなキャラクターに思い入れをして見ている人がいるんだなということが印象深い。だから、そういうキャラクターが死ぬたびに2ちゃんのスレッドやニコ動のコメントが大騒ぎになるのだ。こういう見方があるということはずいぶん新鮮だったし、そしてその死を悼む手描き動画がニコ動にアップされ、多くの視聴者が彼らを懐かしむ。ある意味幸福な循環だ。
考えてみると、それはアニメという作品のごく初期からそうだった。1970年に『あしたのジョー』に関連して、寺山修司が力石徹の葬式を出したことは語り草になっているが、今考えてみるとそういうのも特殊な事例というよりは、今に続くアニメのキャラクターの存在のある種の特殊性みたいなものの表れと考えることもできるなと思う。
あしたのジョー(2) (講談社漫画文庫) | |
ちばてつや | |
講談社 |
読者や視聴者に喪失感を与える演出というのは、やはり危険な賭けだろう。力石のようにそれによってそのキャラクターが永遠化するという場合もあるのだが、普通は避けることが多いように思う。特に『少年ジャンプ』では「友情・努力・勝利」という掲げているテーマからしても、作中で「仲間」が死ぬということはほとんどタブーだと言える。リアリティをくわえるために「よきライバル」くらいが死ぬことはあるかもしれないが、「ワンピース」に代表されるジャンプのマンガでは、おそらくはそういう演出によって化け物じみた部数をたたき出してきたのだ。しかしやはり仲間のような存在が絶対に死なないというのはアンリアルであって、そこに「所詮マンガ」という感覚が子どもながらに芽生えることもまた否定はできない。
ONE PIECE 2 (ジャンプ・コミックス) | |
尾田栄一郎 | |
集英社 |
しかし「進撃の巨人」は容赦がない。「あしたのジョー」もそうだが、マガジン系は昔からそういう意味で衝撃的な作品が多かったのだが、その中でもやはりこの作品は別格だ。おそらくは、よいキャラクターができると作者の側でも殺すことが惜しくなることがあるのではないかと思うが、いい味を出していたリヴァイ班という集団を、惜しげもなく全滅させてしまう展開には最初に読んだときは言葉を失ったし、「この回だけは単行本を買っても読み返せない」という書き込みもあった。一番うなずいたのは「ジャンプだったら死なずに済んだのに」という書き込みで、これはまあそんなこと言ってたら作者の描こうとしているストーリーにならなくなってしまうけれども、逆に言えば私自身は離れて久しい、ないしまだそういう黄金パターンが形成される以前のものしか知らない少年マンガというものがどういうものとして受け取られてきているのかという文脈をはっきりと示している。「仲間を信じたらみんな死んだ。自分を信じていたら死ななかったのに」という文脈は確かに少年マンガの中では極めて珍しいテーゼに違いない。
しかしそういう手痛い教訓を得ながら、エレンという主人公は成長していくわけで、その手痛さに嘘はない。この作品の凄いところは、読者にまでそういう喪失感や自分を信じることの意味を叩き込みながら、読者を主人公や登場キャラクターの成長に付き添わせていく、その方向性にあると思う。
だから逆に、ある意味完成された大人のキャラクターはなかなか長期にわたって出てくることがない。人類最強のリヴァイも、匂いで巨人の襲来が分かる特異なキャラクターのミケも、マッドサイエンティストのハンジも、様々な理由で主筋からリタイアしていく。104期のキャラクターたちも後になればなるほどさまざまな事情が明らかにされて、同期愛と宿命的な対立が少年たちを葛藤に巻き込んでいく。
今後も『進撃の巨人』の展開には目を離せない。ステマみたくなったが、本当に面白いと思う。
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