アイデンティティについて書けないわけについて書いてみる
Posted at 13/08/06 PermaLink» Tweet
【アイデンティティについて書けないわけについて書いてみる】
数日前からアイデンティティのことについて書こうと思っていて、なかなか書けないでいた。昨日の夜も書こうと思っていたのだけど結局書けそうもないので日常雑記の中に少し混ぜただけで終わりにしてしまった。今日こそは書こうと思って朝からいろいろ準備していたのだけど、やはりどうもどう考えて書けばいいのか方針がなかなか決まらない。
このままかけないで放っておくかとも考えたが、せっかく「考えているのに書けない」という現象が起こっているので、そのことについて書くことにした。ものを書く人間というものは、何でも材料にするものである。
考えてみれば、アイデンティティについてこうだ、と自信を持ってかけるようなら最初から自分のアイデンティティのことについて考え込んだりはしないだろう。ウィキペディアで見ると、自分に起こっている現象は「アイデンティティの拡散」という現象で、「自分がどういう存在で、何をしたいのかがよくわからない」ということなんだなと思った。自分がこういう存在だ、というのは客観的な様々な事象からもちろん言及することはできるわけだけど、それが「本当の私」であるか、と言うとよくわからない、というのが典型的な「アイデンティティの拡散」という現象なんだろう。
もちろん、ネットで調べると「アイデンティティ拡散」にはもっと深刻な事例がたくさん出てくるし、それが一番深刻なのは20歳前後のころのようだ。そのころの私は様々な信念や神話、思想や思い込みや新しい試み、新しいアートや古い芸術、都会性と田舎性、関西性と関東性、圧倒的な身体性や信じられないような楽観性と一度落ちたらなかなか立ち直れない心理性の、まさにカオス状態にあって、つまりはやりたいことややってみたいことに満ち溢れていて、自分がなんなのかとか考えている暇がなかった。何かになりたいとか、全然具体性がなくて、たぶん実際に何かになってしまってから、仕舞ったこんなはずじゃなかったのに、ということになってたんだなと思う。だから定式的なアイデンティティの問題に悩む時期よりも、実際に悩むことになったのはずいぶん後になってからだった。ということは逆に言えば、その当時の私は何だったかはよくわからないが、少なくともよくわからないながらも何者かであったのだなと思う。未成熟の未分化の状態ではあったけれども。
今考えてみると、何者かで「ある」ということが苦手な人間なんだなとは思うし、森博嗣が書いていたという話を読んだという孫引きながら、北海道の牧場でなんとなく生計を立てて、結婚もせず子供もおらず、バイクに乗ることを生きがいとしている教え子というのが出てくるのだけど、そういう生き方もありだよなと思うところがある。彼は今なにしている、と聞かれても仕事の話はせずに、バイクの話ばかりするのだそうだ。確かに、人の生き方は仕事がすべてというわけではない。
まあ私もこういうブログで自分が何をしているんだかあまりはっきりさせない書き方をしているからどちらかというと古い言葉で言えば「高等遊民」的な感じで見られることも多かったのだけど、まあそういうことを気取っているわけでもない。
そういう生き方をしていても別に困ることはないのだが、ただ、自分がこの一生で何をやったのかと言えないのはやはり残念だという思いがあって、アイデンティティの問題で考え込むことがあるとするとそれだなと思う。
子どものころというか若い頃は、「何をやってるんだかわからないけど凄い人」みたいなのに憧れているところがあって、逆に何を残したんだかわからないところが凄い、みたいな感覚があったのだが、この年になってみるとやはり何かを残してないといけないような気がするし、そこのところは日和ったのか、成熟したのかは別として変化はしている、というかまあ実際人間を観察する視点一つの話で、ある視点から見れば少なくとも「すごいかどうかはともかく何をやってるんだかわからない人」にはなってるかなとは思うし、でもまあそれでいいという実感はあんまりないので、少なくとも今自分がこうなりたいというふうに精進努力するということかなとは思う。ああそうか、つまりそんなことはないと思っていたけど、私もわりと80年代のポストモダン的な思想の影響を変なかたちで受けてたということかもしれないなと思う。
アイデンティティの心理学 (講談社現代新書) | |
鑪幹八郎 | |
講談社 |
昨日買った鑪幹八郎『アイデンティティの心理学』を読んでいて思うのだけど、心理学というのはある意味保守的な学問だなと思う。人の心はこういうもの、というモデルケースを考えるわけだから、そのモデルケースに飽き足りない人が満足したりわくわくしたりするようなことは書いてあるわけではないのだ。こういうところが自分に足りないところかなとか考える一方で、そういう図式への不信感みたいなものもある。
まあアイデンティティという概念自体、自分という人間を人間という類的存在の中でどのように位置づけるかという問題だから、ある意味すごく強い拘束力を持つ可能性もある。しかし自分と似たようなケースを読んでいるとああ自分一人じゃないんだなという安心感と軽い失望感のようなものも覚えるし、逆にまた「自分にしかない自分らしさ」というものが見えなくなったりする。
しかしそれもまた近代アートの神話、「オリジナリティの神話」のなせる業であって、どんな天才でも今までの先人が築いてきたものと全くかけ離れた存在であることはできない、ということもまた考えるべきなのだろうし、結局そういう「自由さ」と「枠」の中で、自分をどれくらい自由にし、どれくらい拘束するか、という問題になってくるのだろう。暴れ馬もただ暴れさせておいてもその力を存分に発揮することはできないし、ある程度コントロールすることができて初めてその力を十二分以上に発揮することができるわけだから、自分を縛り付ける足枷と考えるのでなく自分がそこを踏みしめて立つ大地のようなものだとアイデンティティについては考えるべきなんだろうなと思う。
ああ、なんか適当に書いていたらなんとなく答らしきものが出てきた。全然まとまってないが、拘束具と考えるのでなく踏みしめる大地、踊る舞台のようなものだと考えて対処していく、というのがアイデンティティについての建設的な考え方なのだ、ということにしておこう。まだ『アイデンティティの心理学』も読みかけだし、もう少し考えがまとまってからまた書こうと思う。
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