星空にあこがれた少年のころ/フラムスティード『天球図譜』と科学者たちの権力闘争
Posted at 13/07/23 PermaLink» Tweet
【星空に憧れた少年のころ】
子どもの頃好きだった本に、草下英明『星と星座』(保育社カラーブックス、1972)という本があった。もう40年前の本だが、今でも持っている。どうやって自分のものになったのかよくわからないが、母が買ったのかもしれない。私はこの本で星座を覚え、今手元にあるこの本を見ると、この本と星空を見上げることに熱中した小学生や中学生のころのことを思い出す。
星と星座 (カラーブックス) | |
草下英明 | |
保育社 |
この中で私が熱中したものは、当時最新の天体のカラー映像と、星座の図、とくにフラムスティード星図という絵で描かれた星の配置図だった。天体のカラー映像は今ではネット上で多く見ることができる。代表的なのはNASAのAstronomy Picture of the day"だろう。ちなみに今日(2013.7.22.時差の関係で一日遅れている)の画像は「土星から見た地球と月」という写真で、土星観測衛星カッシーニから送られてきたものだ。しかし星座図はなかなか見る機会がなかった。私は一時は天文学の方面に進みたいと思うほど星空に熱中していたのだが、結局そちらへは行かず、そういうものに対する関心もあまり伸びないままになってしまった。
久しぶりに『星と星座』を読み返すと、随所にこのフラムスティード星図が掲載されている。これもネットで調べてみると今では全部ネット上で見ることができるようだ。
また、多少高いけれども復刻版を入手できるということで、これもamazonに注文してみた。
フラムスチード天球図譜 | |
恒星社厚生閣 |
こういうものはみているだけで楽しい。子どもの頃の自分の頭の中では星座にはこういうイメージがあり、星空を見上げながらあんな絵がありありと目の前に浮かぶようになるんだろうかとイメージを膨らませていたものだった。
【フラムスティード『天球図譜』と科学者たちの権力闘争】
今回この稿を書こうと、フラムスティードという人物についてネットで調べてみた。(以下の記述はWikipediaの記述をまとめたもので、若干私の考察を交えている)どこの国の誰とも知らなかったのだが、実は17世紀から18世紀にかけて活躍したイギリスの天文学者で、ニュートンやハレーと同時代の人物なのだという。王政復古(ピューリタン革命後のチャールズ2世時代)期に2回、日食を正確に予言し、その功績で初代の王室天文官・グリニッジ天文台(本初子午線=東経西経0度の線の基準)長に任命されたのだという。しかしその観測器具は彼が自費でそろえ、足りない分は自分でアルバイトをして、ティコ・ブラーエに倣った観測器具を設計し、つくっていったのだという。彼は自分のことを「王室付き占星術師」と称していたらしい。
そういうところが当時の最先端の科学者であった(とはいえ彼も哲学や錬金術を研究しているのだが)ニュートンと対立する理由だったのかもしれない。彼は観測結果をニュートンに与えたが、それはニュートンの力学理論と一致しなかったため、ニュートンは彼を非難したが、実はニュートンの理論の適用の仕方が不十分であったことが彼の死後に判明したのだという。
当時、星図の出版が問題になっていたが、フラムティードの仕事の遅さに辟易していたニュートンはハレーとともに勝手にフラムスティードの古い観測結果を使って星図を発行してしまった。フラムスティードは裁判に訴えて勝利し、回収した星図をすべて焼却した。ニュートンとフラムスティードの対立はこれで決定的となり、ニュートンは彼の名前を『プリンキピア』の第2版からほとんど消去してしまったのだという。おそらくはこのあたりにフラムスティードの名が現代ではあまり語られない理由があるのだろう。
彼は自ら全天の星図=『天球図譜』の発行を試みたが生前に果たすことはできず、彼の死後1725-1729年にようやく発行されたということだ。ちなみにニュートンは1727年に亡くなっている。
まあ調べてみると生々しい権力闘争で、星空のロマンが一気に幻滅に変わってしまったのだが、まあ人間が生きているということはそういうことなのだろうなあと思わされた。
彼が亡くなった当時、フランスでは太陽王ルイ14世が亡くなり、バロックの時代が終わって、ルイ15世のロココ時代が始まっていた。図の絵はジェームズ・ソーンヒルという画家によるもので、上のおとめ座の図を見るとロココ趣味を感じさせるが、本人はバロック様式の歴史画家だったようだ。このあたりはもう少し考察を必要とするかもしれない。
すべては生身の人間のやっていることなので歴史的な考察を加えると様々なことが出てくるのだが、どちらにしてもこの本が私の星空への憧れとギリシャ神話への関心を呼び起こし、さらには物語の世界や科学的な関心を呼び起こしてくれる一つのきっかけになったことは間違いない。少年時代に出会う本は、人の一生を大きく左右する。
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