小池滋『もうひとつのイギリス史』/ピーター・バラカン『ラジオのこちら側で』/この本を読んだことで自分の何が変わったか

Posted at 13/07/05


【小池滋『もうひとつのイギリス史』】

少しずつ読んでいた二冊の本を読了。

もうひとつのイギリス史―野と町の物語 (中公新書)
小池滋
中央公論社

小池滋『もうひとつのイギリス史 野と町の物語』(中公新書、1991)。この本はかなり前、おそらく1993年ごろ(もう20年も前か)に買った本なのだが、内容を全然覚えていないし読むと新鮮な記述が多かったのでたぶん初めて読んだものだと思う。イギリスにおける都市の拡大と田舎countryの後退というテーマをいくつかのテーマで切り取ったもの。第1章がロンドンとウェストミンスターの対立、第2章がワット・タイラーの乱に始まる農民と都市の対立の始まり、古代・中世からそれを説き始め、18世紀~19世紀の産業革命とその前の農業革命、つまり第2次エンクロージャーによる囲い込みと自作農の崩壊・農業労働者の成立、工業の北イングランドと農業の南イングランドの対立、郊外高級住宅地の成立と都市の植民地としてのリゾートの成立といった、日本でもある部分は同じようになぞって行った都市と田舎の関係の、典型例としてのイングランドが語られて行く。

20年前ということもありやや記述が古い感じもするが、1930年代の典型的な学問エリート・ケンブリッジ学派の人々の祖父の世代が成り上がった産業資本家たちだったとか、農業の南部・工業の北部それぞれでの社会問題の指摘とか、イギリスという国の歴史を立体的にとらえるヒントがたくさん含まれている本であると思った。


【ピーター・バラカン『ラジオのこちら側で』】

ラジオのこちら側で (岩波新書)
ピーター・バラカン
岩波書店

ピーター・バラカン『ラジオのこちら側で』(岩波新書、2013)。土曜日の朝は聞いていることが多いNHK-FMの「Weekend Sunshine」のDJをやっているピーター・バラカンの語り下ろし。1960年代からのポップスの流れ、1980年代からの日本の音楽シーンと音楽放送界の流れなどが概観できるとともに、彼のお勧めのアルバムが紹介してあったり、「DJってこういうのもあるのか」というものが紹介されていたり、CDやLPになった音楽が網羅されているallmusic.comというサイトが紹介されていたり、現代の音楽と放送、またネット配信の現状と問題点などさまざまな観点から音楽を巡る話題が繰り広げられ、参考になることが多かった。


【この本を読んだことで自分の何が変わったか】

ところで、こういうサイトで読んだ本を紹介するとき、どういう紹介の仕方が一番意味があるのだろうかと思う。上記の二冊の本などは、主に知的好奇心とか歴史に対する視点の深まり、音楽という世界に制作側・輸入側・放送側から関わった話を知ることによって自分が好きな音楽と出会うためにラジオやネット、そのほかのものとどう言うスタンスを取ればいいかとか、どう言う働きかけをして行くとより実りある音楽シーンの形成に関わることが出来るかといったことを考えるヒントになるようなものであって、これを読んで感動しました、共感しました、複雑な思いにとらわれました、というような本ではない。

淡々と内容を紹介するということも考えられるし、自分が関心を持ったポイントを何点か述べるとか、まあ大体はそういう書き方をしているが、少なくとも私はこの本を読んだことによって自分の何が変わったか、ということを少しでも書こうと思って書いている。

それは自分のための覚書でもあるし、読書というものが本来そういう「変容の体験」であるからで、読む前と読んだあとで何一つ自分に変化がなかったのなら、それは読書をしたうちに入らないと私は思う。脳に皺が一本増えたり、シナプスが一か所接続したくらいの変化がないとやはり意味がないと思う。

ただ、その本を読んでどういう変化がもたらされるかということは人それぞれだし、自分が紹介するということにもし意味があるとしたら、自分はどういう変化をしたかということを書くしかないだろう。

書いている主体が変化したということは、やはりそこにある種の物語が生じたということであり、それを読んで読む側がどのような変化の連鎖反応があるか、あるいは消えてしまうか、何が起こるかは分からないけれども、やはりある種の水紋のつらなりの少なくともひとつの波でありたいとは思う。

読んだ私が書くことでまた新たな読みの輪が広がり、それがまた一つの発信源になってさざ波が広がっていく、少なくともそういうものでありたいとは思う。

あるいは、読書というものは効率のいいものではないけれども、少しでも確実に自分を変えることが出来る営みだということを、語り続けることにも意味はあるんだろうとも思う。

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