山岸凉子『言霊』/ホメロス『イリアス』/ラマナ・マハルシ『あるがままに』
Posted at 13/05/15 PermaLink» Tweet
【山岸凉子『言霊』】
言霊 | |
山岸凉子 | |
講談社 |
山岸凉子はバレエマンガかでなければ怪奇系の作品というのが多いと本人が書いているのだけど、先日買った『言霊』(講談社、2013)はその両方が収録された作品集。メインの表題作は本番に弱いダンサーがポジティブな言葉の重要性に気づき、その壁を乗り越えていくという話。こういう要素は『テレプシコーラ』でもときどき触れられていたが、この作品ではその一つのテーマに絞られているのでわかりやすいし、また壮大なシンデレラストーリー的なものでなく愛を獲得し国内のバレエ団への入団が図れるというくらいのつつましやかな夢の実現(それでも相当大変だが、団員の生活は相当大変)であるところがよりリアルであるとは言える。後半は怪談に行きそうで行かない話がいくつかエッセイ的に取り上げられているのだが、『ケセランパサラン』で建てた(おそらく)家が怪異話を拒否しているというある意味怪異現象が起こって描けなくなったんだ、という話が面白かった。今後はバレエものだけに行くのか、それともまた新境地を開拓するのだろうか。
【ホメロス『イリアス』】
イリアス〈上〉 (岩波文庫) | |
ホメロス | |
岩波書店 |
長いあいだ懸案というかあまり縁がなく感じていたホメロスを読み始めたことは先日ブログにも書いたのだが、そこでも言ったことだが、なぜ今まで読んでいなかったのかと大変残念に思っている。かなり以前になるが、一念発起して谷崎潤一郎訳で『源氏物語』を読んだことがあり、これは本当に読んでよかったと思ったのだが、ヨーロッパの文芸作品でそうした長編もの、特に叙事詩を読もうという気持ちには不思議なことにならなかった。一つには、子どものころからギリシャ神話ものにはかなり親しんでいたこともあり、新たに知っている話を読んでも仕方がないと思っていたことがあったからだろう。
しかし物語というものについて考え始めると、やはり何か自分にとっての源泉になる話をもっと持っておきたいというところが出てきたのかなと思うのだが、そういうものを読みたいという気持ちが出て来た。かなり以前に『神曲』を読み、これは自分にとってかけがえのない記憶になった。それから『ドンキホーテ』なども考えたが、やはりそうした近代的なものよりももっと古典的なものの方がいいという感じもあり、『ルシッド』などを少し読んでみたが何か違うという感じがあって、もうそれはそのまま放置していた。
むしろ『ガリア戦記』など実録物は塩野七生の影響で読んだのだけど、ホメロスに届く回路ができないまま、今までアクセスしないで来ていた。
文芸評論を読もうと思った時に、取り上げられていたのがホメロスで、その内容を知らないとその評論自体が読んでも全く理解できないということがあり、ああいつか読んだ方がいいんだろうなとは思いつつ、内容についての敷居も高く、訳文も最初は難解に感じたため、またしばらく放置していた。
しかし何かの機会にウィキペディアなどを読んで、つまりはこれは吟遊詩人が語るものであり、琵琶法師が『平家物語』を語るようにあるくだりを演じて見せて王侯貴顕や客たちを楽しませるものであるということに気づいて、トロイア戦争という長大な叙事詩すべてをうたったものではなく、そのごく一部をうたったものであるということに気づいて、つまりは逆に物語もそうではあるけれども、叙述そのものを楽しむ作品なのだということに気づいて、読んでみようと思う気になったのだ。
ある意味どう言う作品なのかという性格を理解してから読み始めたせいか、非常に読みやすく、『イリアス(上)』第一歌を読み終わったのだが、それぞれ構成的にも面白く、天上の神々の世界と地上の人間の世界が交響して語られて行く物語は、国譲りから天孫降臨、神武東征に至る古事記の物語を思わせるものがあり、その中でより一層きらびやかに語られて行く、まさに物語の古典といえる作品であると思った。
今のところ解説まで含め454ページ中64ページなのでまだこれからだが、こうした描写の文章に触れて行くことを重ねていくことが、自分にとって滋味ある養分を吸収して行くことに感じている。読むべき時期に読んでいるのだろうと思うが、それがもう少し早く来ればよかったなあとも思う。
【ラマナ・マハルシ『あるがままに』】
あるがままに―ラマナ・マハルシの教え | |
ナチュラルスピリット |
マハルシの本は二冊買ったが、そのうち「私は誰か?」が収録されている『あるがままに』の方を持って帰郷。『あるがままに』の内容は難しいのだが、「私は誰か?」の方は読みやすく、自分にとっても重要なことが書いてあると思い、すぐに読了した。読めばいいというものではないが、自分に「私は誰か?」と常に問いかけるというある種の公案禅のような取り組み方が面白いと思い、昨日からずっとやっていたのだが、身体がそれに反応して元気になって来るのが面白いと思った。ただ、今日の午前中はどうも行き詰る感じがしたので少しそれを外し、違うことを考えたりやったりして、自分の現在の状態についてタロットカードを引いて考えてみたりしてみると、「私は誰か?」という問いがまたあらたな相貌を帯びて見え始め、今自分がやるべきこと、取るべき姿勢はこれだな、というようなものが見えた。
面白いなと思ったのは、「解脱を熱望するものにとって、意識の構成要素の本質を探究する必要があるでしょうか?」という問いに対し、「ゴミを捨てたいと思っている人にとって、その中身を分析したり、それが何であるかを調べたりする必要がないように、真我を知ろうとする人にとっても、意識の性質を調べたり、その構成要素を分類して数えたりする必要はない。」という答えだった。そうか意識はゴミか、と思ったが、まあ世知辛い現代ではゴミまで分類しなければいけない時代だから、ゴミに類した意識もまた丁寧に分類されて作品化されてるんだろうなあと思ったりしたのだった。「彼がするべきことは、真我を覆い隠している構成要素すべてを払いのけることである。世界はひとつの夢のようなものとみなされなければならない。」というのが答えなのだが、無や空を悟る系の教えと、有や一を悟る系の教えとでいえばこれは後者に当たるんだなと思う。
冒頭の、生きるものはすべて自らが幸福であることを願い、自らへの至上の愛があり、幸福だけがその源泉であり、存在することは意識、至福と同じである、という部分が、やはり何か自分(の意識)に欠けているものを示唆しているなと思うところがあって、やはり自分のいろいろな側面をこの曇りなき眼で確かめながら、「私は誰か?」と問うていくことが大事だなと思った。正直言って、まだまだ理解はこれからだが。
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