杉本圭司「契りのストラディヴァリウス」/根本祐二『「豊かな地域」はどこが違うか』
Posted at 13/04/12 PermaLink» Tweet
【杉本圭司「契りのストラディヴァリウス」】
考える人 2013年 05月号 [雑誌] | |
新潮社 |
杉本圭司「契りのストラディヴァリウス」読了。下に書いた本と代わり交代に一気に読んで頭が疲れたのだが、でも本当に、当たり前と言えば当たり前なんだけど、小林秀雄を読みこんでるなあと驚かされた。音楽を通して見た、小林の芸術観と、小林にとってのヴァイオリンという楽器の特別な地位、近代性と官能、河上徹太郎との淡水の交わり。有名な中原中也との三角関係の問題の記述もまた、知らないことが少しあった。というか、小林の伝記などを読んでいても何となくぼかされているような部分をきちんと書いてくれているところがあり、そういうことだったのかと思ったところがあって、小林に対する理解は深まった観がある。
実際、小林の記述だけを読んでいては分からないことも多いわけで、私は白洲正子はかなり読んだけれども河上徹太郎はどうも読みにくく、あまり読んでないこともあるので小林を巡る人々の文章もきちんと読みこんで書かれているこの文章は、小林研究の一つの橋頭堡になりうるものではないかと思った。次回作品に期待したいというか、小さいものも大きいものも含めて、いろいろ小林について書かれた文章を読みたいなと思った。読んでいてわくわくさせられる評論だった。
【根本祐二『「豊かな地域」はどこが違うのか』】
「豊かな地域」はどこがちがうのか: 地域間競争の時代 (ちくま新書) | |
根本祐二 | |
筑摩書房 |
この本は面白い。一気に読んでしまって、そのせいでずいぶん頭が疲れた。上と同じようなことを言っているが。地域分析の方法として、「ホーコート図」という手法が大変有効であるということが分かった。これは5年ごとの国勢調査の年齢別人口を、同じ世代同士を比較してグラフを書く方法で、たとえば2005年の30歳~34歳の世代の人口と2010年の35歳~39歳の世代の人口と比較して増減を見ることでその世代の流入・流出を見るという方法だ。この本を読んで私の実家の諏訪市と住所のある江東区のホーコート図を書いてみたのだが、諏訪市では20~24歳が300人減り、25~29歳が351人増えている。だが30~34歳は428人、35~39歳は452人も減っていて、これは要するに大学に進学することでその世代が流出し、卒業して帰って来ることで20代後半が増えるのだが、結婚したり子どもができたりで親から独立したら諏訪市から出て行く人が多い、ということを意味しているのではないかと思う。というように、その地域の問題点をわりと簡単に分析できるのである。
諏訪市の場合は市内に大学がないこと、新しい世代が家を建てられる地域が限られていること、また産業構造の変化によって新規の就職がしにくいことなどが理由に考えられる。そしてその世代が減っていくことによって人口が漸減して行くというあまりよくないパターンに陥っているわけで、若い世代の就職先と住宅の確保が急務ということになるわけだ。
江東区の場合は20代で16000人以上激増していて、30代が8000人ほど、40代の増加は3000人弱にとどまり、50代以上は減少している。これは臨海部に新しいマンションがどんどん増えていて、若い世代がそこにどんどん入居しているということを意味しているのだろうと思う。逆に年配の世代はむしろ江東区のような都心近接地域から郊外に移住する傾向があるのかもしれない。江東区の分析はちょっとはっきりはしないが、この本に述べられているさまざまな地域の例はひとつひとつ面白く、その地域の特徴や問題点、あるいは取り組みの成功不成功などがいきいきと描かれていて、これからの地域振興には大変役に立つ切り口であると思った。著者は日本開発銀行からアメリカの研究所を経て現在東洋大学のPPP(Pubulic Private Partnership=官民連携)研究センター長を務めているという人で、その道のエキスパートという感じだ。現在206/270ページ。
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