小説を書き出す/『図書館の主』と『映画道楽』
Posted at 12/12/14 PermaLink» Tweet
【小説を書き出す】
小説というものには、ある日ふと書きだしてみたら書けてしまった、というところがある。書きだしてみないと書けるかどうかは分からない。書きだしの一筆がすべての世界を内包しているようなところがある。書きだしを工夫するとよく言うけれども、むしろ書き出しに小説世界のすべてが含まれていることだってあるわけで、それは工夫というのとは違うのではないかなという気がする。だが、実際にはその書きだしが本当に小説の書きだしになるとは限らなくて、その前につけ足したりすることで「前に伸びる」ことだってあるのだから、出来上がった小説を読んだだけではその小説を作者がどこから書きだしたかは定かでない、という場合もある。それは詩などでも似たようなところがあって、たとえば『王将』という歌の歌詞はいつまでたっても出て来なかったのが、突然「吹けば飛ぶような将棋の駒」というフレーズが出てきてそれですべてが出来上がった、という話をどこかで読んだことがあった。そういう意味で、書きだしには小説世界のすべてが内包されている。そこからすべてが芽生え、すべてが成長していく種のようなものだなと書き始めてみて思った。
今回はモーニングページを書いていて突然小説の書き出しになったのでちょっと驚いたが、たぶんそういうふうにしてできて来る作品というのはあるんだろうなと思った。予定していないで出来て来る作品の方が、実際には面白かもしれない。構想とか練らないで書き始めて、そのうち大きな作品になってしまう場合もある。全然とりとめがないまま最後までばらばらな感じで終わることもあるけれども。
まあいずれにしても小説本文を書かなければだめだということだ。そして小説本文を書くということは、何を書いていいかはっきり分からないものを書き始めてみるということで、プロットを作ったりキャラクター表を作ったりすることとは全然別のことなのだ。少なくとも私にとってはそうだ。
【「図書館の主」と「映画道楽」】
図書館の主 4 (芳文社) | |
篠原ウミハル | |
芳文社 |
朝、職場に出て職場のごみを捨ててから『週刊漫画タイムズ』を買って帰り、読んだり書いたりしてから10時半ごろに車で出かけてツタヤで今日発売の篠原ウミハル『図書館の主』4巻(芳文社、2012)を買った。この巻では『星の王子さま』の読みが中心なのだけど、バオバブが戦争の比喩であるとか、知らないことも書いてあってへえと思った。それにしてもフランス人というのはゴール人の末裔の癖にどうしてこんなに都会的な思考なのかなと思う。戦争をバオバブに例えるなんてバオバブに失礼だと私なんかだと思ってしまうのだけど。
映画道楽 (角川文庫) | |
鈴木敏夫 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
そのあと本を物色していたらジブリの鈴木プロデューサーの新刊、鈴木敏夫『映画道楽』(角川文庫、2012)を買った。これは2005年にぴあから発売されていたものの文庫化だとのこと。読みやすいこともあってもう半分以上読んだけれども、やはりいろいろと面白い。鈴木氏の本はどれも面白いので出てるとすぐ買ってしまうのだけど、どこが面白かったということが書きにくい本が多くて、全体的に面白いとしか言いようがない感じがする。
その中でこれが印象に残ったと言えるのが、昭和40年代の映画の宣伝コピー。たとえば『座頭市海を渡る』で「市が斬られた!しかも相手はか弱い娘!今度ばかりは勝手が違う!抜き差しならぬ仕込杖!」であるとか、『座頭市鉄火旅』の「もうひとり斬れば刀が折れる!むらがる敵は三十人!いつ抜く、どう斬る座頭市!」であるとか、『眠り狂四郎無頼剣』の「あいつは俺の影なのだ!流派も同じ、腕なら互角!同時に回る円月殺法!斬れば斬られる狂四郎の危機!」というようなもの。何かすごいという印象だけなのだけど。(笑)
またこれは高畑勲の分析として紹介されているのだが、ハリウッドではある時期まで映画のテーマはすべてLOVEだった、それがある時期から哲学に、それを分かりやすく言うと「生きる」というテーマになった、というのはなるほどと思った。
随所にあるこういう具体例の紹介や、本質的な傾向の分析などに、いろいろ触発されることが多く、いつも面白いなと思う。
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