橋本治『その未来はどうなの?』/キンドルのレザーカバー/感謝することの意味
Posted at 12/11/23 PermaLink» Tweet
【橋本治『その未来はどうなの?』】
今日は朝職場のごみを捨てに出た以外は仕事に出かけるまで一度も外出しなかった。最近では珍しいことなのだが、橋本治『その未来はどうなの?』(集英社新書、2012)を読んでいたのだ。だいたいのところ、最近は午前中にものを書いていて煮詰まって来ると出かける、みたいなパターンが多かったのだが、今日はそうならなかったのは、ゆっくり過ごしていたせいもあるが、わりと面白いと思いながら本を読んでいたために、一日ストレスがあまりたまらなかったということがあるのかもしれない。
その未来はどうなの? (集英社新書) | |
橋本治 | |
集英社 |
『その未来はどうなの?』はどう面白いのか分からないまま読み始めてああこんなふうに面白いのか、と思った本なのだが、現在116/204ページ、全9章のうち5章まで読んだ。取り上げられているのはテレビの未来、ドラマの未来、出版の未来、シャッター商店街と結婚の未来、男の未来と女の未来、というテーマで話が進んでいる。テレビの話から始まるのは面白いが、テレビは日本人をいい加減にした、という主張は意外性はないが意外性がないだけに面白い、という感じがした。
二つ目のドラマの未来、というのが自分にとっては一番得るものがある感じがしたのだけど、橋本はドラマというものを「どう生きて行くかという指針のない世の中で、人の生きて行く指針となったもの」ととらえているのが面白く、そういえば彼の小説というのは常にそれなりにそういうものだよなあと思う。受け入れるかどうかは別にして、人の生き方とかあり方について考えさせられるものが多い。
ドラマと言っても文学史の整理みたいな話がけっこうあって、大衆小説と近代小説は別の起源をもつものであって、生まれも育ちも違うのだ、という話は問題のありかをよく整理しているなあと思った。近代小説では自由という指針のない世の中で頑張ったってうまくいかない苦い認識、つまり「挫折」感の存在を前提としているのだが、大衆小説はもともと講談を起源としていて、講談というのはどんな無茶なことでも頑張れば何とかなるという、ひたすら前向きな前提に立ってどんな困難でも乗り越えて行く人物像が描かれるものだ、という指摘は斬新だった。つまり文学=近代小説では「挫折あり」がリアルな認識であるわけだけど、日本人の生きる指針になってきた大衆小説では頑張れば何とかなるという前提があるからこそ生きる指針になるわけだ、ということになる。
その代表的な例が吉川英治で、佐藤栄作は川端康成に吉川英治のような小説を書いてくれと言ったというエピソードが紹介されているが、まあ以上のような前提で読むとそれはいろいろと味わい深いものがある。吉川英治は自分が書いているのが「低俗な大衆小説」であるという認識を持っていて、文化勲章が授与されると言う話になったとき、一度は辞退したのだそうだ。しかし小林秀雄に「あなたの読者のためにお受けなさい」と言われて受賞することにした、という「美しい話」が紹介されている。このあたりはとても面白い。橋本自身はエンターテイメント作家なのか純文学作家なのかよくわからないがそのよくわからなさが魅力的な作家なのであって、その人がこういうことを書くと言うのもまた面白い。
「ドラマとは面倒くさい他人と付き合って分かろうと言う気もないまま重要なことが分かりそうになるもの」だという定義も面白いのだけど、まあ確かにそういうものだなと思う。
私が書こうとしているものは、挫折とかそういうものを描きたいわけではないし、まあやっぱり結局は「頑張ったら(頑張らなくても)最終的には上手く行きました」という話にはなるので(何を持って上手く行ったといえるのかということはいろいろあるのだけど)つまりは近代文学っぽくはあまりないんだなあと思う。そういう意味で、生きる指針になるドラマみたいなものが書ければいいなとは思ってるんだなと思う。
出版の未来のところで面白かったのは、出版の未来が暗くなっているのは読者層の大衆化が進むにつれて大衆が賢くなり、自分たちで勝手に何がいい本か決めてしまうようになって、出版する側が大衆を領導できなくなったことが大きいという指摘で、つまりそれはネット社会になって中心がなくなったということと同じ現象なのだと言う指摘だ。
まあそのほかにもそれぞれいろいろな指摘があってこの本は面白い。人によって面白いと頃が違って来るだろうなとは思うが、とりあえず自分にとっては面白いが人はあんまり指摘しないかもしれないなと思うところを指摘してみた。
【キンドルのレザーカバー】
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昨日キンドルの保護カバーというかケースのようなものが届いて、使ってみたのだがちょっと重い感じになってしまったのは残念だなと思う。厚めの新書本くらいの重さ(約350g)なのだけど、本のようにしならないところがちょっと重い感じがしてしまうのだろう。しばらく扱ってみてどう感じるかをもう少し観察したいと思う。
【感謝することの意味】
もう一つ感謝ということについて考えてみたのだが、感謝というのは実は受け身のことではなくて、けっこう攻めの姿勢のものなのではないかと考えたりした。謝というのはお礼のことだから、感謝というのは「ありがたいと感じてお礼をすること」であるわけで、お礼をするという実に能動的なはたらきのことを言っているのだと思った。感謝することによって自分がよい状態にあることそのものを自覚すると言う作用もあるし、自分がしてもらい、自分がよくなったということそのものを自分で認めると言うのが大事なことなのではないかと思った。相手に感謝の気持ちを伝えると考えるとどうも偽善的な感じがしてしまう、という子どもっぽさが私にはあるのだけど、伝えられた方が嬉しいのは確かだし、これは人のためにと考えてやってあげることを同情だと思ってしまって避けがちになるのと同じ子どもっぽさなんだなと思った。お礼をするというのはすがすがしい、気持のよいことで、人のためにすることではあるのだけど、自分のためにもなることなのだ。
こういうふうに感じるのはなぜなんだろうなあと考えてみて、つまりは自分の中に個人主義的な考えがすごく強くあって、「人のために何かする」ということについてすごく否定的に考えてしまうところがあるのだなと思った。教える、とか書く、ということに関しては自分が好きなことなので気にならないのだけど、そのほかの人のためにすることはすごく抵抗のあることがある。昔ほどではないけど。人のためになることをする、というのは自分の仕事と関わってきて直接的に生きることと結びついているからまだ考えやすいのだが、感謝するとかお礼をするということは分かりにくい面がある。
というか書いてみて思ったが、先に感謝されてしまうと逆に何とかしてやろうと思ったりするところが人間にはあるから、感謝するということによって逆に状況を動かすということはあるんだなあということも思った。そういうふうに書くとすごく不純な感じもしなくはないが、というよりはそういうことが人情の機微というものなのだと言うふうに受け取っておいた方がいいんだろうと思う。チップはあとで出すより先に出しておいた方がサービスがよくなるよね、というような意味で。
そう考えてみると、感謝するということは自分のまわりも世の中も多分宇宙でさえ良いように回して行くためのすごく重要な潤滑油みたいなものなんじゃないかなと思ったのだった。まあそれが相手に通じてなきゃだめだし、私などはそういうことにけっこう鈍感な人間ではあるんだけどね。
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