私はなぜ書くのだろう

Posted at 12/10/30

【私はなぜ書くのだろう】

私はなぜ書くのが好きなんだろう、と考えていたら、それは自分の世界が作れるからだ、という当たり前のことに気付いた。そうなんだ、私は自分の世界をつくることが好きなんだ。なんだかんだ言って私の部屋は私の秩序通りになっているし、ブログとかネット上のものも玉石混交なりに自分の世界になっている。

それは、初めて自分がほかの人とは違う世界を持っている、ということを自覚した時のあの興奮と恍惚と何とも言えないふわふわした、足場のない感じを感じたときから今に至るまでずっと続いているのだと思った。私が初めて人とは違う世界を持っているということを、もちろんそれは一人ひとりみんな違う世界を持っているということと同じことなのだけど、少なくともそれを自覚したのは14歳のころだった。図書館で一人でマグリットの絵を見て感じた何か。それまでも何か現実とは違う世界がこの世にはある、ということはナルニアのシリーズに夢中になっていた頃からわかってはいたのだけど、それがほかならぬ自分の中にある、ということを理解させられたのはあのマグリットの絵だったのではないだろうか。

フェイスブックの精神年齢診断というのをやってみて、あなたの精神年齢は永遠の14歳です、みたいな診断が下ったのでそれはなんでだろうと思っていたのだけど、どうもそういうことで、初めて自分の世界を自覚したときのあの感じを、今でも持っている、正確に言うとおそらくは取り戻した、ということなのだと思った。

昨日は用事があって久しぶりに秋葉原に出かけた。地下鉄銀座線の神田駅の一番末広町よりで降りて、須田町の交差点に出る。90年代後半には毎週のようにこの道を通っていたのだけど、あの事件が起きてからはなんだかずっと足が遠のいていた。そういえば先日日比谷線の方からヨドバシカメラには行ったのだけど、自分にとっての秋葉原の入り口である神田駅からは何年かぶりだろう。

用事があったのはコミックZINだったのだが、おそらく初めて店内に入ってその同人系の人たちの無償の無限の情熱の垂れ流しっぷりにほとんど呆然とするくらい感動してしまった。私も先日自分の小説の小冊子を作ったからだいたい感じはわかるのだけど、一枚一枚にものすごく情熱を注ぎこまれた表紙の同人誌(エロを含む)が何千冊と陳列されている。コミケなども言ったことがないからわからないけれども、これがもっと規模が大きいのだろうと思うとくらくらしてしまう。一枚一枚の精緻な時間をかけた絵と彩色。それが数百円の値段をつけられて無数に並んでいる。元を取ることなどほとんど考えていないだろうその垂れ流しっぷりに(もちろん書きあがってからは少しでも売ろうとしている感じはわからなくはないのだが)自分たちの時代の10代後半から20代前半のまったく方向性の分からない情熱のぶつけ方と根本的には同じものなのだということを感じてすごくうれしくなってしまった。

私たちの若い頃と情熱を注ぐ対象はかなり違うけれども、この一途さだけは全く不変なのだとうれしくなってしまった。これがあれば日本はまだまだ大丈夫だ、という感慨も持ったけれども、日本というより世界や宇宙もこうやって動いているのだという感じ、ある種の生命感の横溢を感じたのだった。

実は買いに行ったものはなくて目的は達せられなかったのだけど、それ以上のものを得た気がする。こういうのがセレンディピティというものだろう。もやもやしているときは、とにかく行動した方がいい。必要なものは世界が与えてくれる、という感じ。

そのあとまんだらけにより、まあ結局何も買わなかったのだけど、結構自分の高校生時代みたいな普通の感じの男の子や女の子たちがいろいろ物色しているのを見るのは面白かった。

それから神保町に歩く。だんだん日も落ちてきて暗くなった。やはり今の自分の地元の一つはここだなと思う。秋葉原のあののりよりは落ち着くことは確かだ。すずらん堂で本を物色していたら岡野玲子『玉手匣』2巻(白泉社)が出ていたので買った。

陰陽師 玉手匣 2 (ジェッツコミックス)
岡野玲子
白泉社

やはり自分はものを書いていないとだめだなと思う。そういうこと、そういう世界で生きること、そういう生活をすることに憧れのようなものがあったのだけど、なんだかむしろもうそういうふうにしか生きられない、書くことを離れては生きられなくなってしまっているのだなと思う。もううまくいくとか行かないとかに関係ない、もちろんうまくそれで生活できた方がいいに決まっているのだけど、もしそれで身を立てていけなかったとしても書くしかない、そんなふうになってしまっていると思った。本当は14歳の時からそうだったのかもしれないのだけど。

そう思って街頭のサンマルクでコーヒーを買い、路上ですすっていたらビルが見えて、写真が撮りたくなった。ビルの写真も撮ったけれども、こちらの方が気に入っている。

新御茶ノ水まで歩き、がいあプロジェクトでお弁当を買って帰った。月がきれいだった。


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by Luke Peterson

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