書くという幸福/無の世界と有の世界を往復すること:書くことと癒すこと
Posted at 12/10/05 PermaLink» Tweet
【書くという幸福】
何か文章を書こうとしてもなかなか書けない、というか書いても出鼻をくじかれたりしてなかなかまとまらない。そんな日もあるものだと思ったり。
ここのところどうも調子が出ない、頭も身体も冴えないなあと思っていたのだけど、いろいろ考えていて、どうもしばらく書くことがおろそかになっているせいだということに思い当った。一作前の書きあげた小説作品の日付を見たらずいぶん前で、それから新しい作品のプロットを考えて作ったりはしていたのだけど、プロットを考えることは書くことの一部でないことはないのだけど、書くことそのものではない。逆にプロットがなくたって書けるときには書けるので、プロットとか構想がいくら出来てもそれは書いた内には入らない。
バルガス=リョサの言うように、「作家にとって書くこと以上の幸福は存在しない」ということに気づいてしまったら、書かなければ生きていることの実感が得られないということになってしまう。だから書けばいいのだが、書くためにはある程度の状況をととのえなければならないので、いつでも書けるというわけでもない。プロットを用意するというよりも、その場面の手触りとか肌触りとか一番しっくりする言葉とか本当に直接目で見、手で触れるようなリアリティをつかまえなければいけない。それは一瞬でつかまえられる場合もあるし、書いているうちに少しずつ見えて来ることもあるし、でもまずはその入り口を見つけなければならないのだけど、その入り口の手触り感のようなものが大事で、ブランクが開くということはその感覚を一度手離すということになる。
一日離れると取り戻すのに三日かかるというようなことがお稽古事などで言われるけれども、確かにそういうところはなくはない。まあそんな単純なものでもないのだけど、創作においても離れれば離れるほど取り戻すのに勢いが必要になるということはあるだろう。逆にいえば勢いさえあれば離れていてもすぐに戻るということもありえるし、そういう勢いそのものを得ることが大事だということもあったりするから一概には言えないのだけど、まあ創作というものは奥が深いなと思う。
ちょっとしばらく集中してそのペースを取り戻そうと思う。ツイッターでつぶやいたりブログを書くというのもそのためのアイドリングみたいな感じではあるわけだが、そこは上手く使う必要がある。
書こうと思うだけで何か手離していた幸福が戻ってくる感じがある。書くという幸福とは、一生付き合っていきたいと思う。
【無の世界と有の世界を往復すること:書くことと癒すこと】
手に技を持つということはいいことだ。作るご飯が何でも美味しい人もいれば、どんな植物でも育てられる人もいる。その人が触るだけで何かを癒してしまう癒しの手を持つ人もいれば、その手から目も覚めるような絵や彫刻が生み出されて行く人もいる。人の生活にとって、人の創作にとって、手から生み出されるものというのは本当に大事なものだ。私も拙い文章を、特に小説はかなりの部分を手書きで生み出しているので、自分の手がやるべき仕事はこれだという感じがある。昔は字を書くのが苦手で本を書きたいのだけど字を書くのが苦痛だという状態が長かったのだが、ワープロが登場したことで書くことがすごく楽になった。そうなって見ると逆に手書きもまたいいものだと思うようになったし、なぜか字を書くことも以前より楽になっていて、選択肢が広がるということはいいことだなあと思う。
私の手は器用ではないけれども、舞台を叩いたり(作るという意味)演技をしたりということと、野口整体の愉気をしたりということで手を使うことは多かった。舞台と演技はもう離れて久しいけれども、愉気に関しては現在の自分の体調をととのえたり母の体調を改善したりするのに使っているし、出席できるときには道場の愉気の会にも出るようにして練習もしている。
昔から時々思うのは、そういう方面に進むという選択肢もあるのではないかということだった。私は指導者の人から骨がよく動く良い身体だと言われたこともあるし、実際愉気していても自分でもそれなりに力はあるのではないかと感じることもある。あまりここには書いていないけれども、野口整体以外のものもやってみたりはしているし、レイキなどスピリチュアルが少し入っているものも本で読んだり試したりはしていたこともある。
それはおおむね自分自身のためで、人にやってみたいと思うことはそう多くはないのだけど、でも時にはこの人のためにこれをやってあげたいと思うこともあり、ちょっと頑張ってみようかなと思うこともあったりするのだけど、結局今まで最終的にはそういう選択はしなかった。
そのことを今日少し考えていて、それは昔そういうことをしようとした相手が結局自分の手に負えなくなってしまって離れて行ったことがあったこと、自分なりに頑張ったけど結局上手く行かなかった、いやそれはもともと無理なことをしようとしたのだと今は思うのだけど、うまく行かなかったので、自分にはそういうことはできないのだと思うようになっていたということに思い当った。
それならばそのトラウマを外せばもういちどトライ出来るかなと思ったのだけど、でもそれが出来ても結局は大変になるだけで、自分がそんなに幸せを感じないだろうなということに思い当った。それは教員をやっているときもそうで、結局は卒業して離れて行ってしまう子どもたちを教えることにそんなに深い喜びが感じられないということに気づいたときの哀しみに少し似ているのだけど、それは多分人はいつかなくなってしまうし、あるいはいつかは離れて行ってしまうということと関係あるのかもしれないけど、癒したり育てたりの人間関係の中に幸せの根源を求めることが自分にはあまり向いていないのかもしれないと思った。
多分人間は結局はひとりで、結局は孤独だということを哀しいけれども全面的に受け入れてしまっているので、他者を前提としたことの中に根本的な幸福を見出すことができないのだろう。創作は無から有を生み出すことだから、無の世界と有の世界を行ったり来たりすることで、それはある意味無限に触れることだから、そこに根本的な安心感と慰安があるように思う。有限の世界の中では十分に息をできないが、無限と有限の間を行き来することで深い息をすることができるというか、そういう感じなのだ。
癒しの世界でもやりようによっては有限の世界を超えて彼方に行くことは出来るんだろうなと野口晴哉先生の著作などを読んでいると思うのだけど、どうもそういうことは私の場合はたしなみとして身につけること自体が悪くはないけれども、そこに生きることを幸福としてつかむということとは違う気がした。
そういうことを考えていて、帰って来るべき場所は書くことなのだ、ということに思い当ったのだった。
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