今週読んだマンガ:私が旅立ってしまったら、お前は泣かないというけれど

Posted at 12/09/29

【今週読んだマンガ:私が旅立ってしまったら、お前は泣かないというけれど】

諸事情があって今週は更新しなかった。諏訪の南側の平家の落人の言い伝えがある集落に行ってみたり、湖で朝日を見たりしていたが、マンガも何冊か読んでいる。単行本は玉置勉強『彼女のひとりぐらし』3巻(バーズコミックス、2012)、ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』5巻(エンターブレイン、2012)、こうの史代『ぼおるぺん古事記』2巻・地の巻(平凡社、2012)。雑誌は25日発売の『ビックコミック』、27日発売の『モーニング』、28日発売の『週刊漫画タイムス』と『コミックゼロサム』。ああ、20日発売(だったかな)の『コミックリュウ』の感想も書いてなかった。そのほか立ち読みで少しずつ。たまたまだが、こういう週にこういうコミックスや雑誌の発売日が重なった。

彼女のひとりぐらし (3) (バーズコミックス デラックス)
玉置勉強
幻冬舎

『彼女のひとりぐらし』は完結編。相変わらず妄想系ではあるが、33~34話に出て来た同人女・18歳とのやりとりは可笑しい。この人けっこういい味出していると思うのだけど、連載が終わったらもう出て来ることはないわけで、ちょっと残念だ。35~36話の妹の結婚編はまさに姉妹というものの実体面とほんわか面が上手く書けていていいなあと思った。まさかの感動オチ。いやハッピーエンドっていうんですか。いわないか。

テルマエ・ロマエV (ビームコミックス)
ヤマザキマリ
エンターブレイン

『テルマエ・ロマエ』は現代日本に迷い込み続けているルシウス編。伊藤温泉(ママ)で住み込みで働くルシウスはラテン語を使える古代ローマおたくのさつきの手助けで、現代日本の風呂文化をどんどん理解して行く。そこに古代ローマにおけるハドリアヌス帝の懊悩や伊藤温泉再開発騒動などが絡んで…という展開。相変わらずこの人は上手いし、泣かせるのも笑わせるのも上手。当初はアイデア一発ものだったはずなのだが長期連載化して大丈夫かなあと思っていたけどなんだか恋愛路線も組み入れて可笑しい展開が続いて行く。こういうのを才能というんだろうなあ。絞れば絞るほど出て来る、みたいな。シカゴとか海外に住んでるということも才能の源泉が涸れない一つの理由なのかもしれないなと思った。塩野七生もそうだと思うし。

ぼおるぺん古事記 (二): 地の巻
こうの史代
平凡社

『ぼおるぺん古事記』第二巻、地の巻。オオクニヌシ編。天の巻天の岩戸編もよかったけど、地の巻はすごくよかった。これは主人公がオオクニヌシに固定されて、安定して読んでいられるからだろうなと思う。古事記の神話が不思議なのは、天皇家の先祖を顕彰するのが目的ならそう必要だとは思えないオオクニヌシ神話がすごくふんだんで生き生きとしているところだと思う。もちろん古事記の作者たちがそういうのを残してくれたから我々はそれを楽しむことができるわけだけど。そしてこうの史代はもちろん『夕凪の街、桜の国』でブレイクした人だが、本当にこういうものを描くのにふさわしい人だなと思う。オオクニヌシはもちろん魅力的だが、基本的にスセリヒメがすごく好きだな。というかもちろん魅力的に書かれているんだけど。「早く戸を開けてくれ、朝を告げる忌々しい鳥たちめ、うち落としてやる」「今日はだめ、明日まで待って、かわいがって」というヌナカワヒメとオオクニヌシのやり取りの後、帰ってきたオオクニヌシに焼き餅を焼いて、恐れをなして逃げ出そうとするオオクニヌシがふとスセリヒメの方に歌を詠む。

「私が旅立ってしまったら、お前は泣かないというけれど、きっとお前は泣くんじゃないかな」と呼びかけると、スセリヒメは大きな盃に酒をみたし、「あなたは男だから行く先々につまをお持ちでしょう、私は女だからあなた以外につまはいません、どうぞ先々でその人たちをかわいがって、お酒を飲んで」とお酒を飲ませる。神さまであっても(あればなお?)男は勝手なものだなと思うけれども、勝手でなければ男ではないんだなとも思う。

こういう相聞で印象に残っているのはスサノオノミコトとクシナダヒメの「八雲なす」の歌のやり取りとオオササギノミコト(仁徳天皇)と后のイワノヒメノミコトのやり取りだが、あまりにたくさんの女性に手を出すオオササギノミコトにイワノヒメは愛想を尽かしてしまって帰らない。これがまた源氏物語まで行くと神に等しい繁栄ぶり発展ぶりの光源氏が紫の上の死で再起不能になる。そういう意味では源氏物語のテーマは「私が死んだらあなたは泣けばいいのよ」ということだと言えるわけで、ずいぶん女性の主張が強くなっている。紫式部は女性だから当然だと言えば当然だが。

そういう意味では、文明の進展につれてどんどん女性の主張が取り入れられるようになって行き、現代では古くは男性的なものとされた分野まで女性が進出して男性が去勢されたような状態になってきているわけだけど、まあ異常性欲が多いとかそういうのも共通した問題なんだろうけど、文明に活力を取り戻すためには男がもっと勝手なことをしなければいけないということになるんだろうと思う。古事記の神々の時代には男が勝手であればある程女に愛される(もちろん妬みまくるわけだが)という構造が明確に見られたのだけど、今の男は多分先回りして物分かりがよくなりすぎているんだなと思った。それはある意味女性には暮らしやすい社会だろうけど、物足りないつまらない社会かもしれない。

女性がそういうアンビバレントなものを求めるから男はめんどくさくなって二次元に逃げたりするのが本当のところなのだと思うのだが、まあいくらめんどくさくても男は優しくもあり勝手でもなければ人類は滅びてしまうわけで、やっぱり男は大変だと思う。

「ますらをぶり」とか「たをやめぶり」というけれど、結局そういうことなのかもしれないと読んでいて思った。

まあオオクニヌシはサウジアラビアの王様よりもたくさんの女性を抱えてたくさんの子どもを産ませているわけで、(サウジアラビアの初代イブン=サウドは1930年代に建国したのに2012年現在いまだにその息子たちの間で何代か国王と皇太子の座を兄弟相続している)「男の中の男」と天河藍『吉祥7』にも書いてあったが、男にとっては勝手であることとバカであることは必要な素質なんだなと改めて思った次第。

なんつーバカで勝手な読み方。(笑)

月刊 COMIC (コミック) リュウ 2012年 11月号 [雑誌]
徳間書店

『コミックリュウ』は鶴田謙二「さすらいエマノン」とふみふみこ「ぼくらのへんたい」が休載で、アサミ・マート「木造迷宮」と睦月ムンク「陰陽師」しかまだちゃんと読んでいない。とくに「ぼくらのへんたい」は毎月楽しみにしているだけに残念だった。『ビックコミック』はこれが絶対読みたいというのはないのだけど何となくどれかが面白いという感じでだいたい読んでいる。敢えて言えば中村真理子「天智と天武」だろうか。藤原氏が悪玉。『モーニング』は今週も面白かったが来週の予告に「ピアノの森」が出てなかったのが残念だった。

『週刊漫画タイムズ』は篠原ウミハル「図書館の主」が感動したなあ。「星の王子さま」が取り上げられていて、「砂漠がこんなに美しいのは、どこかに井戸を隠しているからなんだよ」というあのセリフでやられたという感じだった。才谷ウメタロウ「ガズリング」は新キャラ登場。芳家圭三「壊れた仏像直しマス。」で仏像の胎内文書の話。像の中に収められ、像を壊さなければ取り出せない文書は、真実を知る手掛かりかもしれないが、そのために仏像を壊すことはただの破壊だ、という話。真実を知ることだけがすべてではないと。竹下ケンジロウ「レンアイガク」がだんだん面白くなってきた。紅林直「月やあらぬ」は在原業平が主人公。平安初期のこの時代をテーマにした漫画はあまり読んだことがないのでけっこう面白い。それにしてもほんと藤原氏ってどこ行っても悪役になってるな。源氏物語からしてそういうところあるからね。

Comic ZERO-SUM (コミック ゼロサム) 2012年 11月号
一迅社

「コミックゼロサム」はおがきちか「ランドリオール」と天河藍「吉祥セブン」がお気に入り、宮本福助「拝み屋横丁顛末記」とD・キッサン「千歳ヲチコチ」も楽しみにしている。ランドリは今月はちょっとこまかい展開だったな。久々に格闘シーンはあったけど。吉祥セブンは布袋さんがまさかの黒さを見せたところで以下次号。拝み屋はツンデレの幽霊とツッパリ。千歳ヲチコチは平安時代の貴族たちの日常の中で変わりものの姫と真面目な青年のほのかな恋物語という王道をコミカルに。こうしてみると日本史題材マンガをずいぶん読んでるなあと改めて思った。

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