原爆忌/『マイマイ新子と千年の魔法』を観た/人に似ようとしないこと
Posted at 12/08/06 PermaLink» Tweet
【原爆忌】
今日は原爆忌。朝早くは晴れていたけど、投下時刻のころには空も暗くなってきていて、午後には雨も降ってきた。それもかなり激しく。夕方に電気工事が入る予定があったので遅くならないうちにと思って銀座に出かけて、パンとほんと夕食の買い物をして帰ってきた。ブックファーストにいるときに工事の人から電話が入って1時間後に行くということだったので急いで帰ったのだ。工事が終わって晩御飯を食べてひと段落して、『マイマイ新子と千年の魔法』の続きを観た。
【『マイマイ新子と千年の魔法』を観た】
マイマイ新子と千年の魔法 [DVD] | |
片渕須直監督作品 | |
エイベックス・マーケティング |
『マイマイ新子と千年の魔法』観終わった。一度見てしまうとどうしてこんなにいろいろなところで何度も引っかかったのかなと思うのだけど、基本的に私にとっては観にくい作品だった。いや、悪いというわけではない、なんというか、疑問に思うところもいろいろある…というか大人の事情みたいなものをそこかしこに感じるということはあるのだけど、作品として悪い作品ではない。
気になるところの例を言えば、たとえば時間の流れ方。最初はすごくゆったりしたペースで時間が流れていて、仲間たちの時間が暗転をし始めてからの急展開。エピソードがひとしきり終わると急にものすごく速く時間が流れておじいさんが死に、新子は引っ越してしまう。ものすごく丁寧に時間の流れを描いていたのに、最後だけ急に早送りみたいになってしまったのはついていけないというか、残念な気がした。最初の方は逆に時間がゆったり過ぎてその歩調の遅さに我慢できないという感じがあったのだけど、最後は駆け足過ぎておいてきぼり。私ならもっと時間の緩急を考えるだろうなという気がした。
題名もちょっと気になる。『マイマイ新子』って十分面白い題だと思うのだけど、それに『千年の魔法』をつける必要があったのか。というようなところに大人の事情を感じたりするわけだが。原作は高樹のぶ子の自伝的小説ということだけど、実際小説家の書いた話だなと思う。本当に絶妙に、心の中の嫌な部分、あまり触れられたくない部分、思い出したくない部分をせせり出さされる感じがする。特に前半のずっとゆっくりと時間が流れる部分で。タツヨシの父さんが死んでから後の急展開は、むしろこの部分だけお話し的、物語的で、なんか作り物をそこだけポッと取って付けたような感がちょっとあって、そこはちょっと違和感があった。いや、面白くないわけじゃないんだけど。
キャラクターとして好きだなと思ったのは「バーカリフォルニアの女」と「二階で博打をやってるヤクザ」の二人で、子ども相手にすごんだかと思うと事情を知って俯いたり泣き崩れたり。決していい人たちじゃないんだけどでも人間なんだなと思う。敵討ちに出かけたタツヨシが、憎んでたその二人も父の死を悲しんでいることを知って、むしろ父の人間的な弱さを知り、どうしたらいいかわからなくなりつつも、新子に励まされて精一杯遊んで精一杯ちゃんとした大人になろうと決意する、そのあたりの少年のいたいけな悲しみみたいなものが、わかるような物足りないような。うーん、書いているうちにわかってきたが、やはり小説の内容に準拠している部分が大きくて、その機微みたいなところがアニメでは表現しきれてない部分があるのがやや消化不良なんだなと思った。
そういうふうに思ってしまうのは、やはりアニメ界には宮崎駿をはじめとする、巨人たちがゴロゴロしているからなんだと思う。宮崎だったらアニメで表現しきれないところはばさばさ切るし、アニメでしか表現できないものをぼんぼんぶち込むだろう。そのあたりで原作者と軋轢を起こすことを恐れないところが宮崎にはあるが、この作品ではそのあたりを穏便にしてしまっていてその辺もまた大人の事情っぽいものを感じてしまうんだなと思った。
映像は悪くないし、音楽もいい。というか、音楽は基本的にすごくいいと思った。最後にカーペンターズの『シング』を持ってくるのはどうかなという気がちょっとするけど、でもそう悪くはないともいえる。オープニングの、緑の小次郎が走っていく場面の音楽など、すごくいい。あれは耳につきそうだ。
ただ、ストーリー的には、小説以上のものが表現できているかというと微妙だなと思う。アニメとか映画も、映画を見ているというよりは小説を読んでるような気持ちになってくる作品が時々ある。まあ小説原作の映画の宿命と言えばそうなんだろうけど。だからそういう部分で見ながら何かしてやられているなあと思ってしまう部分は、監督というよりは原作者にやられてるんだろうなと思ってしまうわけだ。アニメは小説の絵解きに終わっては面白くないわけで、やっぱりどこまで原作と戦えるかというところを観なければいけないんだと思う。
なんかケチ付けてるみたいであれなんだけど、私も基本的には面白いと思ったのだ。特に後半は強制的に感動させられた感がある。ただ面白いと感じた映画だからこそ、いろいろと言いたくなるのだと理解していただければと思う。
どうしても観づらいなあと感じてしまうのは、子どもの頃のことがあまりにリアルにそこにあるからだろう。描写がリアルというよりも、本質がリアルと言えばいいか。子どものころに存在を意識したいろいろなもの、こわい犬、こわい上級生、話が通じないのに気を使わなければならない発達の遅れた同級生。自分が子どものころ、なんとなくいやだなあとか鬱陶しいなあと感じていたものをこれもあるでしょ、あれもあるでしょという感じでポン、ポンと出してくる。なんというか、「世の中のほとんどのことは自分の思い通りにならないんだということを思い知らせてくれる世界の多様性」とでもいうべきものがそこにあるのだ。それをそのころ感じたざらざらっとした心の肌触りみたいなものをそのころのままに思い出させられるのがちょっと軽く不愉快だったり、抵抗があったりするわけだ。
私はそういう子どもが耐えなければならない不愉快さ、不自由さみたいなものが子どものころはすごく嫌で、早く大人になりたい、自由がほしい、力がほしいと思っている子どもだった。そういう意味では新子の言うような、子どもに教えられる遊びを楽しむような部分はないわけではなかったけど、不満の方がずっと強かったなあと思う。大人になったら自由に生きる場所を選べる。自由と力を得て生きたい場所で好きなように生きることが出来る。それが子どものころの一番の夢だった。東京のような、養老孟司流に言えば脳化された社会であったら、人の思いに沿った形で社会が動いているから、思い通りになることもあるのだが、田舎はすでにアプリオリに決定していることが多すぎるのだ。特に前半の部分を観ながら感じていたのは、子どものころの嫌だった田舎の肌触り(心の)みたいなものだったのだ。
多分、これが人に勧められた作品でなければ観なかったし途中で投げ出しただろうなと思う。しかしイヤイヤながらでも見ることによって、自分がイヤだったいろいろなことが思い出されてきて、自分がどんな人間なのかということの、普段見ないようにしている部分が見えてきてこれは創作上はすごく参考になることだと思った。なんというか結局ある意味、世の中というものに対して40年くらい前の子どものころと同じ感じ方をしている部分が実はすごくあるのだと思うし、「こうするべきだからそう考えることにする」とか「そう感じるのはよくないから感じないことにする」みたいな部分を自覚することが出来たなと思う。
私は、この映画の中の子供たちのように自然の中で自由に遊びまわることが楽しくないわけではなかったけど、私はもう小学校に入ったころにはすでに本の虫だったので、田舎の自然の素晴らしさなどというものはプラスアルファなものにすぎなかった。自然の中で大人たちを抜きにして経験したいろいろなことが、自分の財産になってると感じるところはもちろんあるのだけど。
すごくいいなと思ったのは、些細なことで友達関係が崩れていくまさにあの時のせつなさ、胸が締め付けられるような感じ、素敵な先生の不倫のうわさや憧れのお父さんの自殺などで崩れていく大人への思い、憧れが幻滅に変わっていくときのあの何とも言えない感じがすごく自然に出ていた。新子もきい子もタツヨシも、物語の進行の中で生き生きとした子供らしさと世の中に思い通りにならない、どうしようもないこともあるということを知ってでもそれを乗り越えていくんだという少し成長した子どもになる、子どもだっていろいろなことを感じ、いろいろなことを知っているんだよということを教えてくれるような、あの感じもいいなと思った。
新子のお母さんがなんだか無邪気な人で、『夕凪の街・桜の国』の七海のお母さんみたいな感じを思い出した。お父さんがいるのかいないのか、と思ってみていたら最後になって小山のようなお父さんが出てきてこれはなんだか戸惑った。
とにかくなんというか、この作品の世界は私にとってはフィクションではなくて、なんだかリアルでしかないような感じがどうしてもあって、現実をそのまま作品にするなよ的な感じを持ってしまうところがある。本当に感覚的な部分では、今も子どものころに感じたような受け取り方で世界を感じ取っているんだなあということに気づかされたことが、私にとっての最大の発見だったと思う。
まあ『もののけ姫』の後に見ているから点が辛くなるのは致し方がないなとは思うけれども、実際偏差値60くらいはあるだろうと思う。そして多分、そのくらいの映画が一番いろいろなことを言いたくなるし言いやすいのだろうと思う。
【人に似ようとしないこと】
僕は、だれの真似もしない | |
前刀禎明 | |
アスコム |
10日ほど前に友人からメールが来て何かと思ったら私にお告げがあったので伝えるよ、というメールだった。その内容は、「誰かに似ようとしないで常にあなた自身でいるように心掛けてください」というものだった。なんかこの言葉は味わい深いなと思って、折に触れて思い出している。今日銀座に行ったときにブックファーストで前刀禎明『僕は、だれの真似もしない』(アスコム、2012)という本を見て、これは買った方がいいんじゃないかと思って買った。まだ読みかけだが、アップルの立て直し時代にジョブズと一緒に仕事をした人だということで、最近ウェブでインタビューを読んだ覚えがあったのだ。まだ少ししか読んでないけど、面白そうな感じ。なんか参考にあることがあるかもしれない。
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