何者かであるということ
Posted at 12/06/19 PermaLink» Tweet
【何者かであるということ】
昨日。学生時代から教員時代の初期にかけて活動していた劇団を何の気なしにgoogleで検索したら早稲田の演劇博物館の上演記録が出てきて驚いた。それをFaceBookに書いたらさっそく元劇団員や私の劇団活動を知っている友人から反応があって、いまネット上で検索してもほとんど出てこないこの劇団の活動を、何らかの形でウェブに上げることは必要なんじゃないかと思った。この劇団の活動期は1980年から1994年、その中で一緒にやったメンバーには今演劇シーンやその他の場所で活動している人たちも何人かいる。私は1982年から1994年まで時々休んだりしながら関わり続けた。30年前から18年前までの12年間。今思うと私にとってもとても充実した時期だった。
自分の記憶を頼りに上演記録を再現してみたのだが、ところどころ記憶に不鮮明なところがあるし、自分が関わっていないところでは分からないところもある。記録に粗密が出そうなのだけど、もう少し形を整えたら何らかの形で公開したいと思う。
少しでも情報がないかとネットでいろいろ調べたのだけど、今演劇シーンで活躍している人はプロとしての活動を始めた後のことはたくさんあってもその前の情報はほとんどない。しかしその時にプロデュースした人のコメントがあったり、いま一線で活躍している文芸評論家が1982年に野外でやった公演を見に来ていることが分かったり、思いがけない情報に出会った。
『○○が○○の戯曲を演出しているのだから、面白くて当たり前』というようなコメントがあり、そうか、いまになってはそういう言い方が可能なんだなと思うといろいろなことを考えさせられた。この人本人を含めて、「何者かになる人はなるべくしてなっている」のだ、ということを思った。
翻って私はどうだろう。何者かになろうと足掻いた時期もあり、それどころではなく、『人間仮免中』ではないが、「この世にあるだけでありがたい」と思うような時期もあった。とにかく生き残ることが第一の目標で、そのために柵と思われるようなものをばさばさと切った。結果、自分が関わってきたほとんどの関係を失って、楽にはなったが自分が何をやっているのか、どこへ行ったらいいのかわからなくなった。見たくないものに意識的にも無意識的にも目を瞑り、とにかくひたすら少しでも「快くこの世にあること」で精一杯だった。
今思うと私は、「何者かになる」「何者かであろうとする」意識が弱かったのだと思う。今やっていることが生きるために頑張っていることなのか、何者かになるために頑張っているのか、常にはっきりしていなかった。常に曖昧である、というのは洒落としては面白いが実際問題ではそれはよくない。自我も生活も不安定だったから何者かである以前にどちらを安定させなければと思って、なかなかどちらも安定しなかった。とりあえず現在はありがたいことに生活は安定してきているので、それでこういうことを考える余裕も出てきたのだろう。
自我の問題はそれだけでは解決しないが、しかし結局は自分が何者であるのかがよくわからないから不安定であったわけで、それは結局は解決方法は一つしかないのだ。
「何者かである」とはどういうことだろうか。
それは結局、「常に何かを世に問う存在である」ということだ。どう評価されるかは二の次だ。ある作品を世に問う。ある価値を世に問う。ある方策を世に問う。問われた世がそれに何らかの答えを出さずにはいられないような、何かを世に問う存在であることだ。
そのことによって世界は少しだけ変化する。問い続けることによって、世の中は継続的に変化するだろう。それが目に見えるとは限らない。誰かの心の奥底が少しだけ明るくなるに過ぎないこともあるだろう。しかしそうやって世に問うことだけが、世の中を前に進ませる。
だれもが何かを世に問う存在である必要はないかもしれない。しかしそういう人間でありたいならば、だれでも、いまからでもそれができるのが現代という時代だ。
今からでも、やるべきこともできることもいくらでもある。そんなことを思った。
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