中国はネットの検閲と削除を民間企業に委託しているらしい/「アイデンティティという弱点」と「忘れるという能力」
Posted at 12/04/16 PermaLink» Tweet
【中国はネットの検閲と削除を民間企業に委託しているらしい】
動員の革命 - ソーシャルメディアは何を変えたのか (中公新書ラクレ) | |
津田大介 | |
中央公論新社 |
今日は朝から体調が悪いのだが、昨日買った津田大介『動員の革命』(中公新書ラクレ、2012)と以前に一度読んだ甲野善紀・名越康文『薄氷の踏み方』(PHP、2008)の二冊を交互に読んでいる。『動員の革命』は114ページまで読んだが第2章に入ってからはあまり目新しくはないまとめが書いてあるという感じで、少し読みにくくなった。第1章で印象に残った言葉をいくつか列挙すると、一つ目は「ソーシャルメディアは行動の背中を押してくれる機能を持つ」というくだり。これはまあ実際そうだろうしうまくまとめた言葉だと思う。
二つ目は、中国のネットはソーシャルメディアへの接続を禁止しているが、富裕層にはそれにかかずらわされないVPNという抜け穴があり、それを知っていながら中国政府は取り締まっていないという話。これは知らなかった。少々のお金を出せば海外の情報にもちゃんとアクセスできるという現状は今後どう変わっていくのか。三つ目も中国で、中国政府は検閲をアウトソーシングして民間企業がチェックし削除している部分が相当あるのだということ。これも知らなかった。ある女子学生がアルバイトで親日的な記述や日本がよいことをしたというような記述を削除しているうちに親日家になってしまい、早稲田に留学したという話が可笑しかった。両刃の剣とはまさにこのことだ。
多分中国のネット事情には日本とも違いまた欧米や韓国などの先進国とも違い、また途上国やイスラム諸国などの検閲の残る国ともまた違うところがいろいろあって、混沌とした状況の中で多くの人々がいろいろな方向に自分の能力を伸ばしていこうとしているのだなという印象を受けた。昔はとにかく人口に物を言わせた人海戦術とか特訓によりすごい迫力で英語を身につけていく典型的な開発独裁国家のエリート層というようなところがクローズアップされていたけど、最近では人間性と抑圧国家と商業主義と伝統の因習の混ざり合った巨大な混沌とした実験場という印象が強くなっている。面白い面も恐ろしい面も巨大な感じだ。
【「アイデンティティという弱点」と「忘れるという能力」】
薄氷の踏み方 | |
甲野善紀・名越康文 | |
PHP研究所 |
『薄氷の踏み方』はかなり前に読んでたくさん付箋が貼ってある本なのだけど、今読むと以前貼った付箋の部分は全然面白いとは感じないのが面白い。今回印象に残ったのはアイデンティティの話で、これは武術で言う「居着き」、一般語で言えばこだわりとかひっかかりとかそういう言葉に近い感覚だという話が面白かった。読んだ当時はもっとアイデンティティについて重要性を認めていたからこういう記述は無視していたのだと思うが、今読むとこれはよくわかる。アイデンティティというのは心のよりどころで、それはむしろ見つけ出して大事にするものではなくて、すでにとらえられていて逃れられないもの、みたいなものと考えた方が、つまりむしろ自分の自由を制限するものととらえたほうが正しいのではないかと思った。アイデンティティというと信念のようにとらえられることもあるけど、たとえば「私は日本人だ」というのは事実ではあっても信念ではない。そしてそこに多少のこだわりがあるのは事実だ。そこにこだわるということは、武術的に考えればそこに弱点がある、ということでもある。自分の生きてきた世界や構築してきた知的体系みたいなものと自分が日本人であるということは強いかかわりを持つから、それを否定的に言われるとかなり心が揺れることは事実だ。それを考えると、アイデンティティというのはそれがあれば安心だ、と思い込むこともできなくはないけど、まっさらな心で臨むときはむしろまっさらでいられない動揺のもとでもあるのだなあと思ったのだった。
またカウンセラーである名越氏がものすごい真剣にカウンセリングした患者のことを終わったとたんにすべて忘れてしまい、電話がかかってくるとすべて瞬時に思い出したりする、という話。甲野氏がそれについて「それがプロであるということだ」と言っていたけれども、これもすごくよくわかる。一期一会というか、その場以外ではそのことが完全に忘れられることこそがその場で深く深くその人にかかわることと表裏一体をなしているのだろう。どんなに重い話をしても、終わったとたんに瞬時に忘れられる、まったく引きずらないというのは、心にしろ体にしろ相手との語り合いをその本質とする仕事において、すごく大事なことだと思った。
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