私が幸福という言葉に対して持っているイメージ
Posted at 12/03/09 PermaLink» Tweet
【私が幸福という言葉に対して持っているイメージ】
毎日トクしている人の秘密 | |
名越康文 | |
PHP研究所 |
引き続き名越康文『毎日トクしている人の秘密』第2章「私の感覚は、嘘かもしれない」の感想。最初にまず、名越氏があらゆる幸福論と言うものにピンと来るものがなかった、と言うことから。名越氏は「幸福になりたい」と言うこと自体が「ものすごくかっこわるい」と思えて嫌だった、ということを言っている。私は同じ言葉で考えたわけではないけど、それはすごくよくわかる。というか、幸福という概念自体がいつも全然ピンと来ていなかった。幸せだなと感じる瞬間がもちろんなかったわけではなかっただろうけれども、それは長続きしないもの、一瞬のものだという気持ちが強くて、何というか幸福というものの実在性みたいなものがあんまり信じられないというか、あやふやだったような気がする。
しかし世の中にとって幸福ということは一大問題だったらしいということはよく分かった。政治というものは「社会を幸福にすべきもの」だし、宗教は個人の幸福を約束しているし、社会主義にしても共産主義にしても結局は社会を幸福にするための理論だとだいたい思われていた。私の父は特にそういう人で、科学的社会主義ならぬ科学的幸福論みたいなものを追求した人なので、父がなぜそんなに幸福というものを追求するのかよくわからなかったし、そういうものがピンとこない私はそのこと自体に罪悪感を覚えていたような気がする。
だから私の中で幸福ということばはとても観念的な存在だった。それが初めて実感として感じられたのは多分女性と付き合うようになってからだと思う。これが幸福というものか、という実感は付き合ってすぐに得られたし、まあ正直夢中になった。それは性的なものでもあるし、違う言葉でいえば承認欲求が全面的に満たされたということでもあったし、完全な不安の消失、RCサクセション「スローバラード」の「悪い予感のかけらもないさ」という歌詞そのものの感覚でもあった。しかし実際そういうものは永遠には続かない。だから別れるということになると修羅場化するし、付き合いが長くなってくると幸福感が逓減してきて、何かものすごくそのことに焦りを感じたりした。今その頃の状態を一言でいえば『渇愛』という状態だったんだろうなあと思う。
そうなると今度は幸福というものの理解がチベット仏教的というか真言立川流的というかまあそっち方面に傾いたりして、でもそういう個人的な幸福感と社会的な幸福というものの折り合いというかそういうものがどこでつくのか分からなくなって、結局なんだかよくわからなくなっていた。愛とか幸福というものをすごく求める気持ちがある一方で、でもそれに縛られるのが嫌で仕方がないという面もあったり、でもいっそ愛やそういう意味での幸福感に溺れ続けていたいと開き直った時期もあったけど、やはりそういうものはいつまでもは続かないわけで、結局は男も女も自立していかざるを得ず、そうなると溺れていた時には隠れていた意見の対立がはっきりしてきて、その対立と一体感の齟齬に耐えられなくなったりもした。ああ何というかどろどろした青春だったな。
今特定の人がいなくなった状態になって、やはり自分にとって自由ということが大事で、幸福というものはオプションみたいなものなのかなという感じもあるのだけど、まあなんだかその辺が割り切れているわけではない。まあなんというか幸福というものは自分にとってはどうもものすごくめんどくさい概念ではある。
名越氏は幸福についての野口裕之氏の講話を聞いて衝撃を受けたという。それは、「自由と幸福は決して共存することはない。なぜなら自由はひとりで感じるものであり、幸福は他人と共有するものだからである」というものだったという。これはまあ私の経験そのまんまというか、幸福の極致はある意味完全に手足を縛られた状態だという感じがあったし、(SM的な意味ではなく…いやサディズムとかマゾヒズムというものの本質はそういうことなのかな、よくわからないが)自由の清々しさというものは一面淋しいものだということは常々感じていたから、まあその丸め方はまあうまいこと言うなあという感じがした。
幸福は他者と共有するものである、ということは、幸福には原理的に他者に対する依存性が含まれていて、それは麻薬的な強度と副作用を伴うものだ、と名越氏はいい、幸福という言葉にはそういう強迫性が伴う、と指摘している。まあそれは私のこの言葉に対する本当の感覚的な受け取り方に近いなと思う。というのは上記のような理由で私はむしろ幸福というものをいいものと思いこもうというところがあったのでよけい混乱しているからなのだが。実際幸福や愛という実体の見えにくい言葉に振り回されて疲れきっている人は本当に多い、というけれども、まあそれはそうだろうなあと思う。
だから幸福というものは二次的な概念であり、幻想にすぎない、本質ではないから追い求めるのはほどほどにしておいた方がいい、と名越氏はいうわけだが、このあたりになるとさすがに抵抗がある。その抵抗の第一は、一つには私が幸福とはいいものだと思いこみたいというある種の偶像を否定されることに対する抵抗だなと今書いていて思ったこともあるけれども、ある意味幸福というものを一面的にとらえ過ぎなんじゃないかという抵抗もある。だからこのあたりの論の展開にはついて行きにくいところがあった。
では幸福というものと人間はどう付き合えばよいか、ということについて、そういうふうにとらえてみると、「幸福になるためにはこういう考え方をしなさい」みたいな話は全部嘘臭い、ということになる、というわけだ。まあそれはそうだなというのは分からないではない、というかまあ胡散臭いと思いつつとりあえずやってみようかなと思ったりしてしまいそうな話ではある。まあそういうふうに一刀両断する名越氏はどう論を展開するかというと、考え方なんてものは人間総体から言ってごく浅い次元にあるものであって、より深い次元にある「感覚経験」にアプローチしなければならない、という。
このあたりになると、やはりちょっとよくわからないところがある。ああそうか、やっぱりよくわからない、よくわかってないんだな。それではこの先のところはまたあらためて考えてから書こうと思う。ということで続く。何かただどろどろで話が終わってしまったが。
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