部屋を片付けることで見えてくるもの:自分の欲望、いまの自分の欲しい望み
Posted at 12/02/21 PermaLink» Tweet
【部屋を片付けることで見えてくるもの:自分の欲望、いまの自分の欲しい望み】
昨日から東京の部屋の片づけがぽんぽん進みだしている。結局、今まで何から手をつけていいかがよくわからないで、『人生がときめく片付けの魔法』のレシピに従い、主に衣服から手をつけていたのだけど、まあ確かに片付けやすいことは安いのだがそんなに凄く片付いた、という実感がないのが残念だなあと思っていた。相変わらず部屋の中はごった返しているし、でもたんすの引き出しを開けたときにきれいに片付いているのはやっぱり気持ちいいものだったけど。
人生がときめく片づけの魔法 | |
近藤麻理絵 | |
サンマーク出版 |
結局、片付けるということは捨てるということなのだ。捨てたいものはたくさんあるけど、過去のしがらみにまつわるものを捨てるのが一番片付いたという実感がある。だからそういうものから捨てたいなと思う。
もう20年以上前に勤めていた学校で図書の処分が行われたときに、もったいないと思って100冊くらい捨てられた本をもらってきて、それが今でも押入れの中や部屋の隅のダンボールの中に大量にあった。どういうわけかそれらの本を捨てようという発想にならなかった。つまり、「もったいないからもらってきた」のがいつの間にか、「必要だからもらってきた」と刷り込まれてしまっていたのだろう。考えてみるとおそらくは、もらってきた時点で私自身が「しまった」と思っているところがあって、でもそれを認めると負けだと思って(笑)、自分の意識を「この本たちは必要なんだ、うん」というふうに操作してしまっていたところがあったんだなと思う。実際のところ、もらってきた本で今まで読んだものは画集以外はほとんどゼロ。これから読む可能性があるかも、と思ったものも何冊かしかない。20年間読まなかったものをこれから読むかというと少し疑問ではあるが、自分のまあコレクションとして取って置いてもいいかなという感じがちょっとするわずかなもの以外は、この際思い切って捨てることにした。
で、マンションの集積所にどんどん運ぶと、部屋の中が異様にすっきり(いや、当社比であって初めて来る人がみたら散らかってるねと思うだろうけど)してきて嬉しくなってしまった。そうやって積んであって物がなくなり、その下の段ボール箱を開けると『諸君』だとか『正論』だとかたちあがれ日本的な古雑誌がぼんぼん出てくる。さすがに今読むと内容が粗雑だなあと思うものが多くて、これからも付き合いたいかといえばちょっとなという感じのするものがかなりあり、でもその中には文芸雑誌みたいなのが混じっていたり、『文藝春秋』の江藤淳追悼号みたいなのも出てきたりして粛然としたりもする。『文学界』で石原慎太郎が芥川賞を取ったばかりの町田康と対談してるのとかがあっていま読むとけっこう面白いなと思ったのだけど、当時は本当は文学のことなんか全然分かってなかったよなあと苦笑してみたりする。それにしても柄谷行人は相変わらず何が面白いんだか全然分からないのでもう思い切って処分する(古雑誌と一緒には捨てないけど)ことにしようかな、と思ったり。
そうやって掘り起こされてくると、昔の自分とか、それに対比されて今の自分とかがビビッドに浮き上がって見えてくるところがあって、凄く面白い。とにかく片付けの突破口を開けたことで凄く自分の中がよくなっていく、自分のやりたいことが見えてくる感じがするなあと思った。これがまさに『人生がときめく片付けの魔法』なんだろうけど。
いまの自分がやりたいことをやるということは、自分の欲望を理解するということなんだなと思った。欲望というのは動的なものだから、じっとしていると分からなくなってくる。今まで部屋の中が動かない淀んだ状態になっていたから、動き出してすごく楽になってきた。欲といっても性欲のような不確かな形のないものではなく、欲というよりも望というのに近いものが見えてきて、それの方が大事なんだというか、やりたいこと、望みみたいなものがイメージできるようになってきた感じがする。より大きな妄想というか、いくらでも広がっていける理想というか、世界を幸せにするかもしれない望み、みたいなもの。そういう望みは、いま自分がやりたいことをやることで、自分の欲しい望みをはっきりさせることの中からしか出てこないらしい。
まあ気持ちの中ではいろいろ捨てた気になってたけど、まだまだ全然物理的には捨てていませんでした、というのがオチだったなと思うのだけど、まあとにかく人の手を借りないで処分するということが大事で、それがどんどん進められればたとえばブックオフに本を送ったり大学に寄付するために本を送ったりすることもやる気になる。とにかく自分の手で捨てる、といっても集積所に運ぶだけなのだけど、そうやって自分が片付けている、捨てているという実感を持つことが大事なのだ。
それはつまり、自分が自分の部屋を、ひいては自分の置かれている状況をコントロールできているという実感が持てるからで、自分がこの部屋を押さえているんだという気持ちがなければ元気が出ないわけだ。片づけが元気の源泉になるのは、結局そういうことだと思うし、「捨てることができる」自分、つまり何だかんだ言って一番重要で一番難しくもあるのが捨てることだから、それが出来たらほかのことはコントロールできると思えるし、実際できるようになるんだと思う。
今考えれば、部屋をコントロールできなくなったきっかけも、あの本をもらってきたことだったなと思う。当時はまだ、本はあればあるだけいいと思っていた時期だったけど、読まない本を百冊もらうというのは今考えると健康に悪い。使わない脂肪が身体につくようなもので、メタボリック症候群を起こしていたんだなと思う。今まで何が原因かつかめなくてカットできなかったけど、とっておきたい本と使う本、読む本、読んだ本だけで構成されている蔵書は持つに値するものだ。結局いつでも読みたい本、必要な本にアクセスできて、蔵書というものを使いこなせているという実感を持つことが大事なんだろうと思う。多分適当な冊数はあるのだと思うが、自分の能力と部屋の収容能力などを考えるとまだまだ多すぎることは確かだ。そういう全体感、自分の能力と部屋の収容能力、それはつまり部屋をどうデザインするかという問題にも関わってくるから、それを見極める力もまたとりあえずはどんどん捨てて整理を進めていくことで蘇ってきた感じがする。
もともと昨日片付けに何十度目かのスイッチが入ったのは(禁煙と同じだなこういうのは)友人が引っ越すので大きなテーブルが不要になるというのを聞いて、それをもらいたいと思ったことがきっかけだった。そのためには部屋に溢れている本たちや本棚や使ってないライティングデスクなどをどうにかしないといけないなあと思って、眺めているうちに「これは必要ないじゃん!」ということに気がついたのだ。過去のしがらみとかがあるとそういうのって目にしたくなくなるから、見てても見たくなくてそのままになっていたのかもしれない。いままでの本の整理でも、捨ててしまおうと思ったことは一度もなかった。結局自分が暮らしたい部屋にするためには、欲しいものを買わなければいけないし、そのためには古いものを捨てなければいけない。それも、根拠があって買ったものだけが部屋の中にあるわけでなく、「なんとなくある」ものもたくさんあって、その中には必要なものだってあるにしても、やっぱりどうにかした方がいい物だってたくさんあるので、いまの自分に必要か、いまの自分がとっておきたいものか、ということを基準にして処分していくしかないんだと思う。まその辺理屈ではないので、でも片付けるときには理屈がないと自分がけっこう混乱してしまうので、そういうふうに自分に確かめながら物を捨てていっている。
いずれにしてもけっこういまハイになっている部分があり、そういう時というのは身体に変調が出やすいので、行動するのはいいのだけど、心が濁らないように、こころを澄ませることを大事にしながら、自分が自分として正しいと思うことを実行して行こうと思う。しかし、自分が今どういう状態にあるかを見るためには、そういうものもある意味すべてリセットして自分がいの視線から自分を見ることが必要になってくる。そうすると肉体の変調も分かるし、自分の心の持ち方も、少し入れ込みすぎだなとかこの辺を見落としているなとか、そういうことが分かってくる。瞑想であるとか活元運動であるとかを、意識的に生活の中に組み込んでいかなければなあと思う。
自分のやりたいことに向かって進んでいるとき、ふと「もっと先があるんじゃないか」と思うことがあって、自分のやりたいことというのはつまり「いまの自分」がやりたいことなわけだけど、何かもっと違う自分がもっと先を見たいよ、と言ってる感じがすることがあるのだ。動いてないときにはその二つが違いが分からなくなっていて、やりたいことより先を見たいことのほうに行ってしまって余計わからなくなったりするのだが、動き出してみるとその二つは明らかに違うし、「その先」というのをいま自分が見るべきなのかどうかも分からないなと思う。とりあえずはいまの自分がやりたいと思うことを全力でやるのが幸せだしそれをやらないと前に進まないと思うのだけど、その先を見たいなと思う自分も確かにいる。それはたとえば、何か文学的なものなのかもしれないし、何か宗教的なものなのかもしれない。宗教とはいわないまでも哲学的なものとか。とにかく先に述べたような形での「世界の幸せ」とかとはまた違う次元のものであるような気もするし、そういうことを本当にしたいと思っているのか、またそこにいくことが本当に自分に向いているのかもまたナゾだなと思うところがある。
いままで自分がやりたいことはそういうことかなと思っていたのだけど、どうも「いまの自分」がやりたいことは必ずしもそういうことではなさそうなので、いろんな意味でいまの自分がやりたいことに向かってとりあえずは進んで行こうと思う。
いるかいらないか分からないものをどうするか考えてくよくよするより、「本当にいらないもの」をさっさと捨てた方がいいなと思った。こういうのって当たり前のようだけど、気がついてみたら目から鱗の発見だった。コロンブスの卵とはこういうことだ。
うわ、もう10時になっちゃった。ちょっとくどくど書きすぎた。
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