立春/岡本太郎『自分の中に毒を持て』読了(1)
Posted at 12/02/04 PermaLink» Tweet
今日は立春。朝の最低気温はマイナス8度。昨日よりは暖かい。「袖ひぢて結べる水のこほれるを今朝吹く春の風やとくらむ」という感じだ。太陽暦で言えば新年。今年も素晴らしく実りある年になりますように。
自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか (青春文庫) | |
岡本太郎 | |
青春出版社 |
岡本太郎『自分の中に毒を持て』(青春文庫、1993)読了。岡本太郎の著作で読了できたのはこれが初めてじゃないかな。前にも書いたけど、ようやく読めるようになったんだと思う。読めるようになってみると何を読んでも面白くて仕方ないみたいな感じになってきた。この人本当に本質がわかってる人なんだなと思う。一度分かってみると、いちいち言ってることが腑に落ちるんだよなあ。ただそれは私が岡本太郎の生き方を少しは知っていたこと、父が岡本一平で母が岡本かの子だということも知ってること、彼の作品は好きでわりとよく見に行っていたこと、川崎や青山の岡本太郎美術館にも行っていたし、また彼の「布教者」である岡本敏子女史の活動も知っていたこと、なんかもそれぞれに寄与しているなと思う。もっとも、岡本敏子のとらえ方と私のとらえ方は必ずしも一緒とは言えないなと思うところもあるし、岡本敏子が言うことよりももっと先のところに岡本太郎のたましいはあるんじゃないかという気はする。
「恋愛というのは、相思相愛でないと成り立たないと、とかくみんな誤解しているんじゃないだろうか。それだけが必ずしも恋愛じゃない。たとえば片想いも立派な恋愛なんだ。相思相愛と一口に言うが、お互いが愛し合っていると言っても、その愛の度合いは必ずしも同じとは限らない。いや、どんな二人の場合だって、いつでも愛はどちらかの方が深く、切ない。つまり、男女関係というのアデリケートに見ていくと、いつでもどちらかの片想いなのだ。(!)哀しいことに、人間の業というか、運命的な落差。そこに複雑なドラマがある。」
このへん何か舌を巻く。恋愛は、男女関係は、結局はいつでもどちらかの片想いなんだ、という宣言。岡本太郎はすぐ何でも宣言するけれども、この宣言は雷鳴のようにどどおおおんと私の心に響いた。そうだ、そうだよな。そしてそれでいいんだ。
「たとえ、お互い愛し合っていても、さっきも言ったように愛の度合いが、同等のレベルだなんてことは有り得ないんだから、彼女がどう思おうと、自分は愛しているんだと強烈に感じれば、その時片想いは本当の恋愛になる。そうすれば、いろんな意味での価値の差によって怖気づくなんて、むなしさは感じなくなるだろう。」
恋愛したもの勝ち宣言。いやあ全くそうだと思う。まあでもそんな恋愛は多分自分はしてないな。多分もっとわがままな恋愛の仕方をしてた。相手をものにして、ものにしつくして、しつくしたら排出する、みたいな感じの方が近い。女は芸のこやし、みたいな。ひどい男だね。女の敵だ。リア充爆発しろ。(だからしちゃったのかな)だからむしろ、本当に大事な女には手を出さない、みたいなことになってたのかもしれないな。こっちが何かしてやれればいいんだ、見返りは求めない、というか求めないからこそ意味がある。自分勝手だが。ああ私は徹底的にわがままな人間だ。だから結婚生活も破綻するしずっと一人身なんだな。それが世のため人のためなんだろうなと思う。好き勝手に愛して、好き勝手にやめる、みたいなことばっかりやってたな。多分この年になっても、本質はあまり変わってないんだろうと思う。
「ぼくの場合は、どっちの方がより深く愛しているなんて特に意識したことはない。恋愛だって芸術だって、おなじだ。一体なんだ。全身をぶつけること。そこに素晴らしさがあると思う。」
私の場合は何と言うか、ひとをたぶらかす変な能力のようなものがあって、何かついそういうものを発揮してしまうところがある。ここ十数年はそのあたりが調子悪かったからいろいろ調子悪かったのだけど、どうもそのへんはだいぶ回復してきている。まあたぶらかすと言ったって誰でもたぶらかせるわけでもないし、得意分野と不得意分野ははっきりあるのだけど、まあそんな能力より恋愛したもの勝ちの姿勢の恐るべきパワーの方がすごいと思う。変に意中でない子を引っ掛けて面倒なことになるより、自分のものにしたい子に熱烈に片想いをしている方が人生としては充実しているだろう。感情的にはたいへんだけど、それが肯定的にとらえられるようになったら、勝ちだと思う。全身をぶつけること。そこに素晴らしさがある、ってわけだ。
「外見を飾ったり、持ち物に凝ったり、女の子にモテるからプレイボーイだとはいえない。まあ、それもまず第一段階かもしれないが、困ったことに大抵の場合、本当の中身ができていないから、かえって外見を飾り立てたがるんだ。そういう男はいわゆる”キザ”だ。」(ゲロゲロ)
「平安時代のプレイボーイは、性に命をかけることに、ロマンを持っていた。在原業平を知っているだろうか。天皇の女を盗んで、背におぶって逃げたんだ。」(あの話はそう解釈すべきだったんだ!目からウロコ。そんなの日常茶飯ってとらえたらロマンチシズムがなくなるな。確かに平安初期は雰囲気もっとストイックだ。頽廃してない。いのちがけってとらえるからこの話が輝くんだな。『神曲』に出て来るパオロとフランチェスカのようだ。)
「スピードにしてもセックスにしても、自分がそれに賭けて満たされるかというと決してそうではない。どちらも、永遠に満たされないものなんだ。その満たされないものに、それでもあきらめることなく自分を賭けていくのが、プレイボーイだ。つまり、ものすごいロマンチストだと言える。自分がものにした女性の数を誇ったりするのは野暮の骨頂。本当のプレイボーイじゃない。」(ご説ごもっとも。汗;;)
永遠に満たされないものに、それでもあきらめることなく自分を賭けていく。凄いなと思いつつ多分、自分も似たようなことをしているような気もしなくはない。
「ぼくは『今日の芸術』という著書の中で、芸術の三原則として次の三つの条件を上げた。芸術はきれいであってはいけない。うまくあってはいけない。心地よくあってはいけない。それが根本原則だ、と。……美しいというのはもっと無条件で、絶対的なものである。…無意味だったり、恐ろしい、またゾッとするようなセンセーションであったりする。……「醜悪美」という言葉も立派に存在する。…ところが、「醜いきれいさ」なんてものはない。美の絶対感に対して、「きれい」はあくまで相対的な価値である。(なるほど!)つまり型にはまり、時代の基準にあっていなければならない。…「あら、きれいねえ」といわれるような絵は、相対的価値しかもっていない。…「いいわね」というのは、「どうでもいいわね」というのと同じことだ。……美は人間の生き方の最も緊張した瞬間に、戦慄的に立ち現れる。」(きれい、うまい、ここちよいというのは人を安心させる要素だ。しかし安心させるだけに、消費されて終わりだ、ということになる。美というものは人を安心させるのではなく、挑発し、告発するものでなければならないということだな。私にとっても美しい絵というのは、いつでもついその絵について思い起こして考えてしまうような、安心して忘れられる絵ではない。たとえばロートレックの『マルセル』なんかがそれだ。)
まだいろいろ書きたいことはあるのだが、取りあえずまずこれくらいで更新しておこう。
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