Hard Day's Night/物を売り買いするということ
Posted at 12/02/13 PermaLink» Tweet
【Hard Days Night】
昨日はずっと出歩いていたのだが。有楽町から銀座に出る間にCarthagoというメンズの店を見つけて入ってみた。名前にひかれて入ったのだが置いてあるものはわりと好きなものが多く(みんなイタリア製だった)、少し高いけれどもセールで4割から7割引だったので何かないかとご主人と話をしながらカシミアのタートルネックを一枚買った。なんか感じがよくてまた行ったら買ってしまいそうなので危険(笑)なのだが、まあたまにはこういう散財もいいかなと。そのあと久しぶりに西洋銀座のラウンジでケーキなど食べる。
その後有楽町に出てそういえばルミネにいったことがないなと思ってのぞいてみたら、横浜のルミネと似たような店がけっこう入っていた。何か珍しいものがあるかと思ったけど考えてみたらルミネはルミネで要するに専門店街なのだ。成城石井とかアフタヌーンティーとか私が使う定番の店が何軒か入っているから有楽町に出て買い物をして帰るときなどには使いやすいかなとは思った。マリオンの渡り廊下を渡って阪急の方に出ると、全館メンズになっていて、新宿伊勢丹のまねっぽいけど新宿まで行くのは面倒なのでこの辺でそういうものが買えるならまあいいかもしれないと思った。一階に降りたら男性用の香水のコーナーがあって、興味はあったが気軽に入れるところを今まで知らなかったから少し試して(嗅いで)みた。割といいかなと思ったのはあったけど自分に合うのかはよく分からない。買う気になったら店の人にアドバイスを聞いてみようと思う。
その後外堀通りを歩いて八重洲ブックセンターへ。特に買う気はなかったが、アントニオ・タブッキの『遠い水平線』(白水Uブックス、1996)を立ち読みしてたらなんだか読みやすそうだったので買ってみた。こういうのって読みやすいというのは買ってみる一つの条件だな。タブッキの本で須賀敦子の訳のものは時々凄く読みやすそうな雰囲気があって退かれる。『インド夜想曲』なんかもあの読みやすい雰囲気がなければ買わなかっただろうなと思う。内容はわりとハードなんだけどね。
それから日本橋まで歩いて丸善の地下でモーニングページ用の原稿用紙ノートを2冊買う。ペースはまちまちだけどノートが切れてしまうと困るのでいつも多めに買っている。3階の催し物コーナーで『朗読者』の表紙の彫刻?人形?が展示されていて、ちょっと息を止めてしまった。三谷龍二さんという方の立体作品なのか。こういうのってどうしてひかれるものがあるんだろう。(調べてみると、松本市内にお店を持っていらっしゃるという。丸善のギャラリーで見る限りではちょっと買えそうもない値段なのだけど、一度行ってみたいなと思った。)
その後丸の内まで歩き、丸ビルの椿屋珈琲店でカレーなど食す。ゆっくりして、そのあと丸ビル1階のeaseでカフェラテなど飲んで帰宅。何かハードだったけど楽しい一日だった。
【物を売り買いすると言うこと】
物を売り買いすると言うことについて、少し考えた。
私は形のないものを売るのが仕事なので、そのものの価値を説明することから始まるのだけど、こういうものを売るというのは結局自分の信念を売るということなんだ。(形のないもの、というのはサービスと言い換えてもいいけど、まあ自分としてはもっといい物を売っているつもりではある。)
「売る」ということは大事なことだし、「買う」ということも大事なことだ。お金が大事という意味ではなく、売り買いすると言うことが大事なのだ。これは「捨てる」ということも大事だし「引き取る」ということも大事だ、と言ってもいいのだけど少し話がややこしくなるから売り買いだけに限ってみる。
普段、普通の人でもものを「買う」というのは日常的な行為だからあまり意識することはないのだけど、遡ってみれば「買う」ということは子どものころの自分にとっては切実なことであっただろう。「欲しいものを何でも買ってもらえた」という人はなかなかそういう感覚は生まれないかもしれないが、乏しいお小遣いの中からいかにして自分の欲しいものを手に入れるか、ということで小さい頭を一杯にしたことはあるのではないか。一生懸命考えて、自分の出した答えに賭けて、欲しいものを買う。しかしその賭けに勝てるとは限らない。欲しくて仕方なかったのに買ってみたらすぐ飽きてしまったり、つまらないものだったりしてがっかりする。そして、こんなことならもっといいものを買えたのに、と歯噛みするのだ。でも逆に、誰かに言われてしぶしぶ買ってみたら凄くよくて、買ってよかったなあと思うこともある。そういう切実な経験を通して、人は「買う」ということに賭ける喜びを体験していく。そしてその中で自分に何が必要かを考え、判断し決断し、買うという場面においては「こういうものをこういう値段で買う」という信念を持ち、よくわからないときには人の話を聞いて自分の判断力を信じて買う、買わないという決断を下す。
もちろん買い物には発散という意味もあるし、意味もなく使うことは楽しかったりもするが、それはそういうめんどくさい信念とはなれて使うこと自体の楽しさを味わうことが楽しいからで、それを「買うという行為」のメインにすることは出来ない。したら破滅である。
「売る」ということの切実さはもっと複雑だ。これは誰もが体験することとは限らない。特に人に雇われて働く人が多くなったいまでは、売り買いの現場から離れて、ただ買い手であれば十分すごせるということが多くなってくるからだ。
普通は「買う」ということは体験しているので、「売る」ということもその反対のアクションに過ぎないと思い、あまり重要視していないことが多いわけなのだけど、実際に物を「売る」という立場になってみると、これはそう簡単なアクションではないことが分かる。実際、会社でも「営業」の部門の発言権が大きいのは、「営業」が稼ぎ手であるからだ。よいものを作る、よいものを仕入れるということはもちろん大事なことだけど、売れなければ話にならない。ではどうやって売るのか。
私は形のないものを売るのが仕事だと書いたけれども、物を売るというのは何でも同じなのだと思う。「売る」ということは結局自分の信念を売る、ということであり、売るという行為に自分を賭けることなのだ。ちょうど子どもが「買う」という行為に自分を賭けるように。買うという行為も結局は信念がなければうまく出来ないのと同じく、売るという行為も「こういうものをこういう値段で売る」という信念が必要だ。まず自分の売るものに価値があるということを自覚しなければならないし、それに値段をつけるとしたらどれくらいか、ということを決めなければならない。それは「相場」というものもあるがもっと高くても買ってくれる人がいるなら高くつけるべきだし、なかなか価値を理解してもらえなければ自分がつけた値段より安く売らなければならないときもあるかもしれない。
売るという行為には、自分の売るものに価値があるという信念、つまりそれに愛とプライドを持つことが必要なのと同時に、それに数字をつけるというドライさも必要なのだ。
ここですでにけっこう関門はあって、まず自分の売るべきものに価値があるのかどうか確信するのがけっこう難しかったりする。仕入れて売るという行為なら難しくないと思うかもしれないが、どこにでも売っているようなものなら人は便利なところ、安心なところで買うから個人や新規参入者がそれに対抗するのはかなり大変だ。売り物の価値を確信するのは結局買ってもらって感謝される、という経験が重ならないとなかなか確信は持てないというのが普通ではないかという気がする。感覚の勝れた人なら最初から確信を持てることもあるのかもしれないけど。
次には値段の設定だ。相場もあるが、相場がすべてではない。安く設定すれば売りやすいと思うかもしれないが自分が生活していくのに、あるいはその仕事を回していくのに必要なお金を回収するのにたくさんのものを売らなければならないし、高く設定すれば売りにくいと思うかもしれないが売れればあまり数を売らなくても利益を回収できるから、そのバランスを取って価格をどこに決めるかは、やはり判断であり決断であり、信念なのだ。需要と供給の法則というものはあるが、いつでもそんな理屈通りに行くものでもない。けっこう「エイ、ヤ!」という世界である。
そして物の価値を確信してそれを背景に売り込むわけだが、その売り込み方もまた適当なやり方を見つけなければならない。売り手の個性もあるし、知識や能力もあるし、人柄もある。結局は買う方が「この人からこれを買えば自分にプラスになる」と感じなければ人は財布の紐を緩めてはくれない。そしてこれがまた難しいことなのだけど、自分がどんなに信念を持って適切な値段設定だと思って勧めても、買うかどうかを決めるのは買い手なので、売れないときもあるのだ。だからそれにめげていてはいけない。でも人間なのでけっこうめげたりもする。それが顔に表れたりすると、買い手の負担になってしまい、もうそこで買おうと思わなくなってしまったりするわけだ。優しい人なら、次は買ってやろうと思うかもしれないけど、多分そのうちめんどくさくなってやめてしまうだろう。笑顔で「またお願いします」と言うのも営業なのだ。
ものの値段が高くなればなるほど売り手と書い手のこういうやり取りは複雑になる。そして売り手側もそういうことに長けている人、買い手側も交渉上手、買い物上手な人も出てくるわけだが、あんまり売るのがうますぎる人も逆に胡散臭く思われたり、買い物上手でありすぎると売る側に敬遠されたりすることもある。そういうのもバランスの問題で、やっぱりあの人に売ってもらうとすっとするとか、あの人に買ってもらうと嬉しくなる、というような買い手や売り手で有るのが理想だ。というか私はそうありたいなと思う。売り買いも人間の行為だから、やはり両者が気持ちよくなって、またやりたいなと思うのがいいと思うからだ。商売的な言い方をすれば「両者がハッピーになってウィンウィンの関係なんですよぅ」ということになるが、まあそういうことだ。
特に形のないものを売り買いするときは両者が納得がいくというのは本当に大事なことで、買い叩かれたと思うと売る側も気持ちにわだかまりが生じてあまりいいものを提供できない。形のないものではどういうことが出来てどういうことが出来ないのかを両者確認しあっておかないと買う側の期待が外れたりすることもある。まあ試しにやってみないと分からないということもあるから、その辺もお互いに納得できる線を決められるように売る側がいろいろなプランを用意しておく必要がある場合もある。
まあ売り手と買い手の力関係の問題もあるからなかなかそう簡単に両者ウィンウィンといかない場合もあるが、基本売り買いというものは両者が「売り買いしてよかった」という気持ちになれることが理想であろう。
まあそういう具合に、ものを売ったり買ったりするということには人間の総合的な能力というか、力量が必要とされるのだ。逆に言えば、売り買いというものをうまく使えば人間としての力量を高めることも出来る。ものと人の接点にあるこの行為は、貨幣経済でなくても根源的に重要なものだなと思う。貨幣というものはその行為そのものを物々交換よりきめ細かく行うことを可能にしたということに意味があったのだと思う。お金というもの、貨幣というものの意味も考えてみるといろいろ深いものがあると思う。
(ああ疲れた。けっこうこういうこと書くの大変だな)
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