『スティーブ・ジョブズ』ⅠⅡ読了
Posted at 12/01/28 PermaLink» Tweet
『スティーブ・ジョブズ』ⅠⅡ読了。面白かった。結局あとから読み始めた『あんぽん 孫正義伝』の方を先に一気に読み終えて、それに刺激されて続きを一気に最後まで読んだという感じだったけど、物事の進め方や考え方、どういうものを目指すかなどについていろいろと考えさせられることが多かった。
スティーブ・ジョブズ II | |
ウォルター・アイザックソン | |
講談社 |
一番思ったのは、「統合型アプローチ」も魅力的だなあということ。これは私が今実際iPhoneを使っていて感じていることでもある。電車の中でときどきアンドロイドを使っている人を見かけるけど、やっぱりiPhoneの方がかっこいいなと内心思う、ということでもある。すごくこまかいデザインにまで、たとえばイヤホンの色、コネクタの色や形にまでかなりこだわりがあるということ。買ったときに納めていた箱がずいぶんしっかりできていて、二つの箱を占めるときに桐のたんすみたいに精密だなと思ったことを思い出した。そこまでジョブズ自身が関わっていたのだな多分。すべてのものをデザイン的にも触感的にも?完璧に仕上げることを目指してつくられたプロダクト、というもの自体は、確かにそういうものに触れること自体に喜びがある。
私はウィンドウズやPC/AT互換機のように、利用者が自由にいろいろなプログラムを勝手に加えて自分なりにカスタマイズして使えるものがいいと思っていたのだけど、最近は必ずしもそうも思わない感じになっていて、最初からいろいろな意味で完成度が高いというか、「自分のそばに置きたいもの」の方がいいなという気持ちが強くなってきている。PCは基本的に仕事の道具というか「まだ見ぬ自由」へのパスポートというか、飛躍のために使う道具という意識だったけど、毎日使い続けているとものとしての愛着がわくものと仕事をしたいという気持ちが強くなるなあと思う。いままで一度もマックを使おうと思ったことはないのだけど、伝記を読んでから使ってもいいなあと思い始めた。
もともとウィンドウズマシンを買ったのは安いことと他の機械との互換性があること、自分で自由にチューンアップできることにあったわけだけど、以前は電源の交換とか自分でけっこう本体に手を入れたりしてもいたのだが、最近ではそういうこともあまりやる気がなくなって、そうなるとそういう部分の便利さよりもそばにおいておいて満足のいくものの方がいい、という気持ちが強くなる。
正直、デジタル機器にそういう期待をしたことはいままでなかったのだけど、だから自分にとってiPhone体験は実はけっこう大きいのかもしれない。iPhoneの思想みたいなものを身を持って理解していなかったら、あの伝記もいまのようには味わえなかったかもしれないな。
on/offのスイッチを作らないとか、実際革命的なことだなと思う。なんだけど実際に扱っていて、それが自然にそういうものだという気がしてくるのだからよくできている。
ウィンドウズやアンドロイドのように開放型の設計だとウィルスとかいろいろなものに晒されるけれども、アップルの製品のようにすべてをアップルが管理しコントロールできるようになっていると、そういうことを考えずに済むということは意外にでかい。ゲーテッドコミュニティみたいなもの、と言ったらイヤな比喩だが、iPhoneを使っていて正直全然そういう心配をしなくなったし、アンドロイドでウィルスが蔓延しているとかの話を聞くとどこかよその国の話を聞くような気分になった。
完璧にできた世界の中で利用者は自分のやりたいことに専念して仕事に取り組めるというのはこの無数の微妙にイラつくことばかりに囲まれた現代において奇跡のようなことだ。アンチウィルスソフトが勝手にどんどん仕事をして自分のやりたいことのメモリが足りなくなったりする、というようなことがないだけでもどんなに楽かと思う。
まあそういうことから考えると、人生「自由にすればいい」というものでもないということになる。「自由にする」ことが本当に「自由である」か、ということだ。
本当にしたいのは自分の創作や文章を書くこと、あるいはいろいろなものを楽しんだりないしはパソコンの電源を切ったときの部屋でも満足できる風景としてそれがあるということであるならば、「自由に」変なものに手を出してぐねぐね回り道するよりは一番目的に適したシンプルでスマートな道具や方法を手にした方がいい。
そのためには「何でも出来るけどトラブルも起こりやすい」ものより、「シンプルではあるけれどもよけいなことは起こらない」ものの方がいい。その方が「ものを使う体験」全体として満足度は高いということになる。
もともとパソコンの思想というのは開放型で、それはそれまでのものを使う体験の質の良いものは統合型の首尾一貫したものだったのを破壊したところに意味があると思っていたし、実際そういうものを楽しんではいたのだけど、まあそういう方向から言えば統合型のアプローチというのはある意味保守的なものだということもできるのだけど、「もの」というもののありようの本質は統合型の方に近いものがあるのかなあとか、そういうことも考えたりした。
こういうブログのような雑文というのはいわば開放型のアプローチで、いろいろなものがごちゃごちゃあるところに面白みがある、みたいなものなわけだけど、小説とかを書いているとまあそういうわけにはいかないわけで、結局求心的なラストに向かっていろいろ布石を敷いて一つの統合された全体を作り上げていかなければならない。私はどちらかというと自分のここ20年程のベクトルが開放型の方を向いていたのでなかなか求心的なものを書きにくかったんだなと今更ながら思った。
自分の中でも、何でもありの時代は終わったのかもしれないなと思う。ジョブズが文中で言っていることで印象に残っていることの一つに、こういうことがある。
重要だと思うことを10個、それぞれの重役に挙げさせて検討し、会議の総意として順番をつけてその10個を決定する。そしてこう言うのだ。上から三つ以外のものは捨てる。我々にはたくさんのことをやる余裕はない、と。
このアプローチは面白いと思った。重要なことはたくさんあっても、出来ることは三つ。その三つに集中することで、他の追随を許さない製品を作る、というわけだ。
手元に本がないのでこういう叙述のまとめは不正確なところがあることはお断りしたい。それにしても、人生においても、重要なことはたくさんあっても、出来ることは三つくらいかもしれない。一点突破全面展開というけれど、三つのことに集中する、というぐらいが現実的なのかもしれないと思った。
十分に力の注げないことにたくさん手を出して不完全燃焼をするより、全力を注げる三つのことをやりきった方がきっと満足度は高いだろう。
そんなふうに、いろいろなことを考えさせられる本だった。
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