金を儲けることだけが偉いことなわけじゃない
Posted at 12/01/22 PermaLink» Tweet
ブログのネタにするなら一般論の方がいい、という考え方もあるんだけど、私は基本的に自分が気になることしか書かないのであんまり一般論については書いてないのだけど、今日ツイッターを見ていてそうだよなと思ったことがあったのでそのことについて書いてみようと思う。
それはバブルの時代が拝金主義だ、という主張に異議を唱えるツイートで、バブルのころは物の価値が高く、今は金の価値が高くなってお金にしがみつき、人の価値も物の価値も低くなった、という主張だった。(元ツイートはこちら)それはまったくその通りだと思う。
思い出してみると分かるけど、あの当時は金を稼ぐことって割と簡単だと思われていて、それよりも金を上手に使うことが褒め称えられていた。みんな金を使うことに苦心していて、企業でもメセナとかいろいろやってた。関心領域も広がって、海外旅行だとかなんだとか、お金を使うことに苦心していたんだ。逆に今では、みんな金を儲けることに一生懸命になっていて、金を上手に稼いだ人が褒め称えられている。消費にはみんな関心がなくなって、六本木のIT長者が札束尻ポケットに突っ込んでヒルズの上のバーで女の子にドンペリおごってるみたいな、恥ずかしい金の使い方をしてもあんまり突っ込まれない。
金の稼ぎ方が人生を表してるみたいになって、金の使い方は誰かに言われるまま。消費スタイルが画一化して、みんなユニクロのダウン着てたりする。(自分も着てるけど。)ジョブズに啓蒙されるままみんなiPhone使ってたり。(私も使ってるけど。)
正直言って、金を稼ぐのは誰にでもできると思う。ただ一生懸命やればいい。人に雇われているうちはある程度以上は稼ぎにくいけどうまく大企業にもぐりこめば40超えたら数百万になるだろうし、人によっては1000万とかもいるだろう。自分で事業を起こしたらまた稼ぎ方も違うけど。もちろん得手不得手はある。運不運もある。でも個性なんていうものがあるだろうか。一生懸命やれば成功するだろうし、やる気にならなければなかなか稼げない。本質的に金を稼ぐのが余り好きじゃない人には面倒な時代だし、金を稼ぐのがうまい人がやたらもてはやされるのはどうにも違和感がある。金を握り締めて、金の稼ぎ方だけを考えている人や社会というものには、本質的な豊かさが感じられない。それをもてやはす人心にはなんだか寒々しいものを感じてしまう。
一方、金を上手に使うのは難しい。スマートに金を使える人は見ていてかっこいいと思う。ものを買うのでも、本当に必要なものをポンと大枚はたいて買って、無駄なものは買わない。その人ならではの家具や機械やアートを持ってて、スマートに金だけではない財産を築いている。自宅に溢れかえるモノの山を見ていると、金の使い方は難しいなといつも思う。金を上手に手放すことが出来る人や社会には本質的な豊かさを感じる。そこに個性もあるし、豊かさも自由もある。
もちろん、金を稼ぐこと、つまり現代社会においては唯一の生きる資源を手に入れるために努力することが重要でないというわけではない。人の成長には何段階かあるが、まずは自立して自分で自分や自分の家族の生活を成り立たせるために金を稼げるようになるのは重要なことだ。しかし人間生活がそれに終始したら、それはいかにも味気ないと思う。
人はパンのみにて生きるにあらず、とか衣食足りて礼節を知る、というように、最低限の衣食住以上のことにお金を使うようになって初めて豊かさが生まれる。もともとお金は手段であって目的ではないが、目的のように錯覚されやすい。それはお金が数字で表されるからだろう。よりお金を持っている、稼いでいることがより幸福であるかのように錯覚されやすいからだ。本当はお金を使うことで、つまりは数字を減らすことで豊かさが得られるのであって、その逆ではない。しかしその肝心の消費が「消費によって経済が活性化されるからとにかく使うべし」みたいな、まるで経済活動の手段であるかのように扱われ、豊かさを得るためでなく広告操作によってとにかくものを買わせようとする力によって消費が痩せてしまっている。
プロという言葉があんまりもてはやされるのもどうも私は好きではない。その仕事に誇りを持ち、専門外の人にはない専門的な知識と高度な技を駆使してほかの人には出来ない仕事を遂行していくことに誇りと楽しみを感じている人、という意味でプロフェッショナルならいいのだけど、その仕事で稼いでいる人、生活を立てている人という意味で使われているのに過ぎないのにそれを必要以上に持て囃すのは意味がない。日本人は職人意識を持ち、専門バカであることをむしろ誇りにする傾向が強いけど、まあ自分のことをそうやって誇るならともかく、ほかの人がそうでないことを非難する傾向が強いのはどうもあんまり気に入らない。
職業というのは、人によって自分の本体と近い人もいれば遠い人もいるだろうが、ある種の衣服みたいなもので、その人自身ではない。一度仕事を失ってしまうとなかなか再就職できない人が多いのは、仕事が自分のアイデンティティになりすぎているからではないかと思う。確かに一生かけてものにしていかなければ一人前になれない仕事の人が途中でそれを放棄せざるを得なくなるのは身を切るように辛いことだと思うが、そうした熟練性を要求されない職種の人でも前の仕事にこだわりすぎる傾向があるような気がする。むしろ職業なんてたいしたことない、自分の一生を決めるほどのことじゃない、と発想を転換してみたほうが道が開けることだってあるのではないかと思う。
まあそう思うのは私が自分自身の生き方以外に職業的な生き方を強要されるのが適わないと思っているからではあると思うし、職業的な生き方に適応するのが得意な人からすれば何を言っているかと思われるかもしれない。自分自身の生き方というのは、ベルクソン的な言い方をすればその人自身の愛し方であり、好み方であり、嫌い方であり、面白がり方であり、そういうものは変えようと思っても変えられないし、徹底的にその人自身でしかないあり方のことだ。その愛し方や嫌い方は、その人の職業によっては許されないことがあるかもしれないわけで、そうなると人は公生活と私生活で生き方を使い分けなければならなくなり、場合によっては自分自身の生が痛めつけられ、損なわれてしまうことも起こる。それが社会的不適応ということだが、職業性が重視されすぎる社会というのは、そういうことが起こりやすいことは間違いない。だから逆に人々は「自分にあった仕事」というものに必要以上にこだわりすぎるのだろう。
私自身は、やはり自分の生のあり方というものがどうもあんまり普通でないところがあるような気がするし、職業というものは、たとえどんなにクリエイティブなものでも、どんなにインタレクチュアルなものでも、窮屈さを感じてしまうところがある。パブリックなものはなおさらだ。
私は文章を書いて生きたいと思うけれども、作家になりたいのかといわれると断言はしにくい。ものを調べたり考えたりして生きたいと思うけれども、学者になるのは無理だった。能力的に足りないというだけでなく、学者的な生き方というものが自分には合いそうもない。正直言って私は私以外のものになりたいと思わないし、たとえばアーティストと呼ばれたらうれしいかと言えば最初は面映く光栄に思いもするだろうがそのうち確実に面倒になるような気がする。まあ人にはなんて言われようとかまわないわけだけど。経営に携わってると社長とか言われるけどなんだかある種のパロディみたいな気がいつもしてしまうし。経営自体は面白いところは面白いしその責任から逃げるつもりはそんなにないけどそういう概念が当てはめられるのはなんだか妙な感じがするとしか言いようがない。
大事なのは、そういう自分自身の生き方というものを高めていく、純度を上げていく、自分度を限界まで高めていくということなのではないかと思う。そのために必要ならどんな仕事をしてもいいし、どんな試みをしてもいい。自分らしく生きる、というとなんだかのほほんとしているが、自分らしい生き方を究極にまで高めていく、というとこれはけっこう鬼気迫る。でも人として生まれて、それが出来れば本懐なのではないだろうか。
小説を書いたり、読んでもらうために努力したりすること自体は楽しいのだけど、作家になるためにそれをやっていると思うとだんだん変になってくる。書きたいから書くのなら書きたいものが書けるが、書きたくないものを書いているうちに書きたいものが書けるようになるというのはなんだか変だ。なんだか説得力があるだけに鵜呑みにしてしまいがちだけど本当にそうだろうか。食べたくないものを食べているうちに食べたいものが食べられるようになるだろうか。
まあ職業というものはそれにつくためにはある種の資格が必要であることが多いから、そのハードルを越えるために努力するという意味では、それは意味があるだろう。私は作家になりたいというよりは、書きたいものを書いてそれをなるべくたくさんの人に読んでもらいたいというのが本音なのでそれは作家になりたいということとは違うのだ、と今日考えていて思った。作家になれればいいと思うのはそれが楽だろう(発表の場が得やすいだろう)なと思うからで、作家という状態に憧れているわけではない。だいたい私は子どものころから憧れの職業とか、持ったことがない。好きなこと考えて好きなこと書いて好きなことやってればそれでいい。ある意味それは実現してるが考えたことは伝えたいし書いたことは読んでもらいたいしやったことは評価を受けたいわけで、そういう意味ではまだまだだ。しかしそれは職業としては名づけようがない。
まあそれは言葉を変えて言えば、自分のスタイルを確立し、そのスタイルを高め、そのスタイルを貫く、ということなのだろう。それが出来ている人はかっこいいと思うし、憧れる。今伝記を読んでるジョブズなんかはそうだし、今日写真本を買ったジェーン・パーキンなんかもかっこいいなと思う。ほんとにこの人にはスタイルがあるし、いろんな写真を見てもいちいち憧れる。ま、好みというものはあるわけで、スタイルがあれば好きかといえばそうとは言い切れないわけだけど。
自分のスタイル、生き方ってなんだろうと思ってみる。シンプル、ナチュラル、アクティブ、ってな感じかな。それぞれの言葉にはわたし的な独自のニュアンスがある気きがするが。たとえばアクティブということにはスタンバイということとどこにでも行くということが含まれているといっていいだろうな。っていうかまあ理想というか志向性ということだけど。
まあそういうわけで、人間のあり方というもの、もっと幅広く考えてもいいんじゃないかと思う。人間の生き方ってこういうもの、と思っている以外にも人間のあり方はあるんじゃないかと。実際わたしは少なくとも、スペインを旅行してそういう部分はかなり変わった。日本全体、もう少しその辺ゆるく考えられるようになると、新しい可能性が生まれるんじゃないかという気がする。
最後にメモ。今日買ったもの。神保町へ行って書泉ブックマートでサライネス『誰も寝てはならぬ』17巻、玉置勉強『ちゃりこちんぷい』1巻、ツジトモ『Giant Killing』22巻。書泉グランデで山田芳裕『へうげもの』14巻。カフェテラス古瀬戸でビーフシチューと珈琲。御茶ノ水から有楽町に出て銀座まで歩き、山野楽器でPerfumeのニューアルバム、『JPN』。丸の内まで歩いてブルックスブラザーズでウールのズボンを一本。新丸ビル成城石井でメキシコのオレンジの蜂蜜とリッタースポーツのナッツ。丸善丸の内本店で『ジェーン・バーキン』、加藤木麻莉・素材集『For Princess』。考えることも買ったものも欲しいものもたくさんある。
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