『スティーブ・ジョブズ』の読書を再開する/普遍的な美は存在するか/わたしは悲しまない/告知・『本の木の森』iPhone版『第二部 飛ぶ少女』只今無料公開中
Posted at 12/01/20 PermaLink» Tweet
【『スティーブ・ジョブズ』の読書を再開する/普遍的な美は存在するか】
今日は朝から大雪で、朝から3か所雪かきしたが、昼頃にはもうだいぶ積もっていて、もういいやみたいな感じになっていた。でも気温が高いから道路の雪などはけっこう融けていて、でもこれから夜になると凍ってしまうことが心配だ。降りやんでたら雪を処分してもいいのだけどまだ降りそうだからなあ。
孫正義の伝記を読んでからスティーブ・ジョブズの伝記もまた読むモチベーションが復活してきて、19章(ピクサーの時代)で止まっていたのが一気に上巻は読み終わった。孫の親族もいろいろとすごい人たちが多いが、ジョブズの親族もそれなりにみな個性的だ。それにしてもジョブズの実父が彼が言ったことのあるレストランのオーナーだったというのは事実は小説より奇なりという感じ。そういうことってあるんだな。
スティーブ・ジョブズ I | |
講談社 |
しかし一番おもしろいと思ったところはティナ・レドセとうまく行かなかった理由を説明しているくだりだ。
「美的感覚についても考えが根本的に異なっていた。普遍的な理想の美というものが存在し、それを人々に教えるべきだと考えるジョブズに対し、美的感覚はあくまで個人的なものだとレドセは考えていた。ジョブズはバウハウスムーブメントの影響を受け過ぎていると見ていたのだ。
「美とはどういうものなのか世間に知らしめなければならない、どういうものを好むべきなのか人々に教えなければならないとスティーブは考えていました。わたしはそのように思いません。自分の内なる声に、また、お互いの声にじっと耳をすませば、生まれながらに持つ真なるものが浮かび上がってくるはずだと思うのです。」」
レドセの言うことは普通にスピリチュアルな人が言いそうな言葉だけれども、わたしも当然、というかまあ普通にレドセの方の意見に近い。逆に「普遍的な美」なんてものを信じている人がいるんだということに驚いたくらいだ。というか、そういうものを信じているからこそ自分の美的感覚を絶対視し、完璧なものを目指して絶対に妥協しない態度で製品に臨めるのだなと思った。普通に考えればジョブズは啓蒙的でレドセは神秘的な審美眼であるということになるだろう。
しかしここにはかなり重要な問題がある。金子みすずのように「みんなちがって、みんないい」という思想で行けばいろいろなソフトが生かせ好きな使い方ができるウィンドウズのPC互換機がマックよりいいということになるし、パソコンはこうあるべきだ、というジョブズの思想はマック教に乗れればいいけれどもそうでなければめんどくさくて窮屈なだけのものになる。実際私はWindowsばかりで(やはり互換性重視だ)アップルのコンピュータを使ったことはない。
それは形を超えてアンドロイド・スマートホンとiPhoneの違いにも現れているわけで、アンドロイドのような多様性を認めるスマホの方がいいという思想もあるが、私などはこれに関してはiPhoneの方を取った。結局アンドロイドアプリはさまざまな問題を持っていることが分かったし、審査が厳しいだけにiPhoneのアプリの方が信頼性が置けるという感じになっている。
より完全でタイトなものを求めるのか、よりルーズで自由なものを求めるのか。ウィンドウズの時代からiPhoneの時代に移ってきているということは、後者の時代から前者の時代へ移りつつあるということなのかもしれない。
わたしは完全にルーズで自由なものの方に自分の方向性はシフトし続けていたのだけど、これを読みながら私に、「美は個人的なもの」という思想よりも「美は普遍的なもの」という思想にシフトした方が自分にとってはプラスなのではないかという考えが生まれた。誰にでも感じられる美はやはりあるんじゃないか。構図にしろ色遣いにしろもちろんセオリーというものがあるのは知っているけれども、そういうものについてはわたしはかなり否定的にとらえていた。考えてみるとノウハウというもの全般についてわたしはかなり軽視しているところがある。直感を信じるロマン主義的なものを好み地に足がついた技術的・現実主義的なものを軽視すると言えばいいのだろうか。というか美というものについての神秘的なロマンのようなものを持ち続けていたいと思っているところがあるのだなと思う。
ジョブズの美に関しての思想は、レドセの言うようにバウハウス的な合理主義的・機能主義的な美意識ではあるだろう。内部の配線の美しさにまでこだわり、モニタのカーブを底的に追求する工業デザインに究極の美を求める思想はやはりバウハウス的なんだろう。彼は身近に置くものの完璧さを追求するあまり、独身時代にはほとんど家具を置かなかったというから、モノに対する彼の美意識は徹底したものだったのだろう。わたしも装飾過多のものよりもものがスタンバイしているたたずまいの美しさみたいなものに最近特に魅かれているのでそういうことってあるなと思う。ああそうか、つまり私はそういう意味での美意識におそらくは目覚めつつあるのだ。
それはより身近に美を感じる方法でもあるだろう。観念的なロマンではなく、そこにあるインティメイトな美の方に関心が移りつつあるから、レドセの思想に安住することなくジョブズの思想にも近づこうとしているのかもしれない。
とまあ自分の話になってしまったが、ジョブズの伝記は現在下巻の二つ目の章に入っている。アップルに復帰し、実質的なCEOとして動き出したところだ。アップル追放のくだりはごちゃごちゃして読みにくかったが、10年経って復帰して彼自身の存在がだいぶシンプルになったんだなと感じた。
【わたしは悲しまない】
ときどき昔勤めていた職場の夢を見ることがある。学校現場での経験はいろいろなものがあったけれども、今朝起きた時の感触で、あのころ一番感じていた感情は、「悲しみ」だったのだなと気付いた。底辺校の哀しみ、新設校の哀しみ。入りたくなかった生徒たちに早く異動したい教員たちが接する。諦めと無気力と開き直り。暴力。異常さ。拒絶。さまざまな現象がもたらす印象を一言でいえば悲しみであって、その悲しみに浸りきった状況に怒っていた。いまではすでに無くなってしまった学校なのだが、自分の中での問いはなくならない。
悲しみから抜け出そうとしてじたばたして、最後には怒りのパワーを使おうとして自滅した、というのが本当のところなんだなと思う。まあプライベートな生活も悲しみで塗りつぶされていたようなものだから職場のせいだけではなかったのだけど。
基本的に、悲しまなければいられないような場所にいるのは間違っているし、そのような場所が存在するのも間違っている。そうは言っても存在するものは存在することは確かなのだけど、それは是正されなければならないと思う。しかしそれが自分の手に余ることは十分すぎるほど分かった。そしてその無力な自分がまた悲しい、という悪循環に陥っていたわけだ。
悲しんではいけないのだと思う。感情に溺れることが失敗の第一の原因であることを最近とみに痛感しているのだけど、悲しんではいけないのだと思う。そう言えば語弊があるというのならば、めげてはいけないといってもいい。いや、これはめげている人たちを非難しているのではなく、わたし自身はめげてはいけないのだと思う。
しかし私自身にとっては、『悲しんではいけない』という表現の方がぴったりくる。めげるのはよくないことだが、悲しむのは人間らしい行為であるみたいな感じがして、つい肯定的にとらえてしまうからだ。悲しむことを否定しなければならないと思う。わたしは二度と悲しまない、と。
自分の顔を見て老けたなと思う。なぜ老けたのか考えてみると、自分の顔に悲しみが浮いていることが原因なんじゃないかと思った。悲しみは人を老いさせる。
絶望することは誰にでもできる。絶望するのに特殊な能力は必要ないから。でも希望を失わないのは誰にでもできることじゃない。だからそうできな人のことをバカにしたり責めたりしてはいけないんだ。でも、君は(ぼくは)絶対に希望をなくしてはだめだ。君には(ぼくには)やるべきことがあるんだから。
絶望した人たちには癒しを、希望を失いかけた人には喜びを、戦っている人たちには励ましを与える。それが広い意味でのアートにのみ許された力なのだから。
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