新年を寿ぐ/反近代主義と一般意志2.0/ある種の予言的な、暗示的なもの
Posted at 12/01/03 PermaLink» Tweet
年の改まったことを寿ぎ、2012年のよき年になることを心から祈念いたします。
2011年という年は、未曾有の大災害に見舞われ、また文明の作り出したものが文明を破壊し、文明の手による修復を拒否するという黙示録的な世界が将来したにもかかわらず、1995年、阪神大震災の年のようにオウム真理教事件のような知のパラダイム自体の破壊を目指す動きは起こらなかった。この前後からスピリチュアルなものを目指す動きは起こってはいたけれども、オウム真理教のような急進的な、発作的な動きではなく、緩やかに文明が壊死していくような動きが見られたに過ぎない。原発事故をめぐっては1986年のチェルノブイリ事故のときとそう大きな違いはあったように思えない。オーガニックな生き方を目指す動きという点では変わらないように思われる。その本質が変化しているかは分からない。より商業ベースに乗った動きになってきているとは思うが、そういうものを商品として受け入れる土壌が国内でも醸成されてきた結果ではあるだろう。
一般的にはオウム真理教事件のあと、そうした密教的な、秘儀的なものに対する知的関心は急速に後退し、また2001年同時多発テロのあと、宗教的なものに対する関心も後退していったように思われる。そのかわりに風水であるとかタレントに依存するスピリチュアルなものであるとかライト感覚でつきあえる、少し手を出してもあまりやけどしなさそうなソフトSMのようなものに関心が集まったように思う。
しかしネットの普及によって、そうしたライトなものの広がりや孤立していた関心が容易にひとつの流れを作る傾向が現れてきた。昨日東浩紀の『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011)という本を買ったのだけど、東の言う一般意志2.0は民主主義の新しい展開というようなプラスの可能性としてではなく、もうすでにある種の意志として存在し社会を動かしつつあるのではないかと思った。それは19世紀から20世紀にかけて意識されて行われた革命運動のようなものというよりは、むしろ何を目指すのかわからないまま行われてしまったフランス革命のような『展開』そのものの現象に近いのではないか。
一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル | |
東浩紀 | |
講談社 |
「ウォール街を占拠せよ」というのは金融資本主義と商業広告の支配する社会へのアンチテーゼとして爆発的に火がついたが、彼らには明確な目標があるわけではない。その方向性にはむしろ永久革命的なものがあって、対処する側も何に答えればいいのか分からず戸惑っている面がある。それは日本における脱ないし反原発運動にも言えることで、彼らの願望としては「原発をなかったことにしろ」というある種千年王国的なものが見受けられるように思う。
そう考えてみると、オウム真理教が宗教的な言説を用いながら根底に科学への信仰心があり、サリンや地震兵器などにより科学技術の力でハルマゲドンを起こそうとしていたのに対して、現在の動きは科学的・技術的な言説を用いながら実際には宗教的・信仰的な願望がその原動力になっていて、それがテクノロジーとしてのネットによって増幅されながら形のない大きなうねりになりつつあるのかもしれない。
そういう意味では反近代主義はよりラジカルに進化しつつあるのかもしれないのだが、いずれにしてもまだそこには美しさが欠けている。オウム真理教の怨念も反原発を喚くネット言説もあまり美しいとはいえない、というか醜い。これらの運動が新しい時代を切り開いていく力になるためには、それらと結びついた新しい魅力的な形が必要だろう。
今この時代に必要なのは、ある種の予言的な、ある種の暗示的な何かなのではないかと思う。先が見えないなどと言ってはいられない。ヴィジョンとは幻影に過ぎないかもしれないが、それが未来を動かしていく力になる。物を作る人間は、そうした未来を動かしていくヴィジョンをこそ、見つけ出し掘り起こし提示することが求められているのだと思う。
陰陽師 玉手匣 1 (ジェッツコミックス) | |
岡野玲子 | |
白泉社 |
もう一冊、夢枕獏・岡野玲子『陰陽師 玉手匣』第1巻(白泉社、2012)を購入。すでに通読したが、もう一度読み返したい。今はこういうヴィジョン(幻)に満ちた本を読み返していたい気がする。1月1日に帰京し、今日これから帰郷する。昨日は一日、徹底的に自分の生に対して否定的になれてよかった。否定することで自分の中の余分なものが殺がれてそれを客観視することが出来る。生きる喜びとか楽しみということは、確かにある。
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