「音楽産業に従事する人は、頭の中に1000曲持っていろ」

Posted at 11/11/03

松本へ行ってからだを見てもらい、帰ってきたところ。ここのところの調子悪について聞いたら、「調子はいいです。むしろ高まっています」とのこと。そうか、ぞわぞわするのがいい傾向なのか悪い傾向なのか分からず、まあ半ばいい傾向なんじゃないかということも思ってたけど自信が持てなかったので、はっきり言ってもらってよかった。これでだいぶ気が楽になった。

ジブリの哲学――変わるものと変わらないもの
鈴木敏夫
岩波書店

もう一つは、今朝読んでいた鈴木敏夫『ジブリの哲学』、石坂敬一(ユニバーサルミュージック社長)との対談。音楽産業に従事する人はレパートリーとアーチストに精通していないといけない。頭の中に1000曲持っていろ、というのだそうだ。これはすごく感心した。あたりまえと言えば当たり前のことだけど。翻って考えてみると、私は小説ないし児童文学で1000冊のレパートリーを持っているだろうかと思う。めちゃ読みした本は新書(昨今の新書ではなく80年代から90年代にかけて読んだ講談社現代新書とか中公新書とか)が多いので、いろいろなことを知りたいと思って教養書・手引書・入門書の類を大量に読んで、生半可な知識をたくさん蓄えてはいるのだけど、もともと小説に耽溺するというタイプの青春時代を送っていないので、小説を読んだ絶対量は今でも多分かなり少ない。最近書けないなあ、と思ってどうしたらいいのか、とにかく書こうと思って書いてもあまりよいのが書けない、という状態が続いていたのだが、つまりはレパートリーが少ないのだと言われてみればなるほどと腑に落ちる。一体今までどんな小説を読んできたのか、ちゃんと1000冊上がるかどうか、並べてみようと思ったし、まずはとにかく読むということを再開しないといけないなと思った。

書いているときに新しいものを読むと影響されるとか、とにかく書くこと優先の考え方で読むのはむしろ邪魔、時間の無駄というような感覚になっていたから、ちょっとそこのところを立て直して本当に自分の納得のいくアイデアがちゃんと出て来るまで、まずは自分の頭の中を立て直さないといけないと思った。

石坂は日本の歌手がいけないのは外国ものとかライバルの作品をきかないで、似たような歌しか作れなくなるという指摘をしていて、全くその通りだなと思う。アイデア出しは常にやっていかないといけないが、それだけでなくとにかくまず読むこと、読むことによってインスパイヤされることから始まるという指摘は、その通りだと思った。

作品をコンテンツといわれることへの反感とか、ああそうなんだそう思っていいんだとも思ったし、GNPやGDPに対してGNCという概念が『Foreign Policy』に出ていたという話も面白いと思った。Gross National Cool。国民総カッコよさだという考え方は実にしびれる。先進国はかっこよくなくちゃいけない、というのは全くその通りだなと思う。その中で、ポテンシャリティーのNo.1は日本だったという。それはイチローのデビューの年の話だそうで、今はどうかなと思うけど、そういう考え方って相変わらずビビッドだと言えるんじゃないかなと思う。お、何となく文化の日のブログみたいな感じになって来た。

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)
宮崎駿
岩波書店

もう一つよかったのが昨日主に読んでいた宮崎駿『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』(岩波新書、2011)。これは宮崎が岩波少年文庫の50冊を上げて、それについての紹介が前半で、後半がそれについて論じるところと子どもに向けてどんな作品を作ればいいか、どんな作品を読んでもらいたいか、という話があって、基本はやはり「子どもに向かって絶望を説くな」ということだというコメントがやはり宮崎は立派だなというか、ぶれない人だなと思った。宮崎という人はやはりもの凄く矛盾に満ちた天才だと思うのだが、やはりそこのところだけはぶれてないわけで、自分がいろいろ考えていて迷いにはまったとき、そのぶれなさは一つの灯台のような心強さを覚える。その灯台をたよりにして新しいものを作って行こうという気になれる。そういう人だなと思った。

児童文学は「やり直しがきく話」だ、というのも全くその通りだと思う。そして、何度でもやり直さなければならない現代という時代に、やり直せない話ばかりで袋小路に追い込んでも仕方ないわけで、いまはとにかくトライして行く、何度でもやり直して行く、そういう話が必要なんじゃないかと思った。

そのほか気になったところ、なるほどと思ったところをいくつか。

「不信と依存は同時にあるものだけど、依存を認めなければ子どもの世界を理解したことにはならない。…子どもは賢くもなるけれども何度も馬鹿をやる。繰り返し馬鹿をやる権利を子どもたちは持っている。幼児の世界は特にそうだ。そういう世界をてらいもなしにポンと投げ出すように書いたのが『いやいやえん』だ。」

いやいやえん―童話 (福音館創作童話シリーズ)
中川李枝子
福音館書店

『いやいやえん』は私も何度も読んだのでなるほどと思う。『ぐりとぐら』は読んでないけど、同じ作者だということはこの本で知った。

「『借り暮らしのアリエッティ』を作ったのは、今や大人たち、いや人間たちが、まるで世界に対して無力な小人のような存在になってしまっていると思ったからです。」

「(震災後)やけくそのデカダンスやニヒリズムや享楽主義は一段と強くなると思います。ぎすぎすするでしょう。…歴史が動き始めたんです。」

「風が吹き始めました。…この風はさわやかな風ではありません。恐ろしく轟々と吹き抜ける風です。死を含み、毒を含む風です。人生を根こそぎにしようという風です。」

『風の谷のナウシカ』の「腐海」の「瘴気」の記述を思い出させる。時代はついにその時代を迎えたという認識が宮崎にあるのだろうか。

それにしても子どもたちは(いやもちろん我々自身も)この時代を生きて行くわけで、その子どもたちに向かって人生は生きるに値する、生まれてきてよかったんだ、と説き続けるのが自分の仕事だと彼は思っていてその考えはぶれることがない。考えてみたら『ナウシカ』というのは本当にそういう話だった。特に漫画版。

風の谷のナウシカ 豪華装幀本(上巻)
宮崎駿
徳間書店

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by Luke Peterson

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