とりあえずの終わり/人間の営為の根源としての数学・文学・哲学/事実からより思考から/らしいことよりしたいこと、似合うこと
Posted at 11/06/22 PermaLink» Tweet
【取りあえずの終わり】
今日は夏至。先月末から取り組んでいた小説をずっと修正していたのだけど、今日一応切りをつけ、郵送した。読んでもらって指摘されたり、自分で引っ掛かっていた部分をかなり書き足して修正し、まあ自分なりにこれでいいかというところまで持って行けた。理念と言うよりは技術で何とかした感じもないではないが、まだその辺はこれからの課題と言うか、もうちょっと理念押しで行けるともっともっとすっきりとするとは思うのだが、ネタと枚数の関係と言うこともあるのでなかなかまだ釣り合わせが微妙に難しい。でも今回書いてみて、以前に比べてかなり書きやすくなってきているし、盛り込みたいものを盛り込むのもけっこう出来るようになってきたので、さらにどんどん書いていいものを作っていきたいと思う。取りあえずの終わりは新たなスタート。
【人間の営為の根源としての数学・文学・哲学】
数学が抽象のみの世界でその思考がすべての人間の営為の発信源になる、と言うことをどこかで読んで、それは保坂和志が哲学と文学について同じことを言っていて、確かに人間の想像力と思惟だけで全く存在しなかった世界を作り上げることができるという点でその三つは同じなのだと思った。哲学と数学は論理学と言うブリッジでつながっているし、岡潔なども日本で数学が盛んなのは日本人が情緒を持っているからだということを言っていて、その点で文学につながっていると言っていいんだろう。そういうふうに考えてみると、自分が小説を書いていることの意味が更新されて、より大きなものとしてとらえることができるなと思って嬉しくなる。
私は舞台をやってきて、舞台や美術、そういう視覚的なもの、身体的なものに依拠した、逆に言えば拘束された世界から発想するという方向性があったのだけど、より純粋に抽象のみで押していくということが、逆に解明されていない具体的な世界を解くヒントにもなるというのが面白い。小説も結局具体的なものはゼロで、何を書いてもいいわけで、あらゆるものが持ちこめる可能性がある。またそこで書かれたものが具体的な姿をとって現れて行く、その一番震源になる抽象性を生みだすことができる。
【事実からより思考から】
いままで私は世界のとらえ方、動かし方と言うのを逆方向から考えていて、つまり実例や事実から事実をして語らしめよという方向で見ていたのだけど、これはもちろん人によるんだろうけど、なんというかまだるっこしいというか、そういう地に足のついた感じを好めない自分と言うものに困ったなあと思っていたのだけど、実際のところそんなことをしないで思考だけで行けて、それが人間の進歩に貢献できるなら、その方がありがたいというか嬉しいというかやりがいがあるなあと思ったのだった。
具体性から物事の本質を抽象して原則を作るという方向性は尊いとは思うのだが、やはりそれだけではいかないものがある。現場主義とか実践主義というものは、結局原則主義や教条主義によって補わざるを得ない部分があって、そのあたりに対する疑問のようなものを私は持っていた。「事実をして語らしめ、声なき声を聞き、そこから新たな理念を組み立てる」と言うのは美しく理念的ではあるのだけど、語られない原則、語られない教条のようなものがどうしてもあって、そのあたりにどうも引っかかってしまうところがあった。それよりはむしろ、原則なら原則があるならあったでいい。しかし、その原則そのものを全く現実にとらわれずに新しく作り出していくことができた方が面白い。抽象数学にはそういう自由さがあると言うことに気がついて、とても楽しくなった。もちろんまだ全然理解とかしてないが、哲学や文学の本質的な自由さもまたそこにあるんだよなと思うと楽しくなる。
もとはと言えば、民主主義というものについて中学生時代から何年か掛けて本気で悩んだことに私の思考の原点がある。つまり、民主主義というものに、何らかの根拠があると思い、それが理解できずに苦しんでいたのだ。しかし、結局は「天賦人権」と言う理念を勝手に抽象によって生み出したところからすべては始まっているわけで、「神」の発明と同じくらい「根拠」はない。そこから壮大な民主主義体系が作られ、多くの血が流されて現代のような民主主義形態が暫定的に成立しているにすぎない。それに気づいたのはいつだったかもう忘れたが、唖然としたことは覚えている。
それなら自分が新しい理念を勝手に作って新しい主義をでっち上げたっていいんじゃないかと言う不埒な思いがふつふつとわきあがったのだが、いやいやいけない、人間としてまっとうに生きなければ、とつまらないことを考えて思いとどまったのだった。今になって思うと、「作りだす」ことの面白さはすでにいろいろ感じていたはずなのに、その時は最も根源的なところに踏み出すことに躊躇してしまったのだ。
しかし、そういうことをやっている人は実は数学の分野にいるのだ、ということに気づいたことはよかった。文学や哲学も、身過ぎ世過ぎでやっている人が多くてどうもそういうことが見えなくて困るけど、本来この三つの分野は思考のフロンティアを開くことで人間の可能性を増大させる仕事をしているわけだから、すごくやりがいがあると言うか、生まれてきてよかったというような仕事なのだと思う。それに気づいたら年齢などもう関係ないわけで、新たな可能性を開く面白さに取り組んで行ければいいと思う。
【らしいことよりしたいこと、似合うこと】
何か48歳にして人生像が全然転回していていいのかなと言う気はするが、多分いいんだろう。今更年齢にふさわしいことなんかしてても仕方がない。「(年齢)らしいこと」より「したいこと」、「(自分に)似合うこと」をするべきなのだと思う。
どこまで関係あるかは別として、西成活裕『とんでもなく役に立つ数学』(朝日出版、2011)を買った。わりと面白い。
とんでもなく役に立つ数学 | |
西成活裕 | |
朝日出版社 |
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