好きなピアニストを探す/「野村の時代」は輪廻転生する/若々しいショパンを歌うルービンシュタインのピアノ
Posted at 11/05/23 PermaLink» Comment(2)» Tweet
【好きなピアニストを探す】
日曜日。午前中はよく晴れていたが、午後から雨が降ってきて、一時は嵐のようになっていた。夕方出かけたときにはだいぶおさまってはいたけど、傘は差した。ルービンシュタインのショパンのピアノコンチェルトがほしいと思い、銀座の山野楽器に出かけたのだ。
ショパンのピアノコンチェルトは1番と2番があり、両方ともショパンがパリに出発する前、ワルシャワで書かれた作品だ。先に作曲された2番(19歳の作品)よりもあとで作曲された1番(20歳の作品)の方が先に公開されたため、作品番号と作曲順が逆になっている。私はいままで、マルタ・アルゲリッチが1965年のショパン・コンクールで1番を弾いた時の録音しか持ってなくて、あまり強い印象を持ってなかった。
もともと私がショパンを聴き始めたのはモーニング連載のマンガ、一色まこと『ピアノの森』で感動したことがきっかけだ。主人公がショパコンに挑戦しているため作中でさまざまな曲が弾かれていて、その描写が素晴らしく、これは実際に聞いてみないと、と思ったことが実際にショパンを聞く動機になっている。最初はピアニストを限定せず安いCDを買っていたのだけど、あまり満足できなかった。また廉価版にはない曲目もかなりでてきたので、全曲録音しているアシュケナージの演奏を聞いてみて、これは廉価版とは全然違うということに気づき、それから高くてもピアニストを選んで聞くようになった。
ネットや本でいろいろ調べて当代ではポリーニがいいということだったが、どうも私はあまり好きではなかった。同じくネットで知ったディヌ・リパッティのワルツは好きだなと思った。ソナタの3番も輸入盤で聴いたがこれも好きだった。あるとき村上春樹の音楽エッセイ『意味がなければスイングはない』を読んでルービンシュタインに興味を持ち、ポロネーズ曲集を買って目から鱗が落ちるような感動を覚えた。それからしばらくはリパッティかルービンシュタインがベストだったのだが、野口昭子『時計の歌』を読んでパハマンを知り、かなり古い録音を聞いてみてぶっ飛ぶような感銘を受けた。自由というか、めちゃくちゃ。つぶやきながらピアノを弾いたり、勝手に楽譜を変えたり。しかしこんなピアノ、一度聞いて見たいなあと思う。
しかしさすがにパハマンは戦前に亡くなっている人なので録音も限られているから、コンチェルトはなかろうと思ってきのうはルービンシュタインで探してみた。すると1960年代の録音(コンチェルト2曲)と録音月日不明のEMIの5枚組(コンチェルト2曲を含む)があった。前者は国内盤、後者は輸入盤だ。録音月日が分からないので散々迷ったが、前者が1680円で後者が2520円(5枚組でだ)だったので、結局後者を買うことにした。
Icon: Arthur Rubinstein | |
ルービンシュタイン | |
EMI Classics |
【「野村の時代」は輪廻転生する】
そういえばモーニングページ用のノートが切れてる(何しろ最近ものすごい量を書いているので)ということに気がついて、じゃあ日本橋の丸善まで歩こうかなと思ったのだけど、そういえば銀座にいるのだということに気がついて、伊東屋に行った。伊東屋はいつも混雑しているイメージがあって最近は敬遠していたのだが昨日は空いていてすぐに買えた。外に出ようとするとちょうど閉店。7時までだった。
銀座をぶらぶらする気にあまりならなくて、雨も上がったことだしと思い、結局日本橋まで歩いた。たまには運動しないとということもあったのだが。結局丸善に行って本をいろいろ物色して、立ち読みした野村克也『考える野球』(角川SSC新書、2011)が面白く、雑誌を読むようなつもりで読めばいいかと思い買ってしまった。しまったということはないが。
考える野球 角川SSC新書 (角川SSC新書) | |
野村克也 | |
角川マーケティング(角川グループパブリッシング) |
私は実は野村の本は何冊か読んでいる。一番印象に残っているのは最初に読んだ『負けに不思議の負けなし』だが、その後も題名は忘れたが何冊か読んだ覚えがある。スポーツや勝負事の世界の人の話というのはなんか面白いものが多く、米長邦雄や羽生善治の本は何冊も持っている。
野村に関してはこちらのエントリでもう時代が終わったのかなと思っていたけど、どうもそうでもない。結局「考えない野球」の阪神とかはやはり勝てないし、新庄や清原の時代はいつまでたってもはじまりそうにない。野球のやり方が変わってきた感じはするけれども、この本を読んでなるほどと思ったのは、野村のやり方(ID野球が有名だがIDだけではない)が全球団に普及・浸透してきたことも大きいのだということだった。この本ではたぶん意識的に戦後の苦労話みたいなことは避け、監督―選手の心の交流(江夏と2年間マンションの隣の部屋に住んだというのは知らなかった)のような、今の人にもわかり安い話を中心に書いているので新鮮で、言い方次第でまだまだ貯蓄は無尽蔵にあるんだなと感じさせられた。まだ42/173ページ。巻末に野村と義理の息子、団野村との「往復書簡」が掲載されていて、ぱらぱら見ただけだがこれも大変面白そう。この二人の関係は確かにいままで謎だなと思っていたので、そういう意味でも面白かった。まだ全部読んでないのにこういうのも変だが、野球が好きな人なら多分間違いなく面白い本だと思う。お勧め。野村の時代はまだまだ輪廻転生するかもしれない。
そのあとプレッセで夕飯の買い物。久しぶりにご飯を炊くことを決意したのでおかずとデザートなどを買う。財布を出そうとしたらSuicaが使えるようになったことに気づき、携帯で支払いを済ませた。これは便利だ。日本橋で本と文具と食品を買うだけなら財布が要らない。これが出来ないからスマホにはまだまだ乗り換えられない。
【若々しいショパンを歌うルービンシュタインのピアノ】
帰ってきてルービンシュタインを聴く。パッケージを開けてブックレットを読んでみたら、全部戦前の録音だった。ということはSP盤からのリマスタリングなんだろう。オケの音とかは確かにSPで昔聞いたような音の歪みがあるが、ピアノの部分はほとんど感じなかった。一番古い録音は1928年のワルツ作品34の1とバルカローレ、一番新しい録音がマズルカの1938-9。昭和3年から14年の間の録音だ。コンチェルトは1937年ロンドン交響楽団、指揮はサー・ジョン・バルビローリ。Wikipediaで調べるとこの人も興味深い。
ルービンシュタインのコンチェルト1番、目の覚めるような感じでとてもわくわくする。アルゲリッチとワルシャワフィルのものはライブ録音だというせいもあるのだろうけど、音がもっさりした感じがするけど、はるかに古いこの録音の方がずっとクリアーで一つ一つのピアノの音が粒だっているし、きらめいている。解釈も、難しいことを考えていない感じがして私は好きだ。やっぱりルービンシュタインはいいなと改めて思った。ピアノの第一音の印象が全然違う。1番と2番、両方聴いてみたがやはり曲としては1番の方が聴き応えがある感じはした。
ただどうなのかな、曲自体としてはやはりソナタやポロネーズの方が好きは好きだな。この曲は基本的にすごく若々しい、極端に言えば若書きという印象もある。一つ一つの音にこもる実感というか音の持つ納得感がソナタやポロネーズとは違う。これからパリに出て行く前の若いショパンの希望に満ち溢れた曲だなという印象。これを聞いていると、ジョルジュ・サンドと出会ったことは彼にとって幸せだったのかとかそういうことを考えるようになってくる。しかしサンドと出会ったからこそあのような苦悩に満ちた、そしてそれを美の世界へと昇華するたくさんの曲を書けたのだろうなとも思う。出会う前の、出発前の、希望に満ちた幸せ。それがあるからこそより一層、ソナタやポロネーズの深みが美しく響くのだなと実感させられた。いままでショパコンがコンチェルトを決勝の曲目にしているのはなぜなんだろうと思ったけれど、これから世界に出て行く若きピアニストたちにむしろふさわしい曲なんだなと今回聞いてみて納得した。人生に出会う前の、人生という名の旅路の出発前の、才能と美に満ちた20歳の青年の幸せ。
これを弾くルービンシュタインは当時40歳。結構ミスタッチとかもあるけど全然傷に感じさせない。魅力的な、楽しげな演奏だ。やはりこの人以上にピアノを歌わせる人はいないんじゃないかなと思う。
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"好きなピアニストを探す/「野村の時代」は輪廻転生する/若々しいショパンを歌うルービンシュタインのピアノ"へのコメント
CommentData » Posted by meguota at 11/05/25
こんにちは。ツイッターから来ました。
ルービンシュタイン、いいですよね。「そうだよ、そうだよ、感じたままを生き生きと綴ればいいのだよ」なんていう作曲家の声が天から聞こえてきそうな演奏ですよね。
私はリパッティのワルツが好きなので、お気に召していただいて、よかったです。(*^_^*)
CommentData » Posted by kous37 at 11/05/25
>meguotaさん
ありがとうございます。ビートルズではジョンよりポールが好きな私は、ショパンではやはりルービンシュタインです。^^
リパッティもいいですね。ワルツもいいですけど、輸入盤で聴いたソナタの3番がとても印象に残っています。
ショパンは印象的な演奏家が多くて、聴き比べるのは楽しみですね。^^