小林よしのり『新日本人に訊け!』:「自分のことがキライなワタシを好きになる人をワタシは好きになれそうにないので…」

Posted at 11/05/14

昨日。いろいろなことを考えながらいろいろな本を読んで途中になったり読み切ったりしているのだけど、昨日は朝一で友人の経営するガソリンスタンドに出かけ、タイヤ交換とついでに洗車もしてもらった。スタッドレスからノーマルへの交換など、本当は4月中にやっておきたいところだけど、諸般の事情で連休後になってしまった。これで高速に乗ったときの騒音が少しでも低減するだろうか。スタッドレスだとカーステが聞こえないくらいやかましいからなあ。

新日本人に訊け!
小林よしのり
飛鳥新社

昼食後、仕事前に書店に出かける。読みかけの本は何冊もあるので新しく買う必要はないのだけど、ぶらっと眺めるだけでも気分転換になる。最初に蔦屋に行ったがめぼしいものはなかった。それから平安堂に行って、書棚をあれこれ見ているうちに小林よしのり『新日本人に訊け!』(飛鳥新社、2011)という本を立ち読みし、面白かったのでちょっと迷ったが買うことにした。これは最近日本に帰化した外国人6人との対談集で、石平(中国)呉善花(韓国)鄭大均(在日)ペマ・ギャルボ(チベット)ビル・トッテン(アメリカ)金美齢(台湾)と、それぞれ帰化前の状況の異なる著名な(トッテンは私は知らなかったが)新帰化者たちと小林が対談するという企画だった。発行が東日本大震災以後になったため、6人からそれぞれ緊急寄稿を受け、巻末に収録されている。

石平は産経新聞だったか、ネットの新聞の論評をよく書いて中共政府を攻撃している人だが、1962年生まれなので私と同じ年だ。彼の話で最も印象に残ったのは、人民解放軍が超法規的存在だということ。規制する法がなく、党の命令以外に何の制限もないのだという。あんな巨大な組織が野放しのトラのような状態だということは相当すごいことだ。

呉善花は帰化前から積極的に日本を擁護する発言をしてきた韓国人(ニューカマー)だが、彼女が韓国文化の特徴を説明する本を以前読んだことがあるけどいまいちピンとこない部分が多かった。しかしこの本では小林がいろいろ疑問をぶつけたり、小林に理解できるように呉が説明したりすることで、韓国の人の考え方とか感じ方がかなり分かりやすくなったような気がした。韓国では完璧なものをよしとする考えがあるので、身体障害者に対する差別はたいへんなものだという。私が韓国に行ったとき、同じことを感じた。というか、街に一切障害者がいないのだ。日本ではよく見かける車椅子の人がいない町というのは何か不自然だなと思ったのだけど、つまり恥ずかしいから外へ出るなと周りが言い、また本人もそういうふうに自主規制するらしい。「みんな違って、みんないい」という考えは韓国にはないのだという。

それから韓国人は、人と親しくなるととにかく全く人と人との間の壁を完全に取り除かなければならないと一生懸命になるのだという。だから日本に来たとき、日本の人間関係に間を置く文化が理解できず、すごく冷たい人たちだと憤慨したのだそうだ。この感じは私にもわかる。私は人と人との間があけすけであるちょっと特殊な文化環境の中で育ったので、相手に全部は見せない東京の人たちの人間関係に慣れず、さびしい思いをしたことがあった。けっこうそういうことで恋愛などすると相手の女性にのめり込んでしまう傾向があったので、呉善花の言うことにはかなり共感できる。まあそういうことで波長が合う人とは本当に親密になることもできた(そのかわり合わなくなると完全に音信不通になる)という利点もあったし、まあ私も大人になって間を置くことに慣れてきたこともあって昔ほどそういう寂しさは感じないが、韓国って実はそういう文化なんだなと思うとちょっと親近感を覚えたりした。

それから、「日本人は善悪でなく、美しさで生きている」という指摘。行動基準がそれぞれの美意識にある、というのはそうだなと思う。だから自分の美意識を曲げて生きている人は、何か濁った感じになってしまう。ことの良し悪しよりも、それが自分にとって美しいか否かを気にする。だから内面をやたらのべたらに言ったり書いたりしないのだが、どうも私はそういう基準よりももっと別の基準が働いているらしく、のべたらに内面を書くこういうブログを書いたりしているわけで、自分の基準て何なんだろうなあと今更ながら思ったりする。

節約の美よりは、過剰なものが本質的に好きなんだろうなあと思う。くすっとする笑いもいいが、過剰さの誘う笑いの方が好きで、だから私はダウンタウン以前の漫才、ざ・ぼんちなんかの方が好きだった。マンガでも小路啓之なんかはそういう過剰さの生み出す笑いで、特にマンガでなければ表現できない過剰さがあってこういうのは好きだなと思う。アジア的混沌にも見えるが実は絶妙な過剰さ加減。どんどん足し算で笑いを取る。引き算の美学に憧れるのは、自分が本質的に過剰志向だからだろう。

まあとりあえず自分探しはそのくらいにして話を元に戻す。天皇が自然に結びついた存在であるという指摘。これは言われてみて見落としていたなあと思った。各国の王権が実に人工的な感じがするのに、日本の天皇という存在は非常に自然に溶け込んでいる感じがする。日本の神話もそうだし、日本の聖堂=神社ほど自然に溶け込むことを目指した宗教建築は他にないだろう。天皇陵も緑の山と水の中に沈んでいて、王権の存在(のイメージ)自体が自然と一体化しているということが、天皇という存在の日本における何よりの強みなのではないかと思った。

鄭大均の発言で印象に残ったことは、帰化体験についてなのだけど、日本の進歩派は外国人が日本人になることを冷たく見る傾向がある、という指摘だ。それを鄭は「自分が日本人であることに自信がない人は、新しく日本人になった人たちにも冷淡なんでしょう」と言っていて、なるほどと思った。つまり彼らは日本人である自分たちがキライなのだ。これは即座に小路啓之『来世であいましょう』に出て来る池袋エチカという自分嫌いのキャラクターが「自分のことがキライなワタシを好きになる人をワタシは好きになれそうにないので…」というのだが、全くそれと同じなんだなと思う。思春期単二病である。単二とはよくつかわれる単一電池や単三電池と違い、何のために存在するのか分からないというアイデンティティ非確立症候群みたいなことの比喩らしい。

来世であいましょう 1 (バーズコミックス)
小路啓之
幻冬舎コミックス

世界の人に称賛されたり日本が好きだと言われると頭がまじまっ白になって日本を攻撃する韓国人や中国人がいると嬉しくなって元気になる人たちというのは全く理解できなかったが、どうもそんな未成熟状態なんだなと思うと少しは理解できた気がした。

小林は鄭に「以前親しくしていたけど対立して疎遠になった人たちと復縁すべきだ」と言われたらしい。私も15年来の小林の読者なのでそういうところがもったいないなと思うところはあったので、小林が鄭の忠告に耳が痛いものを感じたというのはよいことだなと思った。まあ今回、日本国籍取得以来疎遠になっていた金美齢と再び近づくきっかけができたのは、そういう忠告が生きたのかもしれないし、話してみればこの二人は本当にツーカーな感じがあって、そういうところの柔軟性を(本人の節を曲げないのはもちろんだが)もう少し持てるようになるとさらに大きな存在感を持てるのになと思う。

ペマ・ギャルボはずいぶん以前になるがTBSの関口宏のサンデーモーニングに出て硬派の発言をしていて印象に残ったのだが、しばらくして番組のカラーが一気に左翼化した後は見なくなっていた。彼はダライラマ法王庁の日本における代表を務めていたから、そんな彼が日本に帰化したという話を聞いたときには驚いたのだけど、今回この本を読んでそれまで無国籍だったということを知り、日本国籍を取得したいと思うのも無理はないと思った。それからこれは今回全く初めて知ったのだが、第二次世界大戦中、先代のダライ・ラマ政府との間で日本はかなり良い関係を築いていて、羊毛を日本に輸出したりしていたのだが、アメリカから連合国に味方するように言われて中立を宣言したために日本が負けたあと準敗戦国として扱われ、欧米も冷淡だったために中国も介入がないとみてチベットに侵攻し、まんまと占領したのだという。そういう意味では決してかかわりが薄いわけではないのだそうだ。

ビル・トッテンという人は初めて聞いたが、もうアメリカの悪口言いまくりでそういう意味で爽快感があったが、逆に中国や北朝鮮についてはその宣伝をうのみにしている感じがあってそれはやばいと思った。アメリカ国籍を捨てるときに領事館に行ったら日本の政府を騙してアメリカ国籍を持ち続けろと言われて喧嘩になったという話がそういうことってあるんだなとちょっと驚いた。でもそのくらいしたたかであってもおかしくはないなと思う、国際社会は。

金美齢との会話は本と旧友に再会したような感じで、今までのことは水に流すということができればいいのになと思った。

最後にペマ・ギャルボの震災に寄せたコメントで、ブータンとチベットでは翌日からお坊さんや閣僚クラスが各寺院と一人でも多くの人が救済されるようにとお祈りをした、というのを読んでじんとした。私は祈りの力というのを信じている、んだなあと改めて思った。

というわけで昨日から今日にかけて一気に読了。どうも小説とかファンタジーだけでなく、ときどきこういうものも読まないと自分の中でバランスが取れないなと思う。文学村やファンタジー村、芸術村にいる人の発言ばかり読んでいるとだんだん三つ目の国の二つ目のような、どうも居心地の悪い感じが出て来るのだけど、だからと言って政治村の人たちの発言もまたそう面白くはないわけで、でもこういう本もときどき読むと自分の中の風通しがよくなる感じがする。小林よしのりという人はやっぱり面白いなと思う。

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