書きたいことも書くための方法もその都度見つけなければならない
Posted at 11/05/12 PermaLink» Tweet
昨日の朝ラフスケッチをした短編小説を、今日は完成させようと思って書き始めたのだけど、小説の世界に入るということはなかなか難しい。ただその世界に没入すればいいというだけでなく、その世界を描くのにふさわしいタッチのようなものを見つけてそれを使いこなせるように練習しなければいけない。
小説の自由 (中公文庫) | |
保坂和志 | |
中央公論新社 |
これは保坂和志『小説の自由』で読んだことの応用でもある。今まで何か書こうとして、その世界に没入しようとしてもその世界を書く文法が見つからず、結局書けなかったり、自分の持っている文法で書けそうな世界を見つけて、書き始めてみたらそれは自分の書きたいこととは全然違っていた、というようなことを繰り返していた。書きたいことも、それを書くための方法も、その都度見つけなければならない、という保坂の指摘は自分にとってはひとつの天啓。それはとても手間がかかり過ぎてダメだ、という声も聞こえてきそうだけど、小説を書くなんてことはもともと手間の集積以外の何物でもない。もちろん手なれた文法で一丁上がりという書き方のできる人もいるだろうけど、少なくとも今の自分にはそれはできないし出来ればそういう方法はとりたくない。保坂のようなプロの作家にそういわれると、そういう方法でいいのだと安心させられる。
書きあぐねている人のための小説入門 | |
保坂和志 | |
草思社 |
数年前になるが、保坂の『書きあぐねている人の小説入門』という本を読んでこれもかなり参考になったことがあった。あの本で覚えているのはとにかく描写を心掛けろということだけで、今手元にないから確認できないけど、それはなぜそうしなければならないのかということがこの『小説の自由』には書かれている。年代もずれはあると思うけど、いつも自分の作品を書く節目に現れて来る人だなと思う。
マンガはコンスタントに読みたいのだが、なかなかそうもいかない。コミックスが出るのはだいたい月末だし、雑誌でも自分が読んでいるスーパージャンプ、ビックコミックは2周4週当たりに出る。モーニングは週刊だがゼロサムは月刊だし、2週目の真ん中あたりと4週目の真ん中あたりにマンガのまとめ読みの日がどうしても現れてしまう。昨日今日がそれで、ビックコミックとスーパージャンプとモーニングをまとめて読んだ。スーパージャンプでは「霊媒師いずな」と新連載の「ちゃりんこちんぷい」が面白かった。ビックコミックは特にこれというのはなし。モーニングでは「誰も寝てはならぬ」の最後から二つ目のコマに大笑い。ツボにはまった。「神の雫」自らの道程に誇りを持て、という話。もう一つどの雑誌の連載か今わからないのだけど音楽事務所のマネージャーの話がいいなと思う。
今日はまず昨日書いたラフスケッチに沿って書き始めたのだけど、なかなかラフスケッチ以上のことが書けない。書けば書くほど嘘くさくなって、途中まで書いて最初から書き直した。ラフでは牛のいない牛小屋を書いていたのに書き始めたらつい牛を出したりして、そうすると全然話が違ってしまう。まああたりまえなのだが、こんなことブログに書いてみると何バカなことやってるんだと思うだろうな。まあどんな仕事でもそうだが、本当にいろいろ考えてしまうようなことというのはブログに書いても仕方のないようなことなんだなと思う。
そうやって行きつ戻りつ書いていると、結局物語を書いているというよりはキャンパスの上に絵の具を重ねて行くような感じがしてくる。『小説の自由』にも、小説の言葉は評論や日常生活にも使われる言葉であるけれどもそれよりも絵画における絵の具や音楽における音に近いものだと書かれていて、そうだなと思う。
ダブリナーズ (新潮文庫) | |
ジェームズ・ジョイス | |
新潮社 |
『ダブリナーズ』「小さな雲」のみ。自分の日常をつまらないものと思い、他人に憧れて自分を見失うことの苦さ。この短編集はいろいろな人々を写し取っているけど、ずっと読んでいるとその背景にあるダブリンの街がおぼろげに見えてくる。アイルランドの首都であるこの街は当時の大英帝国の中では小さな田舎町にすぎず、黒っぽいくすんだ町なのだが、そのくすんだ町に寄せる愛と倦怠の入り混じったさまざまな感情の交錯がジョイスのタッチで塗り重ねられていく。絵画の連作のような短編集だなと思う。
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