二月に読んだ本について振り返っていたらいつの間にか自分の性格について考えていた
Posted at 11/04/27 PermaLink» Tweet
「今」の自分を知るために「今まで」の自分を振り返るという作業を続けているわけだけど、古い時代にだけ焦点を当てるのではなく、最近の自分にも焦点を当ててみようと思って、2月に読んだ本についてまとめてみることにした。
2月のブログを読み返して本に関するところをピックアップして、最初に気がついたのが買った(借りた)はいいけど読みかけで読まないままになってる本が多いということ。全部で10冊もあった。リストアップしてみると朝吹真理子『流跡』岡本綺堂『江戸情話集』植松二郎『一瞬で心が前向きになる賢者の言葉』和田秀樹『悩みグセをやめる九つの習慣』ビートたけし『教祖誕生』『日本は世界第五位の農業大国』『学術都市アレクサンドリア』倉橋由美子『聖少女』『リルケの文学世界』羽生善治『大局観』。小説が4冊ある。こう並べてみると方向性がばらばらで、つまり何かよくわからないけど行き詰っているものを感じていて、その突破口になるものをあれこれ探してみたのだけど、結局そっち方面では今はムリという感じになったんだなと思う。
結局小説で読んだのは一冊だけで、それが西村賢太「苦役列車」。この本を読むのもなんだか苦役だったのだけど、芥川賞作品は全部読むということを自分に課しているので何とかかんとか読み切ったという感じ。でもこの作品には何というか自分に共通するところやあるいは自分とはへえ違うなあというところがあって、そういう意味で参考になったり面白いなと思ったりしたところはある。こういう作品が書きたい、という意味での参考にはちょっとならない感じではあるけれども。
漫画で読んだのはヤマシタトモコ『ドントクライ、ガール』中村珍『羣青』野村宗弘『そういやの、カナ』の3本。しかしこれも考えてみると裸族の話とDV男を殺して逃走中のレズビアンのカップルの話、年の差離れた夫婦の若い嫁さんに食わせてもらっている職なし男の話、と考えてみたら現代のどろどろを掬い取ったような作品ばかりだった。ギャグだったりほのぼのだったりもするのだけど、その背景にあるのはそういう現代のある意味での重苦しさだったりするわけで、そういう意味では「苦役列車」と同じ系列だと言えなくもない。
新書で読んだ山岡拓『欲しがらない若者たち』もそういう現代の若者の特性を描いてはいるのだが、ちょっと表面的に流れている観があったのだけど、数日前に読んだ佐々木俊尚『キュレーションの時代』のビオトープ(小生態系)の考え方を導入して考えてみると結構腑に落ちるところが多かったりもする。何というかつまり、無意識のうちになのか、現代という時代を何とか理解しようという感じが自分の中にあるんだなと思う。あんまりよくわかってないなという感じが自分にあるからなんだけど。多分こういうことって自分にとっては苦手な方面なので、無意識に心を開かないようにしているところもあるのかもしれない。舟板一枚下は地獄というか、何というかあの津波にやられた街の写真の印象がこれらの作品と重なってきて、何だずいぶん前から現代という時代は被災しているんだなという気がした。何かそのくらいピンボケなところが自分にはあるなと思う。実際こういう本もわっかんねえなあとぶつぶつ言いながら読んでいる感じがある。
そういう中で、自分が読んで元気が出るというか、こういうふうにやりたいなあと思わせるのが宮崎駿関連の二冊。宮崎駿『風の帰る場所』酒井信『最後の国民作家 宮崎駿』。宮崎のように現代という時代をスパッと切れるほど自分がこの時代をちゃんと認識できているかと思うのだが、作家というのは別に認識しなければいけないというものではなくて、認識という理性的な働きとは少し違う、ここを押さえたらよくなる的なものをつかんで表現する方が大事なわけで、そういうものがつかめたらいいなと思う。宮崎の本の中に出てきたフィリパ・ピアス『真夜中のパーティー』というイギリスの児童文学の短編集は全部は読んではいないのだけど、でもこの感じは悪くないなと思った。やっぱりわくわく感のあるものはいいなあと思う。
アートに関する本では、何かのきっかけで四谷シモンのことを思い出して『人形作家』という本を読み、面白かったのでそれに関連してベルメールかバルテュスを読もう(見よう)と思って物色して、結局バルテュスにちょっとはまった。節子夫人による『バルテュスの優雅な生活』バルテュス画の『ミツ バルテュスによる40枚の絵』、英語の概説書『Barthus』の3冊。こういう感じの超時代的なアプローチが本当は時代を最も照射するのかもしれないとも思う。バルテュスの絵が面白いのは絵自体が物語的というより演劇的だからだなと思う。どれも舞台芸術の一場面を見ているようだ。それがどれもある種の悪夢のような場面であり、しかしそこに永遠性がある。見れば見るほどひきつけられて行くものがある。バルテュスはまだ読みかけの本があるのでまた読みたいと思う。
ある種のアートビジネスという意味で、ひさうちみちお『マンガの経済学』も面白かった。昨年の連ドラ『ゲゲゲの女房』では雑誌『ガロ』(をモデルにした雑誌)が取り上げられていたけど、あの時代から少しあとには南伸坊らが編集長になって面白主義に転換したという話はへえっと思ったが、それが80年代の一つの流れを作ったんだなとか思ったりもした。
2月に読んだ本で一番印象に残ったのは、間違いなく佐々木中『切りとれ、この祈る手を』であることは間違いない。読了後、さらに読み始めた大澤信亮『神的批評』と並んで、若手の批評家の熱のこもった批評にとても心を動かされた。自分たちが考えて、でもわっかんねえなあと思っていたようなことを、代わりに考えてくれたような感じで、何か助かったという感じがあった。
ただこういう本は、自分の中の基礎部分のくい打ちみたいなもので自分がやることにすぐに影響してくるというものでもないという感じではある。
特に安心したことの一つは、佐々木も大澤もオタクではないということだった。東浩紀とかを見ていて、現代という時代はおたくにならないと真の意味で生きていけないのだろうかという漠然とした不安を感じていたのだが、そんなことはないと力強くいわれたような感じがする。私だってオタク的なところは皆無とはいえないが、やはりオタク的な愛の込め方はちょっと自分にはできないなと引いてしまうところがある。そういう性格は現代社会不適応性格なのではないかとなんかある種の倒錯した悩みを抱きかけていたのだが、おたくでなくてこれだけのことを書ける若手がいるということを実感して、ああおたくでなくても現代社会でやっていくことは十分可能なんだなと安心した感じがあった。なんか変なこと書いてる感じもするが。
***
自分を知るという意味で、自分という人間の性格について考えていたのだけど、大きく言って二つの性格があるなと思った。一つは何でもおもしろがってそれを人に伝えたいという性格。そして自分はそういうものを探して来て表現できるんだという意識。いいものを作ろうというクリエーター的意識と言えばいいか。そういうある種特別の力を自分は持っているんだという思い込みというかそういうところがあって、そういうものを発揮しているときの自分が一番楽しいというところはある。
もう一つは舞台監督的というか、いろいろなものを調整してすべてをうまく動けるようにして行こうという性格。いろいろな人の話を聞いてアドバイスをしたり、システムの動きを調正したり、スケジュールや段取りを考えたり、とにかく「仕組み」とか「身の回り」というのがうまく動いて行くと生理的に気持ちいいし上手く動かず滞ってしまうと自分も倦怠してくるというところというか。その時その時でこの二つの面がかわりばんこに顔を出すというようなところがある。
表に立ってものを作っていくのも楽しいが、裏方に回って物事の動きを支えるのも悪くない、その支え方によってはだけど。
ああ、こういうふうに書いてみると『ずっとやりたかったことをやりなさい』に出て来るような話なんだなと思う。どちらが本当にやりたいかと言えばやはり前者だからなあ。
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