横浜は晴れていた/自分の書いてきたもの/書けなくなった時期とその理由
Posted at 11/04/26 PermaLink» Tweet
昨日。東京は朝は晴れていたけど昼前から少し雨もよいになり、風もあってちょっと荒れた天気に。朝友人からメールがあって横浜で会うことになったので、これはちょっと難儀かなと思いつつ、いろいろ物事を処していた。傘をさして、日本橋で食事をしようと思って少し早めに出かける。少し肌寒い。地下鉄の駅に着くとタッチの差で電車が出たところだった。東西線は普段5分に一本なので逃してもそんなに気にしないのだが、きのうは9分待つことになり、やられたと思う。電車が動いているだけありがたいことなのだが、不便だなと思ってしまう自分はいる。
そのせいで少し時間が押してきたのだけど、とりあえずまずお昼を食べようと日本橋で降りてプレッセの地下の「ゑん」で小海老と小柱の掻き揚げのお茶漬けを食す。軽めのものを、と思ったのだけどあんまり軽くなかった。でもスピーディーに食べられるので時間がない時にはちょうどいいかと思う。
あと6分、と思って店を出、東京駅まで歩いて改札近くまで行ったらあと1分になっててこれは間に合わない、となってしまった。しかしまあ仕方がないと思い栄松堂書店を少しのぞき、改札に入って東海道線ホームへ。ああ、東海道線は10分に一本あるんだ。地下鉄は間引きダイヤだがJR中距離電車はそういうこともなく、まあ予定より10分遅れで横浜へ。そのまま根岸線に乗ると遅れそうなのでみなとみらい線に乗り、終点の元町・中華街へ。ずいぶん深いところにあるのでいくつもエスカレーターを乗り継ぎ、地上に出るとアメリカ山へのエレベーターがあったのでそれに乗ると外人墓地の裏手に出た。これは石川町から歩くのに比べるとだいぶ早かったなと思う。山手本通りに出て突き当りが港の見える丘公園、公園内に入ると、まだバラは咲いていなかった。天気がよくて驚く。汗ばむくらい。東京と横浜でこんなに違うのかと。待ち合わせのローズガーデンえのき亭へ。私はこの店が好きなのだが、年末から改装していて入れなかったので久しぶり。友人は既に来ていて5時過ぎまで人形の話などした。私がブログで四谷シモンについて書いているのを読んで、四谷シモンの本を二冊貸してくれた。
夕方の元町の通りを歩く。どうも私は元町という町が好きで、歩いているだけですうっとする。山手本通りもいいけれども、下の通りもいい。お店をいろいろ冷やかして、友人は花屋で百合を買い、私は鉱物店で水晶を買った。それから通りを歩いてカフェラミルに入る。ラミルに入るのは久しぶりだな。それに、私はローズガーデンとか山の上系の喫茶店に入ることが多くて、元町の喫茶店にはあまり入った覚えがないのでなんか元町の中心にいる感じがしてそれがとてもよかった。
またみなとみらい線で横浜に出て友人と別れ、私はまっすぐ東京に戻り、新丸ビルの地下の「ゑん」で――ああ、きのうは昼夜「ゑん」だったんだ――夕食を買い、丸善で本を探して佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー携書、2010)を買った。
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書) | |
佐々木俊尚 | |
ディスカヴァー・トゥエンティワン |
帰りに携帯でツイッターを読んでいたら、スーちゃんの告別式で本人の肉声テープが流れたと知り、帰宅と同時にNHKをつける。そしたらランちゃんが弔辞を読んでて、次にスーちゃんのテープが流れた。聞いているうちに涙が出てくる。とても苦しそうな声なのに、一人一人に思いのたけを伝えようとしている。最初に震災の被災者へのメッセージ。自分が死のうとしているときに、向こうはスーちゃんのことをよく知っているだろうけどこちらからは顔が見えない多くの人を思いやっている。その気持ちに涙が出た。
入浴して夕食を食べてから、自分の書いたものの整理を始める。2007年から2008年初頭にかけて完成度はともかくずいぶん小説を書いている(長めのものは少ないが)ことに気がついて驚いた。08年の途中から10年のはじめにかけて小説を書けない時期が続いていた。10年の春過ぎからまた書き始めているけれども。その前をずっと振り返ってみると、82年ごろから芝居をやっていたので戯曲を書き始め、84年ごろにしばらく書けなくなって88年からまた書き始め、92年ごろに中断。それとは別に以前から書いていた詩に力をいれるようになって93年から94年にかけてずいぶん書いたが、94年の3月に中断。書かなくなったのか、書けなくなったのかは微妙。96年から大学院に行き始めたために98年まではフランス革命の論文を書いていた。94年ごろからニフティサーブを中心にネットをやるようになったが、99年の秋から詩のホームページを作って本格的にやり始める。最初にホームページに載せた作品は、93年から94年に掛けて書いたものを推敲して載せていた。しばらくは書いていたがだんだん詩が書けなくなって、評論を何本か書いたり。ちゃんと意識して長い小説を書き始めたのは2006年だ。
こうしてみると書いてきた期間だけはずいぶん長いし(そんなことは分かっているんだが)、ずいぶんたくさんのものを完成未完成含めて書いていて、また上演したりネットに載せたり公募の賞に応募したりいろいろ世間にアプローチを掛けたものもあれば手元においたままのものもある。いま読み直してみると未熟なものがほとんどだが、それでもこれは面白いなと思うものもいくつかあって自分なりに得るところがあった。未熟なものもそれはそれで可能性を秘めていて、手直しをすれば結構いけるんじゃないかと思うものもある。そんなことをずっと2時頃までやっていた。
途中何度も書けない時期があって、そのたびに何ヶ月かあるいは何年かブランクになったりしている。また表現形態の模索もずっと続いている。ただ結局、自分なりに書けたなと思うものは詩でも戯曲でも物語性がかなりプッシュされているし、小説でも戯曲でもポエジーがある。99年頃詩を書いていた頃に言葉を節約することにこだわっていた頃があって、それからしばらく変に切り口上的にしか文章が書けない時期があって、そのへんはちょっと反省点だなと思う。推敲していく過程で言葉を節約して言外に意味を持たせるということと最初からシンプルに切り詰めた文体にしていくということとが混同されていた。後者の方法を取ると書くものが余裕がなくぎすぎすしてしまって、少なくとも私には向かない。言葉が豊かな、ポエジーと物語性を持った文章。多分それは小説ということになるだろうけど、そういう文章を書いて行きたいなと整理してみる。
私が何度も書けなくなったきっかけは大体はっきりしていて、たいていは自分の書くものが批判されたときだ。あるいは有形無形に自分の書くものが否定されたときだ。これは本当に昔から乗り越えられない部分で、子どものときから自分の言ったことを否定されると本当に酷く落ち込んだし、そんなこと言うならもう知らねえや的な感じでそれまで一生懸命やっていたことをすぐ放棄したりしていた。そういえば子どものころ子ども新聞みたいなものを作っていて子ども会でもうそれはやめよう的なことを言われて泣いて抵抗したけど押し切られたということがあった。褒めて認めてくれる人があると嬉しくて一生懸命書くけど、否定されると全然ダメだ。まあそういうときはこちらが書く文章も未熟だったりマンネリに陥ってつまらなくなったりしてたよなと今では思うけど、それでも否定されたときの落ち込みは尋常じゃなかった。
ずっとやりたかったことを、やりなさい。 | |
ジュリア キャメロン | |
サンマーク出版 |
それが乗り越えられるようになってきた大きなひとつのきっかけはジュリア・キャメロン『ずっとやりたかったことをやりなさい』なのだ。彼女はとにかく自分の本当にやりたいことを思い出してそれを誰に遠慮することなくやれと言う。しかしあなたの周りにはたくさんの妨害者がいるとも言う。自分がかけないから未熟な人の作品を貶したがる人、自分の方針に無理に従わせることで書き手のたましいを萎縮させる人。作品を貶すのは作品に問題があるからだけではなく、読み手・受け取り手側の問題もかなりあるのだということが分かってきたことが大きいし、基本的にそんなものは受け流して自分の書きたいものを書けばいいんだということが納得できるようになってきたからだ。
つまり重要なのはスルー力なのだ。そういうものがスルーできるようになってくると、逆に自分の作品の弱点も見やすくなってくる。批判がスルーできないということは最大の批判者である自分の批判もスルーできないということなので、全然書けなくなってしまうのだ。自分の書きたいもの、自分の文章の美質などを見る、評価するということは実はそんなに簡単なことではない。人のマネをし多様な文章が素敵だなと書いたときには思っていたりするし、全然ダメだと思って書きさしにしたものが今読むと面白いじゃんと思ったりする。まあここまで長く書いてくると自分が自分の文章の老練な読者になってくるという面もあって、いいところを見つけやすくはなってくるが。スルーできるということは自分が自分の文章に対して客観的なポジションに立てるということでもあり、スルーできないということは文章が批判されると自分の人格すべてが否定されたように落ち込むということであるのでまあなかなか大変だ。
とここまで書いてみて思うのは、主に人の文章に対してだが、読んでいて腹が立ってくると言うことはあるということだ。下手さとか考え方の未熟さとか身勝手さとか腹が立つ理由はそれぞれだが、小説も多分そういうことはある。自分では自分なりの必然性があるからそういう文章を書くのだけど、読み手にその必然性が理解されないと何だこれはふざけるなということになる。まあそんなふうに考えてみると小説作品というのはむしろ腹を立てられるのがデフォルトというようなものなのかもしれないな。私が読んでいてもプロの作品でも読むのが苦痛なものは多いし読んでいてなんだこれはと思うものも多い。そういう作品にたくさんファンがついているのだから、理解されなくてデフォルトなんであって、理解されるためにはさまざまな手段を使って百万言を弄することが必要なんだろうと思う。昨日も書いたがツイッターでつぶやきを読んでいる作家の文章というのは共感しやすかったりするのだから、理解されない最大の要因は言葉が足りないからだと考えるべきなんだろうなと思う。いくら言葉を尽くしても理解されない人はもちろんたくさんいて、それは縁がなかったんだなと諦めるしかない。
それは、理解してくれる人に向けて自分の文章をより高めていくしかないわけで、でもまあいつか分かってくれるというふうには思ったりはしてるわけだけど。
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