『スタジオジブリ物語』:ファンタジーは世界を救えるか
Posted at 11/03/27 PermaLink» Tweet
やることがたくさんあるが、片付けているうちに次々新しいやることが出来てきてなかなか次に進まない。特に、ネットをやっていると切りがない。
見損なっていた「スタジオジブリ物語」を入手し、さっそく見た。特に前半部分が素晴らしい。ジブリを始める前の宮崎の活動については今までウィキペディアで読んだくらいの知識しかなかったが、実際の作品の映像や、影響を受けたロシアのアニメなどまで織り込まれていて、とても参考になった。また、今までよく分からなかった高畑勲と宮崎駿の対立点などもとてもはっきり描かれていて、それぞれの根拠についてかなりなるほどと思った。『千と千尋』まではとてもよく描かれていたのに、そのあとのことがほとんど描かれていなかったのは残念だったが、こちらはNHKでドキュメンタリーが作られたことと関係があるのだろうか。『ハウルの動く城』が全然出てこなかったことと、近藤喜文について、重要なキーマンだったことは描かれていてもその初めてにして唯一となった監督作品、『耳をすませば』についても描かれていなかったのは残念だった。また近藤を失ったことがジブリの将来についてどのような影響が出たかについてもちょっと描いてほしかったなと思う。まあ欲をいえばナウシカの作画を担当した庵野秀明なんかにも出てきてほしかったが、まあいろいろ差し障りや演出上の問題もあるのだろう。もっともっとえぐっていけばすごいことはどんどんでてくると思ったが、それでも前半部分はすごく感動的で、本当にものを作るというのがどういうことなのか、見ていてじんと来た。
高畑と宮崎の対立点というのは、要するにファンタジーというものをどうとらえるかというところにある。高畑はファンタジーについて否定的で、ファンタジーに酔うことによって現代人は等身大の自分が見えなくなってしまい、つまり自我を肥大化させてしまって「ムカつく」「キレる」という表現が簡単にされるようになってしまったのだ、という。宮崎は逆に等身大に留まろうとする自分をどこまでも引っ張っていくファンタジーの牽引力を信じている、今ある自分からなりたい自分に、「自分は変わることが出来る」というメッセージを送ることで、極端に言えば「世の中を変えること」が出来る、と考えているのだと思う。
二人の主張はそれぞれもっともだと思うし、それぞれ弱点もあると思う。ファンタジーがー原因だと言い切っていいかどうかは別として現代人の自我が肥大して現実に対する感受性が鈍くなっていることは事実だと思うし、宮崎のアニメがどんなにヒットしても世の中はちっともよくならない、というジレンマは確かにあると思う。メッセージは心の中のどこかにしまわれてしまって、現実の人々の行動には結びつかない。そういうある種の「哀しさ」が宮崎の作品にはあると、私も昨年はじめて宮崎の作品を見てはまっていた頃から思っていた。
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しかし商業的には宮崎の作品が次々と大当たりを取っていくのに対して高畑の作品は興行的にぱっとしない。今回初めて見たが『柳川堀割物語』というドキュメンタリーはすごいものだと思った。しかしこれはすごい質だとは思うが売れるとは到底思えない。また現実に密着しているとはいえ、やはり彼のイデオロギーが作品には如実に反映されていて、見ていて嫌になるところがある。『おもひでぽろぽろ』などはそういう理由で最後まで見られなかった。宮崎にももちろんイデオロギーはあるのだが、物語のもつ力、ファンタジーの持つ力がその嫌味を吹き飛ばしている。それでも『崖の上のポニョ』などは5歳の子どもが両親をファーストネームで呼び捨てにするというイデオロギーが引っかかったし、おそらくはそれで興行成績が『ハウル』に及ばないということになった。しかし高畑に比べてその現われは限定的だ。宮崎の主人公たちの持つ異様な熱さ、一途さ、互いを思いやる気持ち、その理想化された子どもたちはやはりファンタジーであり、それは宮崎のイデオロギーというよりは体質のようなもの、体臭のようなもの、体熱のようなものであって、見るものを巻き込んでいく力をもつ。そしてそれと対極のものを作ろうとした高畑の『ホーホケキョとなりの山田君』は大コケしてそれ以来高畑は監督を務めていない。
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これは結局宮崎の側に凱歌が上がったように見えるが、話はそう単純ではないのだと思う。つまり問題は、子供向けアニメというものがどういうものなのかということで、そして結局は資本主義社会の中でどちらが商品として成立しているかという問題でもあり、明らかに宮崎の『熱』と、溢れ出るような奇想天外なファンタジーの力というものがこの資本主義社会の中で商品性を持った結果だということに他ならない。もちろんそれも結果論なのだが。
現実の世界の動きの中で、彼らは作る作品のあり方をチェンジして来た。今回の震災もまた、その一つのきっかけとなるだろう。そういう意味では、彼らがこれからどのような作品を生み出すのか、震災というこの世界を震撼とさせる世界からの『問い』に対する『答え』を彼らがどう出すのか、弥が上にも注目される。
今日は午後から神保町と銀座に行った。そのことはまた明日にでも書こうと思う。
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