震災から一週間/原発が事故を起こし大地震で世界が滅びるという芝居/玉音放送(ビデオ)とか「曲学阿世の徒」とか
Posted at 11/03/18 PermaLink» Tweet
今回の大震災、先週の金曜日に発生してちょうど一週間が経った。それからずっと何か落ち着かない感じがして取れきれない疲れが続いていたような気がする。今日久しぶりにツイッターで馬鹿話をして相当和んだ。これだけの大被害、一週間ぐらいショックを受けるのは妥当なんだろうと思う。これからは復興に向けて歩きだしていければいいと思う。もう歩きだしている人もいるだろうし、もう少しショックに沈んでいる人もいるだろうけど、みんな少しずつ、少しずつ。
これはツイッターに書いたことなのだが、ここのところ不思議なヴィジョンが無意識のうちに浮かんでそれがなんだったのだろうと思ったのだけど、私は昭和の終わりごろ、原発が事故を起こして大地震で世界が滅ぶという芝居を書いて駒場で上演したことがあり、その場面が思い浮かぶのだということに気付いた。当時はチェルノブイリの原発事故の直後で反原発運動が盛り上がっていて、相原コージが『コージ苑』で広瀬隆『東京に原発を!』を取り上げていたりした。私も一通り勉強しようとそういうものも(斜めにだが)読んでみてずいぶん衝撃を受けた。日比谷公園で反原発デモとかあって、主催者発表で5万人くらい集まったのではないかと思う。
まあそんなこともあり、東京湾岸にある原子力発電所(もちろんフィクション)の所長がマッドサイエンティストで人類を一度滅亡させて再生する計画を立て、大和朝廷に滅ぼされた関東の豪族の子孫で地震を予知・発生させる能力を持つ少年を使って大地震を発生させ、その結果世界が滅びてしまうという芝居を書いたのだった。まあそこに朝鮮系ソ連人の美人スパイとかアンジェイ・ズラウスキ『狂気の愛』のキャラクターとか荒俣宏『帝都物語』の加藤保徳とかを登場させ、リリシズムと社会派と狂気と自然と大地の精とか老人と子どもの二人連れの神とかまあ今考えれば全く何でもありの怖いもの知らずの芝居を書いたのだった。最後は二人連れの神が「人類がいなくなって地球は静かになった」みたいなことを言ってエンド。私はそのマッドサイエンティストの原発所長を演じたのだが、そのことをツイートしたら爆笑された。
そういうことを思い出していたら何というか自分の真実というかそういうものが少し見えてきた気がした。昨日はどうも、被災地で孤立している人々の悲惨な状況を知り、何かしなければと募金詐欺が疑われるサイトに引っ掛かりかけたのだが、とりあえずそれは赤十字に1万円募金することで落ち着いた。今でもどこか大手にはできないきめ細かい活動をしているNPO団体にいくばくか力になりたいという気持ちは変わらないのだが、どこに寄付をすればいいのかはもう少し見極めた方がいいかなと思っている。これもまたツイッター上の友人(リアルでも昔の芝居仲間でその芝居以後の付き合いだが)に「今必要なのは、未来についての物語の書き手だ」と檄を飛ばされ、ちょっと我に返った。もちろんいつでもそうなのだが、その人にしかできないことがある人はその人にしかできないことをするべきなのだ。そしてそれが世の中を少し温め、少し明るくし、少し元気が出、少し癒され、少し勇気が出るようにできればいい。
昨日の天皇陛下のビデオ出演を「玉音放送」と言っている人がいたり、原発についての半可通な知識を振りまわして無駄なパニックを煽っている学者たちを「曲学阿世の徒」と呼んでいる人がいたり、瓦礫の山や窮乏生活に苦しんでいる人がいたり、世の中は昭和20年代のようだが、それはアナロジーにすぎず、現在は2011年だし日本は何かに負けたりはしていない。それに本当の意味での敵はいない。ツイッター上では情報が飛び交い、電気がつかなくてもその計画に黙々と従って人々は日常生活を送り、少々過剰に備蓄して物資の不足が見られたりしても基本的には何とか回っているし、被災地のガソリン不足にも新潟から次々とタンクローリーが送られて行く。まだまだ日常への復帰には遠いかもしれないが、日本は確実に立ち直りつつある。
大惨事を描いた作品に何があるかというのを思い出して、このような津波を描いたのは『崖の上のポニョ』だなと思った。この作品は人魚姫を題材に描いて、最後に自然と人間の和解という形でストーリーが終わる。なかなかそう簡単にはいかないにしても、人がもう少し自然に対して謙虚になり、また科学技術に対しても人がどんなに災害を想定してもそれ以上の自然災害は起こりうるという謙虚さとそれに備える心構えを取り戻したら、日本は震災前より少し住みよい、強い国として生まれ変わるだろう。その教訓を生かせるかは私立ち次第だが、特に政財界のリーダーたちの胆力にかかっていると言える。この事態に枝野官房長官のような少しでも期待のできる若手政治家が出てきたことは希望と言わずして何だろう。もちろん政治家が百点であろうはずはない(仕分けなど主義主張に関しては疑問も言いたいことも山ほどある)が、少なくとも危機に関して冷静沈着、言ってはならないことは言わず、言うべきことは言い、どんな質問にも誠実に答えられる範囲で答え、国民にもお願いすべきことはお願いすると言ったやるべきことのできる政治家が出てきたことは、後進の政治家たちの一つの手本となるだろう。今までの日本にはあまりに手本となるべき政治家がいなかった。もちろんまだまだ事態は予断を許さないが、うまく乗り切って日本の政治にルネッサンスをもたらすように祈りたい。
昨日のブログの内容もそうだが、どうも私の書くものや言うことは変に預言者的というかカルト的な感じになりやすくて、まあ何だなあと思っていたのだけど、むしろそういう個性を生かしたものを書くと考えた方がいいんじゃないかと昨日今日のプロセスから思うようになってきた。結構長い間自我というか自己というかにこだわって来たのだけど、まあそれはそれで意味があったと思うけれども、もっと発揮すべきはそういう側面じゃないかなと思えてきた。それが私という人間の、ものを書く上でもものをしゃべる上でも、仕様であるようだ。
***
無駄口は叩くまい。言い訳はすまい。
午後2時46分を過ぎた。黙祷。
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