隣組の組長/近藤史恵『サクリファイス』

Posted at 11/01/15 Comment(3)»

昨日。午前中にズボンの直しを取りに行ったついでに書店に行き、近藤史恵『サクリファイス』を買ったということは昨日書いたけど、ついでになぜかそこで売っていた南信州飯田工房製のベルトを一本買った。色は明るめのキャメルと言えばいいか。ありそうであまりなさそうな色。ベルトは何本も持っているのだけどときどきほしくなるのはなぜだろう。

少し早めに職場に行ったら、隣組に回す町内会の書類が届いていた。わが社は今年は隣組の組長なのだ。一軒一軒回って名簿を渡し、訂正してもらい、町内会の総会費を払ってもらう。私がこの仕事をやるのは初めてなので、はじめて回るおたくも多い。町場なのでお店が中心で、実際に住んでいる人は少ない。毛糸屋さん、画廊、食堂、美容室、レストラン、居酒屋。道のこちら側の店を回る。道の反対側の革物屋さんに持って行くと、道のそちら側はそちら側でやってくれるということで、今年の担当の隣の美容室のところに一緒に行ってくれて、預けてきた。3時ごろ回ったが留守のところは3軒。職場で仕事をしていたらちょうど去年の組長だった人が回覧板の板を届けてくれてついでに書類を渡し、これで隣組の用事がだいぶ片付いた。6時過ぎにあと二軒のレストランと居酒屋に行って一応完了。自分のところを含めて9軒なら、まあ何とかなるかなと。今年は小説の関係でもいろいろ用事を作って出かけることも多くなると思うのだが、とりあえずこのくらいの仕事なら何とかなるかなと思う。

仕事は夜9時半、定時まで。忙しさのピークはとりあえず越えたかなと思う。仕事上の懸案も一つ片付いた。帰ってきて夕食、母に愉気して入浴、就寝。いろいろ仕事をしたせいか、よく寝られた。

朝はあまり寒くなく、6時に目が覚めた。起きてすぐなぜか昨日買ったベルトの長さの調節がしたくなり、長さを合わせて鋏で切る。と、鋏の取っ手の部分がプラスチックでできているのだが、その取っ手が壊れて取れてしまった。鋏がこんな壊れ方をするのは初めて見た。しかしセロテープでぐるぐる巻きにしたら何とか使える。みんな普通何で切るんだろうか。そういえば今まではカッターナイフで切ってたな。まあとりあえず長さの調整を済ませてズボンに通してみる。割と手になじんでいい感じだ。それから、モーニングページを書きだす前に『サクリファイス』を読み始めてしまった。

サクリファイス (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社

この小説は自転車レースを題材にしている。私はこの競技のことをあまり知らないし、正直興味もあまりない。子どものころから本というものは、私にとって基本的には知識を得るために読むものだった。とにかくいろいろなことを知ることが楽しかったのだ。子どものころは物語とかを夢中になって読み、その中から色々なものを得ていたけれども、大人になってからはそういうわくわくするような物語や小説と出会うことも少なく、本というものはわくわくするような知識を得るために読むものになって行った。大学生のころとかは、渋沢龍彦とかが好きだった。ああいう衒学的な、それでいて感覚的で直接的な本が一番好きだった。昔は渋沢を本当によく読んだ(でもあまりなくて読めるのは限られていた)のだけど、昨日書店に行って読んでいない渋沢の本を見てもあまり触手が動かなかった。なぜなんだろうと思うのだけど、昔のようには「知識を得ること」そのものがわくわくすることではなくなったんだなと思う。10年ほど前の、ちょうどインターネットを始めたころに熱中していた白洲正子にしても、基本的にはそういう「知識を得る」という欲望を刺激するものだったのだなと思う。最近はあまり白洲にも触手が動かない。

話はずれたが、そういうわけなので、興味もないし知りもしない自転車の小説というものをとりあえず読む気になっただけで私にとってわりと画期的なことなのだ。これはまあ、知りたいこととか自分がすぐ没入できることが分かっているような題材や作家のものばかり読んでいても自分の書くものに広がりが出来ないという気持ちがある。また、知らない題材、没入しない題材の方が冷静に記述の仕方や描写の仕方が観察できるのではないかということだ。いま74/280ページまで進んだが、わりと上手くいっていると思う。こういう書き方、こういう持って行き方、こういう描写の仕方なら、あまり飽きさせずに読者を読ませることが出来るんだなという一つの基準として納得できる感じがした。

以下ネタバレもかなりあるので未読の方は要注意。

物語はけっこう淡々と進む。自転車レースの選手のタイプは、大きく分けてスプリントタイプと山登りタイプの二つがあるそうだ。主人公の白石誓(作中ではチカと呼ばれる)は山登りタイプ。今読んだところまで出てきた主要な選手は、同期でスプリントタイプの伊庭、先輩では山登りタイプの石尾、オールラウンダータイプの赤城だ。また自転車レースはチームで行われ、エースを勝たせるためにアシスト専門の選手がいる。舞台となったツールドジャポンでは白石はアシストとして参加し、エースの石尾や伊庭を勝たせるために先頭を走る。競輪で、先頭を走る選手は消耗するのでレースの際は先導専門の選手がいて勝負には関わらないということは知っていたが、自転車レースではアシストの選手がチームのエースを勝たせるためにそれぞれ交代しながら先頭を走るのだそうだ。こういう自転車競技特有のルールというかマナーというか風習というか、一般にはあまり知られていないこういうあり方をまず読者に説明しなければ小説にならないわけで、しかしこういう説明ばかりで魅力的な場面がなければ読んでしまう方は飽きてしまうわけで、そのあたりが作家の腕の見せ所ということになる。説明自体をいかに魅力的に読ませるものにするか。それは単に簡潔にすればいいというものでもなく、かといってわざとらしく面白おかしくすればいいというわけでもない。このあたりに関してはこの作者は過不足なく書けているなと思う。プロの作家に対してそういう評価は失礼なんだけど、自分があとを追う者としてそういう観察をしていると言うことをまあ一応書いておきたいと思う。

主人公の白石の人となりはまだ断片的にしか語られていないが、74ページまで来て急展開しそうな感じだ。「わからないんだ」「何が」「ゴールに一番に飛び込む意味が」……今まで個性的な選手たちについていろいろ書かれてきているけど、一番変なのは君だよ白石君、と思う。およそスポーツをやって(しかもほとんどプロと言っていい)一番になりたくない選手がいると言うこと自体が謎だ。もちろんそれがこの作品の骨格をなす主人公の人となりに大きく関わることであるし、それについての伏線もここまでにいろいろ張られてきているのだけど、その理由をどういうふうに読者に飲み込ませるかでこの作品の成否が決まる、というような感じがする。というわけでまだそこから先は読んでいないのだった。

10時半。今日は土曜なので仕事がはじまるのが早い。買い物にもいかなければいけないので、とりあえず今日はここまでにしておこうと思う。

"隣組の組長/近藤史恵『サクリファイス』"へのコメント

CommentData » Posted by f at 11/01/15

 こんばんは。私は『風の男』を読んで白洲次郎のファンになったクチです。以前勤めていた某センターの報告書の後書きに、彼のことをちょろっと書いたりしたことも(笑)。その時は東北電力に就職が決まった学生でも「ああ、なんか面接の時に聞かれたなあ」くらいの認知度でしたが、その数年後にNHKでドラマ化され、好評だったようです。夫妻が住んでいた武相荘は一度訪れたい場所です。
 『サクリファイス』はラスト、心が震えます!
 連続投稿、失礼致しました。

CommentData » Posted by kous37 at 11/01/16

>fさん
コメントどうも。私は武相荘は何度か行ったことがありますが、いいところですよ。私はオープンの時にお邪魔して、正子さんが使っていた着物で作ったクッションというのを買いました。今でもソファの上に乗っています。だんだん整備されて生活臭のようなものがなくなってきましたが、それでもいくたびに心が和む場所です。

『サクリファイス』、ラストは感動ですね。そのほかの感想については、今日(1/16)のブログに書きました。

CommentData » Posted by f at 11/01/16

感想読みました。私もチカの恋人が絡んでくるあたりになると、はぁ?となって、もっと納得できるエピソードにもっていけなかったもんかと、恋愛話のくだりいらないな、とか、そんな感想を書いたことを思い出しました(笑)。武相荘、今年は必ず行ってみます!
ではでは。

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