村上春樹は私にとってはあまりにメッセージ性の強い作家だ
Posted at 11/01/07 PermaLink» Comment(2)» Tweet
昨日は夜10時まで仕事。帰ってきて夕食、母に愉気、入浴、就寝。だいぶ冷えていた。星がきれいだった。寝る前に『ノルウェイの森』を読み進めて、現在上巻288/302ページ。第6章が長い。下巻の頭を見たら第6章(承前)とあった。こりゃ相当長い。つまりは阿美寮でのエピソードが終わりまで語られるということだろうか。第5章は阿美寮の直子からの手紙だけで10ページほどで終わってしまったから。
ノルウェイの森 上 (講談社文庫) | |
村上 春樹 | |
講談社 |
朝、暗いうちに目は覚めるのだがなかなか起きられない。寝床の中でいろいろなことを考える。『ノルウェイの森』は20歳から25歳ごろの自分のいろいろな出来事をよびさまさせる力を持っている。直子派か緑派かという選択がよく語られているが、この話は直子がいなかったら成り立たない。主人公はあくまで直子であって緑は『ハムレット』で言えば最後に出て来る隣国の王子のようなものだ。その存在感を大きくして主人公と比べられるようにしているということなのだと思う。
村上春樹は自分にとってはあまりにメッセージ性の強い作家だ。だから単純に好きとか嫌いとかいうことが出来ないのだ。あの当時、自分の周囲では村上春樹はわたせせいぞうみたいな要するに「トレンディ作家」というとらえ方をされていた。世間のとらえ方なんて馬鹿げているなと思う。当時は自分の心に届かないメッセージばかり見当違いのところに(左翼方面とか歴史方面とか)探していて、わずかに共振したアートの方に傾く自分もいたのだけど、実はいわゆる「メジャー」なところに自分の求めるものがあったんだ、ということを最近痛感している。いつの間にか身についたマイナー志向のようなものが実は本当に好きなもの、やりたいことに対する自分の目を曇らせていることに気がついたのは本当に最近のことで、まだ「流行ったから」見てないもの、読んでないものの中に自分にとって大切なものがまだまだあるのではないかという気がする。
村上が発しているメッセージとは何かというと、結局人が「よく生きる」とはどういうことかというソクラテス以来の正道の問題であって、村上はそれを考え続けている倫理性の高い作家なのだ。形式的に見ればいろいろな女性と不意に寝たりして道学的に見れば顔をしかめる人もあろうが現代において「よく生きる」と言う問題を考える上ではもちろんセックスの問題は避けて通れない。もちろん村上自身が扱っていない問題は実にたくさんあるし、その扱い方についての異論ももちろんたくさんあるのだけど、根本的にいま自分はこういうことが問題だと思うしこういう問題に対してはこういうふうに取り組んでこういうふうに生きていこうと思うなということを常に提示している。そういう倫理性の高さ、あるいは倫理性のありかに関して村上は孤高のところがあって、日本の文壇で評判が悪いのはそのせいだろうと思うし日本で売れるのも実はそういう理由なのではないかという気がした。村上のようにスタイルをまねて書く人はいくらでもいるが、村上のようなことを書ける人は実は村上しかいないのだ。自分のオリジナリティに誇りを持つ、ということを村上は『考える人』のインタビューで言っていたし、そしてそのオリジナリティーというものが日本ではあまり意味を持たないんだな、という感想も述べている。しかし買う側にとっては自分の書くべきこと、自分にしか書けないことを誠実に書き続けている村上という作家に対する信頼は厚い、ということなんだと思う。ま、あたりはずれはあるにしても。
今朝はマイナス8.1度。大分冷え込んだ。ついに部屋の水道が凍結し、午前10時50分現在まだ水が出ない。母屋の水道は出るので特に困るわけではないのだが、自室の水道が出ないと気軽に顔を洗ったり水を飲んだりできないのが面倒だ。寝床の中で愚図愚図いろいろ考えていたので起床したのは6時50分。それからモーニングページを書いて朝食を食べ、軽でごみを出しに行って足を延ばして職場のごみを捨て、帰ってきて考え事をしたりブログを書いたりしている。次の作品のテーマがだいぶ見えてきた気がするがまだまだ明確な形にならず、思いついたせりふややりとりを少し書いたりしている。しかし一つの小説にはならない全然角度の違うエピソードが出てきたりして、まだ星雲状態。考えをまとめるためには、まず『ノルウェイの森』を読み終わらなければならない、ような気もする。
***
ノルウェイの森 下 (講談社文庫) | |
村上 春樹 | |
講談社 |
午前中から午後にかけて『ノルウェイの森』を読み続け、現在下巻の107/293ページまで来た。つまり第7章まで読んだ。第6章は阿美寮の話、第7章はそれから帰った東京で緑と会って緑の父親の看病をし、そして緑の父親が死ぬまでの話。読めば読むほど、気持が昂揚してくる。続きを読みたいと言う気がしてくる。そうなるまでが大変だけど、そうなるとそのまま最後まで一気に読みたいと思うようになってくる。読んでいることが楽しい、と感じる小説は久しぶりかもしれないな。映画で「予習」してあっても小説を読めばもっと掘り下げられる。緑とワタナベの会話がホントに好きだ。
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CommentData » Posted by OWL at 11/01/07
またまたOWLです。
緑の父親といっしょにキウリを食べる場面はノルウェイの中でも、大好きな場面です。
CommentData » Posted by kous37 at 11/01/09
お返事遅くなりました。あの場面いいですよね。でもあの場面を読むと、私は病床の父のことを思い出します。嚥下がうまくいかず、誤嚥性肺炎を起こしてしまうので死ぬ前の3ヶ月くらい、ものを食べることが出来ませんでした。鼻からチューブで胃に直接送っていたのです。父はずっとそれを嫌がっていたのに、元気になるためだからと説得してそうしました。それでよかったのだろうかと今でも思うし、死ぬ直前まで胡瓜を食べられたなんて羨ましいなと思ってしまうんですね。でもあの場面がとてもリリカルでいい場面だな、ってことは思いますね。